優秀とは「問いを作る力」/川口 雅裕
INSIGHT NOW! / 2017年7月24日 11時30分
川口 雅裕 / 組織人事研究者
上司や周囲からの要望・質問や投げかけに対して、いつも上手に回答・リアクションできる人は優秀だと認められやすい。担当者としてその業務を詳しく理解し、抜け盛れなく進めていることがよく分かるからだ。どんな球が飛んできても、しっかりと芯で打ち返せるバッターのようで、構えにもスキがなく安心してその業務を任せることができる。しかし、そのような「答える(応える)力」よりも大切な能力がある。「問いを作る力」である。
「問い」とは、調べれば分かるような単純な疑問・質問ではない。もちろん、他者や外部環境、それまでの経緯といった今さら変えようのないものに対する不満や批判を含んだものでもない。
「問い」とは、「そもそも、この仕事の目的は何か」「顧客は誰か」「誰に、どのような価値を提供しているのか」「新たな技術や知識を応用できないか」「無くしたり、他の仕事と組み合わせたりして再構築できないか」といった類のものだ。そこには、自分の仕事を見つめなおすための新たな視点を持ち、問題を発見しようとする態度がある。問題の発見を上司に依存しない、自立や当事者意識が求められる。熟練していく過程で得たもの、前任者や世間一般の考え方に縛られず、盲目的にならず、健全な懐疑精神が必要となる。ブレークスルーや改善を実現しようとする欲求が感じられる。
あらゆる業務には、その目的があり、対象者がおり、進め方ややり方が定型化されていたりする。まずはこれらを熟知・熟練していくのが重要なのだが、時とともに環境や技術的な変化は当然に起こるので、目的も対象者も見直すべきだし、やり方も変えていかねばならない。ところが熟練者というものは、往々にして自らの旧いフレームや手法にこだわり、状況変化に鈍感になったり、かたくなになったりする。「問い」は現状や自己を否定的・批判的に見る視点を持つので、熟練者ほど「問い」を恐れる傾向がある。「答える(応える)力」を身に付けた熟練者は、たとえその人が若い年齢であろうとも、改革・改善が不得手になってくるものなのである。
さらに、そんな自分に気付くのも容易でない。どんな球が来ても打ち返せるようになった自分に満足し、打ち返せることに喜びを感じ、球が飛んでくることを待つようになる。自分のスイングを見直してみたり、自ら球を置いてスイングの修正・調整をしたりすることはなく、球が飛んでこないと暇をかこつようになる。
上司にとって熟練者は頼もしい。だから、熟練度をもって「優秀だ」としたくなる。が、問いを作る力がなければ熟練者がいくらたくさんいても、現場が主導するイノベーションは起こらない。一方で、熟練者を育てていくことが大事な仕事であるのも確かだ。従って、熟練度をもって「優秀だ」とするのは合理的である。上司としては、このジレンマを理解し、熟練者に対してさらに上の能力としての「問いを作る力」を求め続けること、また組織として「問いを作る力」を養い、問いのあふれる現場を作ることが肝要なのである。
この記事に関連するニュース
-
床に落ちた「たった1本のネジ」も見逃してはならない…トヨタの生産現場で上司が教えている「仕事の本質」
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 6時15分
-
「若い頃はウソばっかついてた」 仕事の相談をしなかった佐久間宣行が、“おじさん”になって相談を受けまくるようになったワケ
集英社オンライン / 2024年11月20日 11時0分
-
「人事異動案を作るのは人事部とは限らない」…絶対に異動したい人がアピールすべき"キーパーソン"の名前
プレジデントオンライン / 2024年11月7日 8時15分
-
「あっという間」に辞めていく若手 どう接するのが正解か?
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年11月5日 9時0分
-
「傷つく権利ないよね、仕事できないんだから」上司からひどい仕打ちを受けた女性が人事部で大活躍のワケ
プレジデントオンライン / 2024年11月4日 7時15分
ランキング
-
1日経平均株価が再度上昇するのはいつになるのか すでに「日柄調整という悪材料」は織り込んだ
東洋経済オンライン / 2024年11月25日 9時30分
-
2自然界最強「ミノムシの糸」を製品化、スポーツ用品や自動車に活用へ…興和「化学繊維に代わる存在に」
読売新聞 / 2024年11月25日 10時50分
-
3「京急」「京成」に照準定めた旧村上ファンドの思惑 2006年の「阪急・阪神合併」の再現を想起
東洋経済オンライン / 2024年11月25日 7時50分
-
4丸美屋「釜めしの素」回収 ゴキブリとみられる虫混入
共同通信 / 2024年11月25日 13時2分
-
5京都の老舗を支える「よきパートナー」という思想 自社だけでなく、客や取引先とともに成長する
東洋経済オンライン / 2024年11月25日 14時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください