若いうちに哲学を:老いて後悔しないために/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2017年4月10日 12時33分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
/哲学は、動物園のようなもの。自分とは生き方が違うからおもしろい。しかし、それはまた旅行のようなもの。おもしろいからといって、いつまでもふらふらやっていては、自分の居場所の無い放浪者になってしまう。だから、それは、恋人探し、家探しのようなもの。早まるな、しかし、タイミングを逃すな。いろいろ知った上で、ほんとうの自分の道を見つけよう。/
哲学は、人々の考え方を学ぶ。したがって、たとえ自分とは違う考え方であっても、世の中にはそういう考え方もある、として、客観的かつ冷静に受け止められる知的度量が求められる。
もちろんその中には奇妙な考え方も少なくない。だが、ときには自分の考え方の偏狭さを思い知らされるものもある。また、一見、とても奇妙でも、よくよく考えると、いまの自分には、それを否定することができる証拠がない、ということに気付かされるかもしれない。いずれにせよ、すぐに相手を言い負かして黙らそうとしたりするのではなく、まず自分の方が黙って話を聞き、それをきちんと理解することが大切だ。対象を理解もせずに、まともに検証や否定などできない。
つまり、哲学は、人間の多様な思想というものを、ゾウやライオンのように観察する。それらは、たとえ奇妙な生態であっても、たとえ自分とは違っても、歴史上、世界の中に生息してきたものであり、また、いまもどこかに生き残っているものだ。もしかすると、きみがそれに捕らえられているのかもしれない。
牛が草ばかり食べ、ライオンが肉しか食べないとしても、それをまちがっていると言えるだろうか。考え方は、生き方につながる。自分の考え方、生き方とちがうのは、それが自分とはちがう別の存在だからであり、別の存在である以上、別の考え方、別の生き方をしているほうがむしろ当然。そして、別の考え方、別の生き方なのだから、よういには理解できないのも当たり前だろう。
ところが、きみは、牛やライオンと同じ世界に暮らしている。連中のことがわからない、わかるわけがない、と開き直っていると、きみは、自分の草を先に牛に食べられ、きみ自身がライオンの餌食になってしまう。わからないでは、済まないのだ。わからないならわからないなりに、どうわからないのか、わからないとならない。こんな時間にこんなところをウロウロしていると、ライオンが襲ってくるかもしれない、ていどには、ライオンのことを理解しておかないと、きみは生きていけない。
しかし、人間は、みなムダにプライドが高い。自分の考えと違う考え方を聞かされただけで、まるで自分自身まで根幹から否定されたように拒絶する者もいる。だから、虚勢に凝り固まって、心の余裕の無い者は、哲学できない。そうではなく、ほう、そういう考え方をする人も、この世の中にはいるのか、と、自分自身の心、知的世界を拡張していける者だけが、この広大で歴史的な人類の知の世界を楽しむことができる。
とはいえ、実際のところ、哲学者で幸せそうな者は多くない。それは、旅行ばかりしていて、自分の家が無い無限の放浪者に似ている。旅行のように、他人の生活、他人の考え方を知ることは、興味深い。しかし、他人の生活や考え方を知っているだけでは、自分自身は空っぽも同然。若いうちに旅行や哲学でいろいろ見聞を広め、そのうえで、その後には、そのどこかに、もしくは、自分で新たに切り拓いたところに腰を据え、落ち着いて自分自身の生活、自分自身の考え方を実際に作っていかなければならない。
見聞も無しに、若いうちから狭い了見の自分自身に凝り固まると、のちにおおいに悔やむことになるだろう。後になって、なんだ、もっと別の生き方、考え方があったじゃないか、と気付いても、人生は取り返しがつかない。だが、同様に、いつまでもあちこちほっつき歩いて、おもしろおかしくやっているうちに、人生の大半を費やしてしまい、結局、自分自身の居場所すら無い、というのは、あまりに惨めだ。老いて、あのとき決断していれば、と思っても、失った時間は取り戻せはしない。
哲学を学ぶなら、若いうちだ。自分では思いもつかないような生き方、考え方を、まずはできるだけ広く多く集め知ろう。そして、その長所短所をよく検討しておこう。この基礎があった上でこそ、きみは後悔の無い自分自身の道を見つけることができる。早まるな、しかし、タイミングを逃すな。哲学は、恋人探し、家探しと同じ。いろいろ知った上で、ほんとうのチャンスを掴もう。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『アマテラスの黄金』などがある。)
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