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コンセプチュアル思考〈第22回〉 コンセプトの精錬法[4]~置き換え/村山 昇

INSIGHT NOW! / 2017年3月1日 7時15分


        コンセプチュアル思考〈第22回〉 コンセプトの精錬法[4]~置き換え/村山 昇

村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

コンセプトを精錬する方法を6つに分けて紹介しています。きょうはその4番目―――「置き換え」です。


◆4-a)土俵を変える
考えようとする対象の置き場所・置き方を変えてみることで、何か違ったものが見えてきたり、新しい概念へと発展したりすることがあります。

大塚製薬は病院向けの点滴注射液で業界トップの企業です。生理的に身体によく吸収される液体の製品技術を医療用という土俵以外にも広げたい。そこで目を付けたのが、一般消費者向けの飲料市場だったのです。「スポーツドリンク」という概念を起こした『ポカリスエット』は、土俵を変えることで生まれた商品です。

◆4-b)文脈を変える
ピーター・ドラッカーの著書『マネジメント』のなかに、イヌイット(カナダ北部などの氷雪地帯に住む民族)に冷蔵庫を売ったセールスパーソンの話が出てきます。屋内でも暖房の入っていない部屋では、簡単に物が凍る地域でなぜ冷蔵庫を売ることができたのか。───それは物を冷蔵するための製品ではなく、物が凍結しないようにする食物庫として売り出したからです。すなわち、文脈を変えて訴求したのです。ドラッカーはこう書いています。

「イヌイットに対して、食物の凍結防止のためとして冷蔵庫を売ることは、新しいプロセスの開発や新しい製品の発明に劣らないイノベーションである。(中略)イノベーションとは発明そのものではない。それは、技術ではなく経済や社会のコンセプトである」。

日清食品の『カップヌードル』も米国市場進出の際に、商品を訴求する文脈を変えることで成功を収めました。同社は当初、ラーメンを前面に押し出して売りましたが、なじみのない食品に、米国人の反応はいまひとつでした。しかし、「彼らはスープにはなじみがある」───そう思って、汁のなかに麺が入ったスープヌードルとして売り出したところ一気に人気商品となったのです。文脈を変えたところで新しいコンセプトで売り出す。これもドラッカーが言うところの立派なイノベーションです。

◆4-c)形態・様式を変える
物事の本来ある形態とは異なった形態を想像してみることで何かが見えてくることがあります。

例えば「ギフト券」は、購買の形・贈答の形を変えた典型です。重くてかさばるお米は贈答には向いていませんでした。そこに「お米券」という形態を持ち込むことで、「お米も贈答品」という考え方を人びとに浸透させることができました。

また、「図書券」のように個人の興味・嗜好がわかりづらい書籍に適用することにもメリットがありました。結婚式の引き出物に「カタログギフト」を渡すことも広まっています。かつて参加者は宴会後に、大きな紙袋を両手に持って帰るという風景がありましたが、カタログギフトによってそうしたイメージも変わりつつあります。

さらに、人びとがふつうに行っている様式を変えてみるところにも、既成概念を打ち破る隙間が隠れています。例えば、ダスキンはぞうきんやモップを、自前のものを洗って繰り返し使うという様式から、レンタルするという様式に考えました。そうじの概念を変えた着想でした。

また、伊藤園の『お~いお茶』もそうです。ひところ昔は、お茶は自宅でつくって水筒に入れて持ってくるのがごく普通でしたが、いまやお茶はペットボトルで買って飲むというスタイルが定着しました。発売当初、誰がお茶にお金出して飲むんだという声が大半でしたが、『お~いお茶』は見事にそれをくつがえしました。


イノベーションは技術革新と訳されることも多いですが、このように「置き換え」によって、その商品・サービスが見事に新しい概念として力を持つということが起こりえます。必ずしも技術的な革新がなくても、です。あなたの担当する商品・サービスは、あなたのコンセプチュアル思考によって、「置き換えられる」ことを待ち望んでいるかもしれません。さぁ、置き換えてみましょう。



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