目標[1]~「目標を立てる」って必要なこと?/村山 昇
INSIGHT NOW! / 2017年2月5日 10時0分
村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング
〈S君からの相談〉
僕はなにか目標とか計画みたいなことに縛られるのがいやです。もちろん、学校で出された宿題はやるし、親から頼まれた手伝いもやります。でも、それ以外は自由にのんびり過ごしていたいです。ゲームをしたり、音楽を聴いたり、友達とスマホでおしゃべりをしたり、毎日の自由時間はそれなりに楽しいです。母親からは「なにかに打ち込みなさい」とよく言われますが、いま、特に打ち込んでいることとか、目指していることはありません。だいいち、自分がなにに打ち込めばいいかが思い浮かびません。こうやって過ごしていてはダメなんでしょうか?
〈Rさんからの相談〉
わたしは成績がごく普通の生徒です。がんばって勉強しても、平均点を取るのがせいぜいです。なので、人に言えるような立派な目標は立てられないし、立ててもできなければ自信をなくすことになるので、目標はなるべく立てないようにしています。目標って生きるために必要なものですか? そして、こういう考え方をするわたしはよくないですか?
わたしたちは日ごろ、いろいろと目標を立てます。───「今度の試験では●点以上取る」「次の大会では●位以上を目指す」「毎月本を1冊以上読む」「●●校の入学試験に合格する」「●●検定2級の資格を取る」「将来、●●の職業につく」など。目標とは「なにを・いつまでに・どの程度までやるか」という自分への約束です。
その約束は、言ってみれば、坂道をのぼり、ある地点をこえようとする負荷(ふか)です。当然、それはからだにもしんどいし、心にもしんどい。けれども、そのしんどさと引きかえに、得られることもたくさんあります。逆に、目標など立てず、過ごしたいように過ごすことは、坂をくだっていくのと同じでラクです。でも、くだっていく先で得られることは少ない。
さて、S君から目標についての相談がありました。きょうは次の2つの点から書きます。
□ 目標がないと人は怠(なま)けてしまう
□ 目標を自分でかかげ、達成していこうという「心の習慣」をつけよう
まず1点めについて。フランスの哲学者モンテーニュは次のように書いています───
「どんなに豊かな土地でも、遊ばせておくとそこにいろんな種類の無益(むえき)な雑草がたくさんはえてくる。・・・精神はなにかに没頭(ぼっとう)させられないと、あっちこっちと、ただぼーっとした想像の野原にだらしなく迷ってしまう。・・・確固たる目的をもたない精神は自分を失う・・・無為(むい)はつねにさまよう精神を生む」。 ───『エセー』より
一人一人の人間は、無限の可能性を秘めています。ただ、それは漫然(まんぜん)と過ごしてひらかれるものではありません。人類が月に行けたのはなぜでしょう。それは、月に宇宙船を着陸させるという目標を持ったからです。なんとなく科学を研究しているうちに実現したのではありません。同様に、「富士山に登ってやるぞ!」という目標をもたなければ、あなたはけっして富士山の頂上に立つことはありません。ちょっと散歩に出ますと言って、富士山に登った人はいないのです。
そのように人間は、なにかを決意し、そこに自分を集中させていくことで突き抜けた能力を発揮し、ことを成しとげるわけです。同時にそこには、感動があり、思い出が残ります。けれど、自分をただ野放しにしているだけでは、じゅうぶんな成長も達成も、ましてや感動もえられずに終わる生き方になってしまうでしょう。モンテーニュは多くの人の様子を観察した結果、このような言葉に到達したのです。
人は目標がないと怠けてしまう性質を持っています。自由という名のもとに漫然と過ごすことは、漂流する危険性とつねにとなり合わせです。もちろん、S君が言うように自由にのんびり過ごす時間はとても大切です。その時間のなかで、いろいろなものに触れ、体験し、自分の興味を広げていくことがあるのですから。そこから将来なりたい道を見つけることだってあるかもしれません。だから思うぞんぶん、自由な時間を楽しんでよいのです。
けれど、そのとき頭のなかにつねに置いてほしいのは、自分は「自由という心地のよいソファ」で寝ころがっているだけなのか、それとも「自由という望遠鏡」でなにかを探しだし、「自由という刀」を持ってなにかを彫刻しているのだろうか、という自分への投げかけです。自由というのは2つの使い方があって、1つはただひたっているだけの「消極的自由」。もう1つは縦横無尽に生かす「積極的自由」です。
次に2点めについて。目標というのは自分でかかげるところに大きな意味があります。あなたたちがいま、身につけるべきことのひとつは、なにかへの挑戦を自分に約束し、それをめざしていくことです。達成できれば次の目標を立てる。達成できなければ、目標を見なおして、まためざしていく。そういった「心の習慣」をつけることです。つまり、坂の上に目標となる旗を置き、それをこえていこうとする姿勢をとるのが、ごくふつうのことだと思えるようになることです。
S君は学校から出される宿題や親から言われる手伝いをきっちりやっています。これは基本として大事です。けれど、これらはいわば他人から「与えられた課題」です。やるべきことを自分で設けたものではありません。そのように「与えられた課題」をこなすことだけに慣れてしまうと、自発的に「自分がやりたいこと・めざしたい状態」を描く力が弱くなります。そういう人は、大人になって職業を持つようになっても、つねにやるべき仕事を他人から指示されないとできない状態になってしまいます。だから、もしS君が、言われたことはきちんとやっているのだから、それでじゅうぶんだと思っているのなら、実はじゅうぶんではないのです。
[文:村山 昇|イラスト:サカイシヤスシ]
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