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AI時代の職業選びの難しさ/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2017年7月19日 7時7分


        AI時代の職業選びの難しさ/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

大学生にとっての職業選択と、企業にとっての新規事業の企画・開発はよく似ている。

自分(自社)にとっての得意なことや志向性と、世の中で求められるものが綺麗に合致することは理想。現実には、思い入れが強くとも競争が激しいなどの事情で、妥協・割り切りを余儀なくされながら紆余曲折した挙句、当初思ってもみなかった形に結実することもごく普通だ。

何より悩ましいのが、10年も20年も先の世の中での需要を見通すことなど誰にもできないという当たり前の事実だ。

企業の新規事業開発の場合、想定していた通りに市場が立ち上がらなければ、随時軌道修正して別市場にシフトすることができるし、そうした柔軟性・機動性こそがマネージャーの腕の見せ所だ。実際のところ、新規事業開発で視野に入れるのは(産業により大きな差があるが)最長ケースでも10年、通常なら5年程度に短縮されつつある。

しかし5年程度で転職しようと思って就職する就活生は非常に稀だろう。せめて10年、できれば30年ほどは安泰であってくれと願うのが人情だ。

ところが就活生(およびその親御さんたち)にとっては盤石に思えた就職先が、経営陣の間違いによって大きく傾くといった事態が稀ではなくなってきている(東芝やタカタといった最近の事例を思い出して欲しい)。

企業に就職する場合だけでなく、特定の職業を目指して大学を選ぶ段階から「将来に向けての目利き」が求められることも多いが、なおさら難しいものだ。その分、若者とその親御さんの判断は保守的になりがちだ。しかし従来型の職業観に凝り固まっていると、却ってリスクを背負い込むことになるのがこれからのAI時代の怖さである。

「こうした先を見通せない時代だからこそ国家資格を身につけよ」とはよく言われるセリフだが、弁護士や会計士といったサムライ業の専門職こそが次なるAIによる代替のターゲットだと指摘されている(ただしAIに直接代替されようとしているのは下調べをする若手である)上に、今でも供給過多気味だとさえ言われている。

そしてもっとショッキングなことに、公務員を含むホワイトカラーの仕事の半分はAIによる代替が可能であると言われる。かといってブルーカラーのうち単純労働の要素が強いものはロボットか途上国の労働者に代替され得るし、報酬が低い事情も大して変わらないだろう。

結局、AI時代に求められるのは、AIを使いこなして社会に貢献する「新しい仕事パターン」を確立する人たちである。その半分程度は今ある職業かも知れないが、残り半分は現時点で全く存在しないものかも知れない。

例えばAIを効果的に使って取引先と密接につながることで収入を大幅にアップできる、新しいタイプの農家や漁師かも知れないし、彼らにアイディアと仕組みを提供して最適な市場を次々に展開する新職業の人たち(「〇〇コーディネータ」とでも呼ばれる?)が大勢出てくるのかも知れない。

いずれにせよ、今ある職業を通じて開発された能力をベースに、AIを使いこなす「新しい仕事パターン」を開発することに取り組んだ人たちだけが、いち早くそのポジションに到達できるのだ。

そうしたことを考えると、各地の大学では、旧来型の職業を前提にした授業やゼミばかりではなく、地元の企業や住民を巻き込んで、こうした新しいやり方を率先垂範して試行する動きが今以上に求められるのではないか(実際、すでに幾つかの大学では小規模ながら取り組んでいる)。

たとえゼミや授業でトライした結果が失敗やショボい成果だろうと、そうした経験と意欲がある人たちこそが、企業や地元社会が求める人材である。社会の仕組みが変わっても対応できるだけの能力基盤が育まれているのだから。

そのためには企業側も即効性の研究成果ばかりでなく、人材育成の場としての大学に資金や協業の場を提供してもらいたい。是非、大学関係者と企業関係者はご一考を。

PS ちなみに、今現在もてはやされている職業の一つに、ビッグデータを解析し仮説を生み出す、データ・サイエンティストという人たちがいるが、AIがレベルアップすると代替される第一候補の一つとも云われる。最先端のコンピュータサイエンス絡みの花形職業でありながらこうした事態さえ生じるのが、この分野の怖さだ。もちろんデータ・サイエンティストたちも(多分)それは意識しており、この先数年以内に次のレベルにステップアップすることを目論んでいるに違いない。

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