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コンセプチュアル思考〈第20回〉 コンセプトの精錬法[2]~視点の移動・創出/村山 昇

INSIGHT NOW! / 2017年2月1日 7時10分


        コンセプチュアル思考〈第20回〉 コンセプトの精錬法[2]~視点の移動・創出/村山 昇

村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

コンセプトを研ぎ澄ませる方法を6つに分けて紹介しています。きょうはその2番目―――「視点の移動・創出」です。


◆2-a)見る位置を変える
物事を見る位置を変えることは、コンセプチュアル思考を鍛えるうえでもっとも基本的な作業です。

かつて、音楽を売りたいと考えている人たちは、演奏曲をレコードにして聴かせよう、買わせよう、としてきました。これは一つの視点です。しかし、あるとき、流行歌を伴奏に乗せて歌いたいという側に立って、音楽ビジネスを見た人がいました。 「カラオケ」という新しいジャンルのビジネスの誕生です。楽曲という一つの資源について、見る位置を変えることで売る方法はいくつも開発されます。

◆2-b)枠の外からながめる
私たちは通常、ある論理体系のなかで物事を考えています。いわば枠内での思考です。その枠からいったん自由になって物事を考えてみる。そうした枠はずしを壮大にやってのけたのが、地動説を唱えたコペルニクスであり、相対性理論を唱えたアインシュタインでした。「パラダイムシフト」と呼ばれる認識体系の大転換はまさにそうした非常識な視点移動から起こります。

規模は違えど、ビジネスの世界でも既存の枠からはずれたところの視点で画期的な考え方を打ち出す例はたくさんあります。例えば、米国のジレット社は、ひげ剃り用の安全カミソリを柄の本体部分と替え刃の部分とに分離する商品を発売しました。柄は繰り返し使うことができ、刃を換えていく。これが世に言う「消耗品ビジネス」「替え刃モデル」の起こりです。本体を製造原価に近い安値で売って広く普及させ、消耗品で利益を上げる。理想科学工業の年賀状印刷機『プリントゴッコ』や、任天堂のテレビゲーム機『ファミリーコンピュータ』はそのモデルの踏襲者でした。ビジネス史に残るビジネスモデル開発は例外なく、枠の外に視点を移してなされます。

◆2-c)寄って見る/引いて見る
ときに物事を微視(ミクロ)的に観察し、ときに物事を巨視(マクロ)的にながめる。そういう視点の移し方をやってみることでコンセプトは精錬されます。

例えば、広告の世界ではこれまでマス広告が主流でした。消費者全体をマクロでながめ、テレビや新聞、雑誌などマスメディアに広告を放つやり方で効果を上げていました。ところが最近では、一人一人の消費者をミクロで観察し、個々が接する電子メディア(ソーシャルネットワークサービスやスマートフォン向けアプリなど)に、本人の嗜好に合わせた広告情報を流すという行動ターゲティング広告を重要視してきています。テクノロジーの発達によって、顧客を個別に寄って見ることができるようになり、広告のあり方に大変化がおとずれています。

また、引いて見るということは、何も物理的なことに限りません。時間的なことについてもいえます。目先の変化の激しい時代に生きる私たちは、短い時間単位で物事をとらえる傾向がますます強くなっています。が、そういう時代であればこそ、もっと長い時間単位に引いたところからながめることで、新しいとらえ方に出合うときがあります。

さまざまな分野の識者が集う民間のシンクタンクであるローマクラブは、1972年『成長の限界』というレポートを発表しました。地球環境を100年、1000年の単位からながめ、人類の科学が信奉する「無限の成長」という概念に警鐘を鳴らし、「成長には限界がある」とのテーゼを提示しました。「サステイナブル(持続可能な)な地球」というコンセプトをいち早く世界に打ち出し、惑星レベル、文明レベルで環境問題へ視点を置いたその卓越さは、いまなお色あせません。


◆2-d)観点を起こす

柳宗悦は『民藝(民衆的工芸)』という概念の生みの親です。柳は日本とアジアの各地を回り、その風土から生まれた生活道具のなかに、用に則した「健全な美」を見出しました。それまでだれも見向きもしなかったところに、新しい「美の見方」や「美の価値観」を提示し、『民藝』という一つの芸術ジャンルをつくり出したのです。

そのように、何もなかったところに一つの観点を起こし、ある概念を打ち立てていくのが視点創出です。

ビジネスの世界でいえば、『味の素』は恰好の事例でしょう。味の基本要素が「甘味・塩味・酸味・苦味」の4つとされていたときに、池田菊苗博士は「だし」のおいしさに関心を寄せていました。そこに何か別の新しい基本味があるのではないかという観点を起こしたのです。そして昆布の煮汁から「うま味」成分を取り出すことに成功しました。そして大量生産の技術を確立させ、今日では調味料の一大分野となっています。

『民藝』にしても『味の素』にしても、ロジックからそれが生まれたのではありません。直観によって観点を起こすのが先にあり、科学的分析や論理が後からついてきて、発見・創造を助けたのでした。この順序はとても重要です。1981年にノーベル化学賞を受賞した福井謙一氏は次のように言っています───

「結局、突拍子もないようなところから生まれた新しい学問というのは、結論をある事柄から論理的に導けるという性質のものではないのです。では、何をもって新しい理論が生まれてくるのか。それは直観です。まず、直観が働き、そこから論理が構築されていく。
(中略)
だれでも導ける結論であれば、すでにだれかの手で引き出されていてもおかしくはありません。逆に、論理によらない直観的な選択によって出された結論というのは、だれにも真似ができない」。 ───『哲学の創造』PHP研究所より


ほんとうに独自なものを生み出すには、ロジックを超えて、直観という飛躍が必要になります。その直観の世界のひらめきはコンセプチュアル思考が担う分野です。





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