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「富山県人は極力採らない」が危機レベルにアウトなワケ/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2017年7月14日 7時35分


        「富山県人は極力採らない」が危機レベルにアウトなワケ/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

1.「私は極力採らない発言の内容
決算発表会見で本間会長は、同社の採用方針について「富山に優秀な人材がいないわけではないが、幅広く集めたい」と説明したとのこと。富山で生まれてからそのまま大人になった人は駄目、さらには「富山で生まれて地方の大学へ行った人でも極力採らない」なぜなら「閉鎖された考え方が非常に強い」からとのこと。すべてダメです。

今入ったニュースでは富山労働局からも指摘が入ったとのこと。人事関係の専門知識があれば常識ですが、往々にして人事出身の社長は少ないため、こうした「常識」を持たないことが多くあります。今回の完全アウト発言は同社会長の無知から出たものではありますが、企業としてのコンプライアンス上も、何より採用方針上も大問題です。

日本国憲法の3大原則・基本的人権の尊重で、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他で差別があってはならないと決められています。民間企業が自社の採用方針に則って採用を決めることは何ら問題ありませんが、その判断基準に不公正があってはならないのです。出身地と出身学校の場所で採否を決めるというのは完全にこの点で憲法違反になります。


2.言ったらおしまい「バカ発言」
最近多発の安倍内閣閣僚や自民党政治家によるウッカリ発言のように、発言が元で謝罪や役職辞任に追い込まれる例は後を絶ちません。そのほとんどがオヤジギャグのような低レベルの冗談やセクハラ・パワハラ要素満載のダメ発言で、そもそも問題発言というような政治信条の懸かったものではなく、ただのバカ発言ばかりです。身内の後援会や決算説明会であっても、今のコミュニケーション環境は誰でもスマホで撮影や録音できます。バカ発言が漏出しないと考える時点で、もはや危機管理意識が欠落しているとしかいえません。

重要な点はここなのです。企業トップや閣僚など、本来リーダーである人が危機意識を持っていない、バカ発言を「うっかり」やってしまうことこそ最大の問題なのです。発言そのものより、バカ発言をしてしまう思考回路と危機感核欠如はリーダーとしての資格に巨大な疑問を持たせるものです。というか、リーダー無理なんでさっさと辞めていただく必要があるほどの欠陥といえるでしょう。

つまりバカ発言をするトップはもはやトップたる資格はありません。言ったらおしまいなのです。テレビバラエティで不謹慎な発言をするのは芸人さんばかりというイメージがあるかも知れませんが、実はプロの芸人さんはちゃんと発言を計算して行っており、発言が問題になるのは芸人や毒舌タレントと呼ばれる人よりも、そもそもそうした露出のための準備も努力もしていない、ただ時流に乗っただけのタレントさんからのものが多いのです。


3.血液型占いを信奉するトップ
採用面接では血液型を聞くことも禁止です。私は人事コンサルタントとして、面接官そのものをトレーニングする機会が多くあります。たいてい人事の専門の人はこうした問題意識を持っているので大丈夫なのですが、採用ピークなどでは他部門の非人事職の方が緊急面接官をすることが多く、こんな時に問題面接をしてしまうのです。

今の環境で面接官が問題面接をしてしまうと、ただちにその情報はSNSなどで拡散し、大問題になりかねません。面接を専門としていない面接官には、コンプライアンスやコーポレートイメージ、今の採用環境といったことから説明し、理解をしてもらわないととんでもないトラブルになりかねないのです。

中でも一番やっかいなのは経営陣です。人事的なことはたいていナアナアで済んでしまった時代に出世した人がトップを務めることが多いため、平気でセクハラ質問など「親近感をもった」という理由で発してしまいます。さすがに女子学生に「彼氏はいますか」と聞くような犯罪的質問はなくなったと思いますが、実際に面接で血液型を聞かれたという話は今でも健在です。

血液型占いのような非科学的迷信を信奉するトップがいる企業で本当に大丈夫でしょうか?おそらくそのトップは血液型で判断するために質問したのではなく、会話の切り口として「何型?」と安易に聞いただけではないかと推測します。血液型を本気で信じるほどのバカで企業トップになるとは思いたくありません。しかしセクハラは意図に関係ないのです。本人は相手との親近感の一部のつもりでも、その被害者は選択の余地がなくセクハラにさらされているのです。

面接という、採用側が圧倒的優位な立場でハラスメントにつながる言動は一切禁止であることを、私は面接官トレーニングではとにかく強調します。その発信者の発言意図など一切関係ありません。


4.あえて意図を忖度してみる
今はやりの忖度をしてみますと、本間氏の発言主旨は、おそらくグローバルな市場環境では、グローバルなセンスが必要であり、一地域(地方)だけで育つ閉鎖的な感覚は望ましくないということなのかも知れません。途中まではきわめて的を射ています。しかし結論がバカ発言となります。なぜ富山県で育った人は全員が閉鎖的思考と断言できるのでしょうか。仮に万一そうした傾向値があるのであれば(恐らく統計データはないはず)それを示して発言ならまだしも、「なんとなく暗そう」「閉鎖的イメージ」だけで、「富山県の対象者全員を決めつけた」ことが憲法違反であり、トップの経営判断として致命的な失敗なのです。

「〇〇なら(だから)□□だ」という非科学的な決めつけが差別を呼び、客観的判断を妨げてしまうのです。動物的カンもカリスマ経営者には必要かも知れません。しかしそこまで超越したカンを持っているのであれば、こうした舌禍事件に至ることも容易に予想すべきで、それが出来ない程度のカンは恐らくただのラッキーパンチが当たっただけなのではないでしょうか。

今回の発言ももはや収拾不可能なレベルな重大なものです。危機発生だと認識し、危機管理にあたるしかないでしょう。言い訳で逃れられる可能性はありませんので、ひたすら謝罪ですべての責めを負うことで収拾するしかないと感じます。

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