日本型調達購買改革の復活/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2017年5月10日 10時51分
![日本型調達購買改革の復活/野町 直弘](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_9616_0-small.jpg)
野町 直弘 / 株式会社クニエ
何回か述べてきましたが、2000年当時からの調達購買改革の流れは欧米型改革が中心でした。サプライヤ集約、競合化、集中購買推進、業務の集中化等などの手法により従来は単なるコストセンターであった調達購買部門をプロフィットを生み出す部門にさせたのです。
一方でこの数年は異なった流れが出てきています。
一つはサプライヤマネジメントです。
サプライヤマネジメントとは、供給市場分析を元にサプライヤとの関係性を戦略的にとらえ、強固なサプライチェーンを共に築き上げるための囲い込みやモチベーション向上などの施策を打っていくことです。ここではサプライヤとの対等な関係づくり、双方向性が重要となります。
例えば評価が高いがこちらを向いてくれないサプライヤA社と、評価はA社に劣るもののこちらを向いて協力的であり、サプライヤのトップとの信頼関係も強いB社、どちらを大切にしますか?という問いがあったとしましょう。それに対して、もちろんB社です、と即答でき、評価が低い部分はサプライヤB社と一緒に改善を進めていきます、という企業が増えているのです。
従来日本型サプライチェーンの構造はどちらかというと社内の生産能力不足を補うために自社の生産を外注化する形で作られていきました。そのため元々はサプライチェーン全体で生産性を上げて競争力を強化することが求められていたのです。日本型の系列取引は正にこのような構造から生まれてきたものです。
一方で、自社製品の技術の進化・複雑化により従来の外注化の構造とは異なった形で自社にない技術やサービス、製造能力を外に求めるようになり、サプライヤを技術の補完先やソース先としてみる新たな関係性づくりが求められるようになったのです。
一方で国内の外注構造はリストラクチャリングが求められるようになりどちらかというと従来型の外注構造の再編が進んだのが90年代後半から2000年代の前半でした。
経済産業研究所が発行している2015年のレポートで日本の完成車メーカーと一次サプライヤとの取引構造について1989年から2010年まで分析しています。そのレポートではこのような分析結果を提示しています。
1.取引のオープン化は期間を通じて少しずつ進んでいる。その要因となっているのは完成車メーカーが取引先を増やしているのではなくサプライヤが取引先を増やしていることによる
2.オープン化よりも早いペースで完成車メーカーと既存サプライヤの取引関係の組み換えが起きている。
3.長期的な取引を維持している部品、サプライヤも多いが、一方で数年程度の短期間の取引をするサプライヤが増えている。
このレポートはあくまでも日本国内での取引に限定して分析をしていますがグローバル化により、一層の新規サプライヤや系列外サプライヤとの取引を増やすことにつながっていることでしょう。このように系列取引が重視されてきた自動車業界でもオープン化やサプライヤの見直しが行われている状況が理解できます。
上記のレポートの様に当初は欧米型集中購買、競争化、新規サプライヤ開拓からスタートした調達購買改革ですが、昨今はそれに加えて新しいサプライヤや系列外サプライヤ、グローバルでの現地サプライヤなどとの新しい関係性づくりが求められ始めているのでしょう。そういう点からもサプライヤマネジメントがより重視されています。またこの流れは「日本型調達購買改革への回帰」と言えるでしょう。
また一方で、ユーザーマネジメントの強化という流れも出てきています。開発購買はユーザーマネジメントの一手法ですが、欧米で開発購買というコンセプトはあまり聞きません。
欧米は職業の専門化が日本よりも進んでいる為、エンジニアが仕様を決め、それを安く買うのが調達購買の仕事である、という理解がベースにあるからです。しかしここ数年の日本企業の流れとしては「価格は仕様が決まった段階で80%は決まる」ということから「如何に安価に仕様決定(開発)させるか」が重視され始めています。そして上流への関与や開発への提案機能がより重視されてきました。
このような開発購買の活動は特に自動車メーカーのデザインインとか、コンカレントエンジニアリングと言った活動に代表されるように日本企業の得意分野と言えます。しかしこのような開発購買、ユーザーマネジメント活動は特定の企業や業種では上手く機能しているものの、多くの企業では十数年来の課題として残されているのが現実です。また最近では上流関与を部品や原材料以外の間接材やサービスで志向する企業も増えています。
つまり開発部門だけでなく要求元(施策元、ユーザー)までその対象を広げ支出の最適化に寄与するというユーザーマネジメントという活動の推進が求められているのです。このような開発購買、ユーザーマネジメントの活動も「日本型調達購買改革手法」と言えるでしょう。
このように最近は「欧米型手法」に加えて「日本型調達購買改革手法への回帰」が重要なポイントになってきているのです。ここでの重要なポイントは「カテゴリマネジメント」「サプライヤマネジメント」「ユーザーマネジメント」の3つのマネジメントをいかにバランスさせていくか、ということです。
昨今の流れとして従来の自動車、電機などの量産系ものづくりだけでなく半量産系や受注生産系などの製品事業においても開発購買を如何に進めていくか、という点を多くの企業が課題認識しています。次回は特に今後の課題として事業、製品戦略と調達戦略の同期化について述べましょう。
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