サービスの組織力向上の3つの観点 (2) 【連載サービスサイエンス:第25回】/松井 拓己
INSIGHT NOW! / 2017年4月11日 0時0分
松井 拓己 / 松井サービスコンサルティング
前回の記事で、サービス向上の方向性を分解してみたところ、経営に貢献するような成果に繋げるためには、努力の方向を「得点型」に切り替える必要があると分かりました。
得点型の顧客満足度調査は、「平均値」を見ない
顧客満足度の目標値として、平均値や「やや満足」と「大満足」の合算値を据えていることが多いものです。平均値や合算値が上昇するということは、「不満が減る」という意味では良い目標だと言えるかもしれません。しかしこれは「失点」を減らしたにすぎず、「得点」が増えたとは言えません。顧客満足の平均値が上昇しても、「大満足」したお客様が増えていなければ意味がないのです。これに気付かずに、顧客満足度の平均値が少しずつ向上しているからと安心して活動を続けていても、なかなか成果は出てこないことでしょう。そして最終的には「CS活動を長年続けてみたものの、結局はコストがかかるだけで経営貢献に繋がる成果が出なかった」という不本意な結果になりかねません。
CS向上の目的をリピートオーダーの獲得とする場合には、顧客満足度の目標は平均値を高めることではなく、大満足のお客様を増やすことです。つまり、取り組みの目標を「CSの平均値をいかに高めるか」から、「やや満足のお客様にいかに大満足していただくか」に切り替えて組むことが極めて効果的です。しかも、「やや満足のお客様」は、個人名や会社名が分かっても、「どうしたら大満足していただけるか」は分かりません。それよりもむしろ、「どんな事前期待を持った方が、やや満足と答えたのか」を知る必要があるのです。
このように、得点型の顧客満足度調査を推進するためには、これまでの取り組み方を大きく変えなければならないと分かります。
得点型のサービス品質向上は、評価項目が違う
多くの企業で取り組まれているのがサービス品質向上の取り組みです。この取り組み方も、失点をなくすことに注力されていることが多いため、得点型に切り替えることで大きな成果に繋がることがよくあります。
例えばサービスの現場の品質を頻繁にチェックして、品質指標の推移をウォッチしている企業は多いと思います。あるいは、ミステリーショッパーやミステリーコールを活用して、サービス品質をスコア化して評価しているかもしれません。そのチェック項目を見返してみてください。
ミスはなかったか?お待たせしなかったか?無礼はなかったか?といった具合に、「失点していないかのチェック項目」がズラッと並んでいることに気付きます。一方、得点を評価する項目はと言えばごく一部。しかも、ホスピタリティを感じましたか?といった極めて曖昧な評価しかできていないことが多いようです。
もちろん失点をなくすことは大切ですが、失点チェックばかりでは、ミスをしないことばかり気になってしまい、現場が気の利いた得点型の対応をして大満足のお客様、リピーターのお客様を増やすためのアクションができません。これからは、得点型のアクションも評価できるサービス品質の項目も盛り込みたいものです。
そこで参考になるのが、以前紹介した「サービス品質の6要素」です。具体的には、正確性、迅速性、柔軟性、共感性、安心感、好印象の6つです。この中でも、正確性、迅速性、好印象はお客様にしてみれば「当たり前」であることが多く、失点しないためのサービス品質と言えます。一方で、柔軟性、共感性、安心感は、得点型の評価を頂ける可能性の高い項目です。この6つを意識して、得点型のアクションも評価できるバランスの良いサービス品質向上を進めて頂ければと思います。
得点型の取り組みは、失点をなくしてから?
「失点をなくす」と「得点を増やす」ことについてお話しすると、「うちはまだまだ失点が多いから、得点型はまだ早いのでは」と質問をいただくことがあります。確かに、クレームが毎日頻発している状況では、得点型の努力をしている場合ではないかもしれません。
しかし、得点を増やす努力は、完全に失点をなくしてから行うべきなのでしょうか?
実はそう呑気なことは言っていられません。今の時代、お客様は「失点がない」だけでは大満足をしてくれません。そこで、失点をなくす努力を継続しながらでも、得点を増やす取り組みを進めなければならないのです。これからは、いかに得点を増やすことができるかが顧客サービスの競争の土俵になってきます。得点型の取り組みに舵を切り、他社に大きな差を付けて、お客様に選ばれ続ける。そんなサービスをぜひ実現していただければと思います。
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