循環共生型社会の構築に向けた「省エネルギー行動」変容の仕組み創り-なぜ「省エネルギー行動」が必要なのか/株式会社 アイ・グリッド・ソリューションズ
INSIGHT NOW! / 2017年1月23日 19時26分
株式会社 アイ・グリッド・ソリューションズ / 株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ
「省エネルギー行動」を社会規範のモデルのひとつとして確立することができれば、家庭や職場といった社会的属性や環境(の変化)に関わりなく、永続的な省エネ効果を蓄積することができます。2016年4月から始まった電力自由化は、多種多様な供給ソースから選択する煩雑さを伴いながらも、電気料金の低減ということでは、電力使用量を減らすのと同じくらい、家庭の財布の紐を引き締める良い機会となっています。
その一方、職場(特に業務部門)では、家庭と同様に電力自由化の恩恵は受けながらも、電力使用量の削減という意味においては、職場にある様々な設備の使い方(運用方法)が働く人数分あることから、「省エネルギー行動」を伴うオペレーションの改善を実践することによって享受できる省エネ効果は、少なくありません。特に、全国規模で多事業所をチェーン展開するサービス業にとっては、まずは、オペレーションの改善を推進することによって、莫大な費用を掛けて高効率設備に改修する投資を少しでも抑えることができます。
海外や国内における「省エネルギー行動」変容の研究
英国や米国では、心理学などの行動科学の知見を、マーケティング分野にとどまらず公共政策全般に応用する取り組みが拡がっており、注目を集めています。省エネルギーや環境対策もその応用分野の一つで、特に米国においては、2007年からBECC(人間行動・エネルギー・気候変動会議(=Behavior・Energy & Climate Change Conference)が毎年開催され、「省エネルギー行動」を促進する効果的な仕組み創りについて、幅広く議論されています(http://beccconference.org/)。
国内では、2014年2月24日に初めて開催されたBECC JAPAN 2014において、“省エネルギー活動における人間行動研究”の重要性が提唱されました。このことは、省エネルギー・低炭素社会の実現にあたり、人間の意識や行動を変容させる科学的な研究を喫緊で深める必要がある中で、工学のみならず経済学や教育学、心理学など様々な学問分野の横断的な知見活用が重要という見解に基づいています。家庭はもちろん、職場(企業)において「省エネルギー行動」変容の仕組み創りを進めることが、大きな投資を伴う高効率型設備への改修を促進するもう一つの省エネとは対極にありながらも、その効果と必要性には明確なものがあります。
中小規模チェーンにおける「省エネルギー行動」の実践と継続
株式会社アイ・グリッド・ソリューションズは、BECC JAPAN 2016にて、具体的な「省エネルギー行動」の実践と継続が成功する要因について、全国5600店舗における年間電力使用量10%前後の削減実績をもとに、その組織行動を定着させる仕組みの効果的な提案方法の事例を紹介しました。
(http://seeb.jp/wp-content/uploads/2016/10/2016BECC-2A2Nagashima.pdf)
一店舗あたりの年間光熱費は数百万円ですが、店舗数では全国54万、就業人口390万人に上る中小規模事業所の代表として、外食チェーンに焦点を当て、社会心理学的なアプローチにより、店舗責任者、社員、パート・アルバイトといった従業員グループを、シフト毎に役割分担を取り決めた省エネ組織として位置付けます。その組織において、「省エネルギー行動」を促進させるためには、単にエネルギーの使用状況をフィードバックするだけでなく、「省エネルギー行動」のプロセスや目標への達成度合を含めた情報を、組織内でどのように活用しながら、実践度を引き上げていくかについての仕組み創りが重要になります。
店舗役職者と従業員の意識変化
当社が「省エネルギー行動」変容をサポートする焼肉バイキング・チェーンでは、各テーブルでの調理や食材陳列用の冷蔵ケース、麺類などのセルフ調理機器など、エネルギー消費の大きな設備が少なくありません。
こういった店舗に対しては「省エネルギー行動」を促進させる仕組みの一環として“キックオフ研修”の場を設けて、施策(情報)を提供しますが、この研修直後から、店舗役職者と従業員のエネルギー消費に関する意識変化が顕著になり、営業面への波及効果にも表れてきます。それは、結果(情報)を継続的にフィードバックすることによって、更に強固なサイクルになります。
例えば、お客様が暑がっているか、寒がっているかを常に考えるようになり、汗を拭くとか、ドリンクを多く飲むとか、お客様の動作を常に観察しながら、店内で快適に過ごしていただけるように、客席の各所に設置してある温湿度計を定期的にチェックするなど、快適な店内環境創りに注力するようになります。また、食材が乾いたり冷めたりするのを防ぐために、冷蔵ケースの設定温度を余り低くし過ぎないようにするなど、単に光熱費を削減するという「省エネルギー行動」にとどまらず、その行動や活動が、お客様に良いサービスを提供することにも繋がるということを、店舗役職者と従業員は強く感じています。
省エネ活動で削減できた金額は、店舗の利益になるという考え方から、どこにムダがあるのかを常に考えて営業に励んでいる店舗役職者と、お客様と従業員の感じる温度が“異なること”を温湿度計の定期的なチェックから分かるようになった従業員の意識変化が、お客様の来店頻度を高めていただくための環境創り(目配り・気配り)にも大きく貢献し、また、省エネ組織の一体感にも繋がっています。
「省エネルギー行動」変容に関する環境省の取り組み
2017年度に概算要求おいて、環境省は『低炭素型の「省エネルギー行動」変容を促す情報発信(ナッジ)による自発的対策推進事業』に20億円の新規予算の計上を進めています。
これは、次世代に繋げる暮らし・社会の変革による地球温暖化対策の一環で、COP21のパリ協定を前提にした地球環境対策に繋がるものです。ここでは、中長期的な取り組みが前提とされ、大幅な温室効果ガス削減に向けた戦略的取り組みの一環として、行動科学を応用し、国民一人ひとりに配慮したライフスタイルの変革を促しながら、「省エネルギー行動」変容を醸成するために、家庭はもちろん、学校などの教育機関や職場(企業)などの業務部門もターゲットにした施策を事業推進することになります。
これまで大型投資を伴う高効率設備への改修に対する補助金ベースでの予算計上は珍しくありませんでしたが、「省エネルギー行動」変容を醸成するための委託事業費として予算計上を進める動きは、新たなアクションとして、いま注目を集めています。また、「省エネルギー行動」とは、“今そこにある設備”にオペレーションの改善を施すだけにとどまらず、その場を家庭として捉えた時、省エネ(高効率)型の家電製品に買い替える消費(者)行動を醸成することにも繋がります。
「省エネルギー行動」に情報発信(ナッジ)を組み合わせた省エネ対策が、電力自由化(電気料金の引き下げ)と同じレベルで、家庭や業務部門での電力使用量の削減に大きく貢献する将来も、そう遠くはありません。
(株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ エネルギー・リテラシー推進室 室長 長島 守)
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