礼節の大切さ:コミュニケイションのプロトコル/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2017年5月30日 7時11分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
ちかごろは親がかりの学生風情でも、教員にタメ口をきく。学校の外でもそうらしい。それはたんに敬語が使えないとかいう問題ではない。社会人としての礼節という概念が根本から欠けている。育ちが知れて、呆れるばかり。
人間は平等だ。それぞれの人に、それぞれの尺度があり、あれこれ人に強制される筋合いは無い。たしかに、そうだ。しかし、だからといって、高圧的に、オレさまの尺度に合わせろ、というのは、どうか。それはそれで傍若無人に他人の人権を侵害するヤクザと同じ。コミュニケイションのしようが無い。
どこかの国は、この調子でミサイルをぶっぱなしまくっているが、これではまともな外交は成り立たない。自分の国だけでなく、どこの相手の国にも自尊心はある。みな、自分の国が一番、絶対に正しい、と思っている。だからこそ、相手の国も尊重するのでなければ、交渉の糸口も見つからない。
サミットなど、複数の国が席を同じくするのは大変だ。どこの国でも、自分が中心だと思っている。だからと言って、こんなこと、話し合いでは解決しない。いろいろな尺度を持ち出してきて、うちの方が上だ、ということになる。そして、さらに、どっちの尺度が上か、言い争うことになる。
それで、そうならないように、国際プロトコルというのが決められている。形式的に、あくまでたんに形式的に、内容のコミュニケイション以前に、コミュニケイションの方法が取り決められている。議長は持ち回り、いつどこで、は、議長一任。そして、席次。ホスト国を第一に、あとは、国の大小にかかわらず、皇帝(天皇)、国王、大統領、首相の順。同格複数なら、日付として先に就任した方が上。並ぶときは、中央から左右左右(客席から見て)に。
映画やテレビのクレジット(出演者やスタッフの明記)順も大騒ぎ。一般の人でも、結婚披露宴の席次や挨拶は頭を悩ますところ。順序を間違えると、なんでオレがあんなやつより下格扱いなんだ! と切れるのが出てくる。だって、オレさまの好き嫌いからすれば、なんてことをやったら、まるまる敵意の標的にされる。ヘタに上席にされた方だって、逆恨みのとばっちりを受けかねないから、欠席退席ということに。だから、こういうときは、あれこれ自分の尺度で測ったりせず、世間のプロトコルに従っておくのが無難。
でも、いつの時代も、身の程知らずのバカガキは、たんに礼儀知らずである以上に、あえての下克上が大好き。オレさまがルールを作る。オレさまの尺度に従え。しかし、実際のところ、やつらは本音ではむしろ古いプロトコルの尺度にこそ忠実敏感で、「偉い人」にマウンティングをすることで、自分がのし上がろうと思っている。だが、そういうプロトコル破りは、上を踏みつけただけでなく、世間すべてを敵に回す。
古代の孔子は、乱世の小国にあって、むしろプロトコルを利用することで自国を守ろうとした。つまり、プロトコルを味方にすれば、世間すべてを味方にできる。それを軽んじる大国をも屈服させることができる。それどころか、自分、自国がプロトコルの尺度と一体になり、その模範となることによって、他人、他国を実質的に従わせることができる。近代フランスの太陽王ルイ14世も、ナイフ・フォークも知らない野蛮なオレさま地方豪族どもに、宮殿で豪華絢爛たるパーティとマナーを見せつけ、われらのプロトコルに従わないなら、われらはわれらの社交の場には入れないぞ、と威圧し統制した。
あのヒットラーですら、バカげた力づくのクーデタを放棄し、先人たちを立てつつ、まともな選挙で戦うことに方針転換。スローガンは「ヒンデンブルクに敬意を、ヒットラーに投票を」。だから、あんなやつでも、うまく首相に当選。そして、33年の最初の国会では、大仰な礼服を着て、皇太子の前でヒンデンブルク大統領に深々と頭を下げた。これによって、やつは、自分が皇太子や大統領につらなる正統な政治家であることを示した。そして、翌年、ヒンデンブルクが亡くなると、ヒットラーの手に政権が転がり込む。
織田信長と違って、豊臣秀吉や徳川家康なんかも、同じようなプロトコル手順を踏んでいる。だから、敵たちを抑え、殺されず、天下人になれた。どこぞの総理大臣とかも、いいかげん大人になったらいいのに、と思う。自分勝手な尺度を振り回し、自分のお友だちを優先すれば、世間すべてを敵に回すだけ。いつまで同じ愚を繰り返すのやら。
礼節は、あくまで形式的なものだ。それに従って下座に着いたからといって、自分を卑下するようなものではない。むしろ礼節を守らないならば、だれもまともに相手にしない。コミュニケイションの下地そのものが無いからだ。学生だの、ニートだの、いつまでも自意識過剰なユトリのオレさま気取りのまま、でかい口を叩くだけで、このあたりの基本的な社会常識を学んで身につけようとしなければ、社会に参加する入口の手前で、世間から拒絶されるだけ。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)
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