大学就職ランキングというナゾ/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2017年12月6日 11時59分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
1.高校の進路指導教諭が選ぶ怪
就職ランキングはさまざまあり、就職率をランク付けしたものや、大企業・社員数1千人以上企業・上場企業などへの入社者数・率などをソースにしたものなどがあります。また中には高校の進路指導教諭が選ぶ「就職に力を入れている大学」ランキングといったものもあり、そもそもランキングは統一された基準でのレーティングではないのです。
だが、ちょっと待って下さい。高校教員が選ぶ?何じゃそれ?
採用企業が選ぶならまだしも、実際の就職やビジネスの世界とずいぶん遠いところで選ばれたランキングです。やはり受験等、高校教員の先生方の専門性が発揮される視点でのランキングであれば意味あると思いますが、就職への評価は明らかに先生方の専門外のはず。現実のビジネスとはあまりにかけ離れたランキングではないでしょうか。
評価はその結果が派手なためにランキングが独り歩きしがちです。しかししっかりその評価の基準や手法を理解した上でないと、単なる発信者からのメッセージを鵜呑みするだけの行為になってしまいます。
2.超売り手市場なのにハッピーじゃない?
文部科学省が公表した、2017年卒の就職内定率は、前年度同時期を上回る85%で、過去最高数値とか。実際に学生への就職指導をしていても、こうした好環境は実感できます。少なくとも新卒採用は過去10年でも最も好調といえるでしょう。
ただ教育現場では困ったことも起きています。こうした好環境を先輩から聞いたのか、学生が大学主催就職セミナーや講座に来ないのです。大学関係者によれば、2割減どころか半減から1/3になる講座も珍しくないとのことです。この傾向は上位校から中堅まで、全国で起きていると感じます。
就職講座が学生の本分ではないので、その代りに普段の勉強に注力してくれているならたいへん喜ばしいことです。しかし現実には特段通常授業の出席率が上がる訳でもなく、単に就職関連行事への参加動員が落ちているだけということがほとんどのようです。
就活講座への参加が減ること自体、たいした問題ではありませんが、一方でこうした好環境下でも就職が順調ではない学生もいる現実があります。中堅校どころか、トップ校といわれる大学の学生で、今12月時点で無内定学生もいますし、せっかくの内定先を今から辞退しようという学生もいます。
就職環境が好転=誰もがハッピーな環境という訳ではない現実があります。
3.その数字は大丈夫?
ランキングするには評価が必要な訳ですが、実際にどのようなレーティングをするのでしょう。一番わかりやすいのは「就職率」です。「就職率100%!」とうたえば受験生にもインパクトあるでしょう。でもちょっと待って。就職率って意味あるんでしょうか?
就職率そのものに統計的以外の意味があるかどうかは、その数値の対象にあります。予備校の合格率と似ていますが、Fラン含むどんな大学もひっくるめての合格率では意味がありません。東大とか早慶とかMARCHとか旧帝とか、対象を難関大に絞っての合格率ならずいぶん価値は上がります。
さらに統計では母数の取り方も重要です。元々優秀な東大特進クラスだけを母数にするのと、明らかにだめな学生を全部含めた母数では、その意味は全く別だからです。予備校関係はこうした率の水増し(逆に母数を絞ってパーセンテージを上げる)にはずいぶん厳しくしているようなので、昔と違って今どきの合格率はそれなりに正確なのかも知れません。
4.そもそも就職「率」がおかしい
就職率はもっと操作が容易です。母数を誰にするかで数値が大きく変わるからです。私は長年理工系大学で教員を務めてきましたが、旧帝中心に、国立理系学生の9割近くが大学院に進学します。週刊誌などでも見かける就職率ランキングに「あれ?あの有名大学は?」という事態が起こるのは、「学部就職率」で図った場合です。
当然トップ理工系学生は学部で就職する学生が例外的なので、学部卒を母数にしてしまうと就職率が極端に下がるというカラクリです。同様に、就職が難しそうな学部生を無理矢理院に進学させてしまえば、学部就職率は当然上がります。「就職希望者」だけを母数にしてしまえば、体調その他でやはり就職が難しい学生も母数から外せます。博士後期課程学生の就職率といわれても、必ずしも3年で課程を修了できるとは限らない現実があり、やはり母数設定ができないのが現実なのです。
結局新聞や雑誌などの文字ソースがすたれ、ネットニュースだけが独り歩きするようになり、こうしたランキングはイキイキと活躍できるようになりました。「就職率〇〇%!」「就職ランキングNo.1!」などのキャッチコピーがいくらでも打ち出せるため、これまで以上に露出を高めそうな勢いですが、重々数値を吟味して判断することが大切です。
あと、学生諸君。就職環境がどれだけ良くても、あなた個人の就職が保証されてる訳ではないこと、絶対に忘れずに、ぬかりなく準備を進めて下さい。
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