コンセプチュアル思考〈第21回〉 コンセプトの精錬法[3]~ものさし変更/村山 昇
INSIGHT NOW! / 2017年2月16日 7時10分
村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング
コンセプトを研ぎ澄ませる方法を6つに分けて紹介しています。きょうはその3番目―――「ものさし変更」です。
◆3-a)目盛りを変える
私たちが物事を見るとき、そこにはたいてい価値を測ろうとする意識がはたらいています。例えば「それは損か得か」「AとBはどちらの価値が高いか低いか」「自分よりも上か下か」「それは右にあるか左にあるか」など。すなわち、自分の目には「ものさし」が付いているのです。そのものさしを柔軟的に変えることで、物事のとらえ方はちがってきます。その一つは、目盛りを変えることです。
例えば、米国の卸小売業コストコ社は、販売単位の目盛りを変えたことで、小売業の概念変えました。一般客に1個1個売るのではなく、1ダースや1箱というホールセール単位で売りはじめたのです。
◆3-b)目盛りをなくす
また、自分の目に付いたものさしを取っ払ってみると、不思議で新鮮な感覚を取り戻すことができます。
瀬戸内海に浮かぶ直島(香川県)には現代アートが島中に点在しています。そのなかの一作品『家プロジェクト|南寺』(ジェームズ・タレル創作、安藤忠雄設計)は、真っ暗な空間をモチーフにした作品です。鑑賞者はただ闇のなかに放り込まれるだけ。そこには右も左も、上も下も、前も後ろもありません。何が鑑賞すべきものであるのかもわかりません。鑑賞者は認識の目盛りをなくした状態でたたずむしかないのです。そうして10分ほどして見えてくるものは……? この作品は、知識や情報、先入観によって何かを評価するのでもなく、理解するのでもなく、ただ感じようとするその体験の時空そのものを作品化したものです。
◆3-c)目盛りをつける
『日本漢字能力検定』『江戸文化歴史検定』『あいさつ検定』……いまや検定試験は百花繚乱です。検定試験というのは、目盛りがなかったところに目盛りをつけるやり方です。「それをうまくできるかできないか」「それについてよく知っているか知っていないか」を漠とみていた世界に、レベルの仕切りを設けて、技能・知識の習得度合いをきちんと把握しようとする試みです。
また、定量化の新しい単位をつくりだすこともここに含まれます。例えば、口コミ情報の共感度・シェアの広がりを示す単位として、フェースブックは「いいね!」ボタンを発明しました。
◆3-d)白黒反転させる
自分が当てているものさしの「プラス」と「マイナス」を入れ替えることで、物事は劇的に変化することがあります。いわゆる逆転の発想です。
米国スリーエム社では、強力な接着剤の開発途中、偶然に粘着力の弱いのりができてしまいました。まったくの失敗作と周囲はネガティブな反応を示すなか、一人だけ、こののりにポジティブな可能性を見出した研究員がいました。そしてそれは今日、付箋紙の代名詞ともなった『ポスト・イット』に大化けしたのです。
同様に、ロッテ電子工業では、お菓子の酸化を防ぎ、長期間保存できるようにするための脱酸素剤を製造していました。ある日、生産効率を上げるための実験をしていたところ、脱酸素剤がひじょうに熱くなってしまいました。これではお菓子に使えないとするなか、ある開発者は、それを逆手にとって、保温する何かに使えると考えたのです。使い捨てカイロという新しい概念を生んだ『ホカロン』の誕生です。
さて、あなたが担当する商品・サービスに対し、あるいは、あなた自身の仕事・キャリアに対し、
○目盛りを変えてみたらどうなるでしょう?
○目盛りをなくしてみたらどうなるでしょう?
○目盛りをつけてみたらどうなるでしょう?
○白黒反転させてみたらどうなるでしょう?
“コンセプト硬化症”に効くエクササイズとして「ものさし変更」をお勧めします。
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