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「同一労働同一賃金」は、新しい実力主義。/川口 雅裕

INSIGHT NOW! / 2017年1月30日 15時35分


        「同一労働同一賃金」は、新しい実力主義。/川口 雅裕

川口 雅裕 / 組織人事研究者

処遇は、公平が重要だ。しかし、責任・成果・職務の難易度・能力の違いなどを評価・測定し、具体的にどれくらいの差をつけるのが公平なのかを決めるのは難しい。公平というコンセプトは分りやすいし、「もっと公平に」と文句をつけるのも簡単だが、それらの差を数値化して給与・賞与・等級に反映したときに、誰もがうなづき納得するような結果が得られるような仕組みづくりは、無理といっていいくらいだ。配偶者・子供・住宅・資格・勤務地などに対する手当も多くの会社で支払われるが、これらは存在そのものが公平かどうかという議論の対象である。超過勤務手当にしても、それが効率の悪さの結果であったり、成果につながるはずのない内容であったりすれば短時間で成果を上げた者との公平性を損なってしまう。

このように、様々な状況に目配りしながら公平を保とうとすると、処遇制度はどんどん複雑になっていく。どういう経緯・背景で出来た仕組みなのかが、人事部員でさえ分からなくなってしまうほどだ。従業員も、どういう評価によってこの額になっていて、どんな手当がついているのかが分からなくなっている人が多くなる。複雑だから、どう頑張ればどれくらい報酬が上がるのかもよく分からない。その結果、使命や目標や職場環境といった動機づけはあるにしても、報酬による動機づけが弱まってしまっている。公平な処遇制度が持つ複雑さが、モチベーションの低下を招いていると言えるだろう。

複雑さを払拭すべく登場した「成果主義」「実力主義」は、「公平」に替わるコンセプトだったがうまくいかなかった。当時は、報酬は業績に連動する(給与・賞与は利益配分である)とすれば、モチベーションも向上するはずという理屈だったが、報酬が不安定になると従業員が不安を感じ、逆にモチベーションは低下すると考えられるようになった。ある程度の水準で安定しているのが、人は幸福感を感じるという指摘もある。そうして現状の処遇制度は、生活給という側面を残した複雑さを抱えながら、以前よりはやや利益配分の割合が大きくなった程度に収まっている。

「同一労働同一賃金」は、新しく登場した処遇制度をシンプルにするためのコンセプトと捉えることができる。業績や能力の評価が難しいのは依然として変わらないが、勤続年数や新卒入社・中途入社、正規・非正規、家族・資格・勤務地などによって変わる複雑な報酬の仕組みを、担当している仕事の質・量・難易度・責任といった基準で決めるように促すものだからだ。「公平」以外に軸となる思想がなく、その結果、複雑で個別の手当の意味などの説明が難しくなっている現在の処遇制度に比べて、一本の筋が通ったシンプルな仕組みになることが期待できる。また、処遇が不安定になることもないから、モチベーションの向上にもつながる可能性がある。

「同一労働同一賃金」は、新しい実力主義とも言えるだろう。本来、仕事に関係のない要素を、報酬を決める根拠から外すという点は同じ。違うのは、おおまかに言えば、業績(結果)に連動させるのではなく、労働の内容(プロセス)に連動させるという点だ。プロセスは結果ほどには大きく変動しないから、「同一労働同一賃金」は「報酬を比較的安定させることができる実力主義」なのである。今後を考えると、労働者の属性・状況が多様化していくので、処遇の公平を期すための継ぎはぎには早晩、限界がくる。仕事に関係のない要素で報酬を決めるのも、理解されなくなるだろう。そもそも「同一労働同一賃金」は先進諸国の常識で、これにいつまでも抗えるとは思えない。現行が、差別的処遇であると言われて言い返すのが難しいのも事実だ。何が同一労働かという難しい議論は継続して検討する課題とした上で、早めに「同一労働同一賃金」の思想を取り入れた処遇制度を導入するのが得策ではないだろうか。

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