信頼関係が支える日本品質の危機/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2017年11月21日 10時0分
![信頼関係が支える日本品質の危機/野町 直弘](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_9807_0-small.jpg)
野町 直弘 / 株式会社クニエ
昨今、神戸製鋼が客先に納品したアルミ他のデータ改ざんが大きな問題になっています。一方で報道記事やコメンテータのコメント等を読んでいて感じるのは、殆どのものが一企業の不正事案として捉えているだけで、けしからん、隠ぺい体質、だとか対応の遅さとかを責めているものばかりです。この事案がもたらす影響やそれではこの課題をどう解決すればよいか、などについては殆ど触れられていません。
(私が知る限りそれに触れているのは日経Techonの「神戸製鋼問題は“性善説”を前提にした製造業神話の崩壊」という坂口さんの記事位です)
私は今回の事案は日本企業の競争力に大きな影響を与える問題になり得ると考えています。
現在の日本企業の競争優位は何か。と聞かれると間違いなく高い品質という答えが出てくるでしょう。2000年位までは品質だけでなく低コスト、高い技術力、高い品質のバランスが取れていることが強みでした。それが為替の問題や労働コストの高騰、生産性が伸びていない点、技術力も後進国のキャッチアップが早いことなどから様々な強みが薄れてきています。
現在はコストはアセアンや中国に比べれば明らかに高い、技術力は特に量産型工業製品では既にキャッチアップされており、唯一残されているのが高い品質です。
一方でどちらかというと日本企業の高い技術力は社会インフラやプラント、エンジニアリングなどの一品ものにシフトしているように感じます。
この日本企業に残された強みである高い品質は信頼関係によって生まれてきました。図面や仕様書に明記されている要件だけでなく開発段階で摺り合わせながら品質を作り込んでいくなどの暗黙知化した努力が日本型高品質を生み出しているからです。
具体例を上げると色合わせなどがその代表でしょう。樹脂成型部品で筐体とカバーを違ったサプライヤから購入していたとしても3社で摺り合わせしてこの色でいこうと決め色見本を共有します。
これは明文化された要件なんて全くない世界です。明文化されていないので本来なら樹脂材料を変更し安い材料を使っても最終OEMメーカーは文句を言えない、でもサプライヤはそれで色が変わってしまうと製品品質を損なうからやらない。
このように信頼関係による高品質の実現と言えます。
今回のデータ改ざんの問題ついても多くの場合、製品品質上の問題はないと最終製品メーカーは言っています。このような製品メーカーの発表を信頼すると「今まではアルミ材の成分検査
なんかやらずに信頼関係の元に製品化しているわけだし、製品品質に影響がないのなら何も目くじらたてなくてもいいじゃないか」とも思っている人も少なくないでしょう。
多分これが製品メーカー、素材メーカーの本音です。
こういう信頼関係の下に成り立ってきた高品質ですが、今回の品質問題が引き起こす課題は非常に大きいと言えます。今までは信頼関係の下、製品メーカーの受入れ検査などは外観と数量
確認くらいしかやっていませんでした。データ改ざんは法律上は問題なくても社会的な責任やもし製品品質に影響を与え、それが事故や瑕疵につながるのであれば大きな問題です。
ですから今後は製品メーカー側も必要要件を明確にしてそれを検査しなければならなくなるでしょう。
そうするとどういうことになるでしょうか。
当然のことながらコストアップにつながります。昨今、AIとかロボティックスオートメーションとかの技術が進化してきましたが、検査というプロセスは製造工程の中で最も自動化、機械化が難しい工程です。私の知る限り寸法精度や員数の確認程度しか自動化できていないのが実態でしょう。ましてや成分検査などどうしても人手がかかります。ようするに高品質を維持するためには高コストになる可能性が高い。
今までは信頼関係の下、かけなくて良かったコストをかけなければならなくなるということです。
そうすると企業としての対応方法は3つしかありません。一つはコストが高くても売れるものを高品質で売っていく。二つ目は品質を(他国並みに)落とす。三つ目はコストをかけないように品質を維持する。
もちろん一番良いのは三番目です。
しかし難易度が高い。また、今までの信頼関係による品質確保の仕組みは正にこれを実現してきた仕組みです。
もしこれを否定すると、品質は高いけどますます高コストになってしまう。これをブレイクスルーしなければ日本企業の製品の競争力はますます落ちてしまいます。
今回の件はこのように日本企業の競争力に大きな影響を与えるきっかけとなる事案と言えるでしょう。
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