顧客接点にこそボトルネックが生じやすい/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2017年12月19日 7時7分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
私事で恐縮だが、師走に入ってしばらくしたある日の昼過ぎ、何の前兆もなく、我が家でビデオを見られなくなった。何度も接続ケーブルを差し直したが効果はない。テレビ単独では見られるし、テレビ側では「信号が来ていない」と表示される。しかもビデオデッキの小さな液晶画面の表示変遷には特に違和感がない。この時点でどうやら接続ケーブルが故障したんだろうと小生なりに見当をつけていた。
メーカーS社の問い合わせ窓口に連絡したが電話予約には時間が掛かるので、LINEでのチャットでカミさんが症状を伝えた。すると先方からは「症状から判断するとビデオデッキ本体に問題がある可能性が高いので、修理窓口宛に本体を送ってください」との回答が来た。
多分接続ケーブルの故障だと見当をつけていた小生は意外に思い、LINEでのやり取りを確かめたが、メーカーの修理窓口がそう言うのだから仕方ないとビデオデッキを外し、送付準備を始めた。しかし思いついて系列の家電店を探し、連絡した。接続ケーブルの故障だったら系列店にあるケーブルで接続して問題なく映るはずなのですぐ判明して、ケーブルを買えば済むと考えたのだ。
実際にその系列店(あまり近所ではなかった)にビデオデッキを持ち込むと、なぜか(多分、素人が運んだせいでハードディスク=HDを揺らしたせいだろう)電源を入れてもビデオデッキがなかなか立ち上がらない。系列店の店主はすぐに「あぁこれはダメだね。本体がやられてる」と断言して、メーカーに送る手はずを始めようとした。
小生はHDが揺らされた影響とケーブル故障の可能性が高いことを主張して、店にある接続ケーブルをつないでもらったが、さらに1~2分ほど待ってもビデオデッキは立ち上がらない。他の客はいなかったが、店主が「こんな状態になったらまともに機能したことがない」と言い張るのでメーカーに送ることに同意し手続きした。
それから1週間余り、(それまでタイムシフト視聴に慣れ切った我が家の混乱や戸惑いは置いといて)まったく音沙汰がないのでしびれを切らした小生が店に連絡した。メーカーに問い合わせしてもらうと、その夕方に「メーカーのほうでずっと見ていても再現されないそうです」と返事があった。そこで「ケーブルに故障は?」と確かめると、あれこれFAX書類をめくる様子があり、やがて「あー、ケーブル不良とあるね」と一言。要はケーブルが悪かったことが判明したのだ。
さらに3日ほど時間がかかってようやく店からデッキを回収でき、買ってきた接続ケーブルで接続したところ、全く問題なく、録画してあったビデオを観ることができた。くれぐれも残念なのは、この一週間のロスで、家族が楽しみにしていた連続ドラマの最終回一つ前の回を多く見逃したことだ(リアルタイム視聴は我が家には難しすぎた)。
長々と我が家の「痛い」エピソードを伝えたのは、これが家電メーカーの戦略のボトルネックに関係するからである。
御周知のとおり、日本および世界では小売りの世界の主役が小規模店から大型量販店に、そして最近ではネット優位にシフトしている。そうした比較的新しい販売チャネルでは故障やトラブル対応に十分な対応ができないため、メーカー独自に問合せ窓口のコールセンターを拡充している。そこでは電話応答の待ち時間が延びる傾向にあるため、チャット問い合わせの採用も急速に拡がりつつある。
もう一方で、高齢化が進む日本市場では、修理や細々とした消耗品などを提供する身近な相談窓口として、地域に根差した系列ショップを既存家電メーカーは再び武器にできる可能性が強くなっている。件のS社の系列店はそういう戦略的な位置づけにある店の一つなのだ。
しかしこの記事で指摘したように、こうしたメーカーの戦略意図とはまったく異なる状況が現出している可能性がある。
S社のLINEによるチャット問い合わせの件は、「問診」技術が低レベルのためか症状の判断が適切でなく、「怪しかったらとりあえずメーカーにモノを送らせて、修理工場で対応すればいい」と安易に考えている節がある(今回判明したようにメーカーの修理工場もあまり賢明な対応をできないようだが)。これはメーカーとしてもコスト高になるし消費者の満足度を下げる方向に働きやすい。
今回のS社系列店の対応は地域のハブとして機能するにはあまりに知識や辛抱が足らず、「ややこしいのは取りあえずメーカーの修理工場に送ってしまえ」という姿勢があからさまだ。これもまたメーカーにはコスト高になるし、消費者の満足度を下げる「ダメ対応」の典型だ。
つまりメーカーS社の意図する「量販・オンライン販売の不備を補足するコールセンター(のチャット部隊)」も、「地域のハブとして身近で親切な中核ショップ」のいずれも機能しておらず、むしろメーカーの負担を増しながら消費者の不満を掻き立てるボトルネックとなっているかも知れないということだ。
こうした致命的なボトルネックの問題が大きくなる前に摘み取る方策としては、(昔ながらのやり方だが)専門企業に覆面リサーチを依頼するのが有効だろう。つまりメーカーに雇われている身分を隠しながら、機器故障で問い合わせするふりをして、自社の対応チャネル毎に定期的に巡回チェックするのだ。自社の顧客接点上での弱点を適時把握し、改善の手を素早く打つためには必要なコストだと思う。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
日立の家電品のメーカー保証を有料で5年間に延長し、修理対応を含めた各種サポートを提供する「ハピネスプラス[長期保守サービス]」の加入対象者を拡大
PR TIMES / 2024年9月19日 17時15分
-
自動車の販売・修理に関するデジタル技術を提供する「AutoX3」、日本市場に進出。AIによる画像解析で自動車の不具合を予測
PR TIMES / 2024年9月18日 13時15分
-
10年以上使用した「エアコン」が壊れてしまった…これって夏に酷使しすぎたのが原因!? 「買い替え」と「修理」ならどちらが費用をおさえられる?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月18日 2時10分
-
【10月から変わる車検制度】メカドルゆきと考えるOBD車検対策とスキャンツールの選び方 - スキャンツール補助金対応のTHINKCAR × NEC 整備ナビゲーションサービス
PR TIMES / 2024年9月11日 10時45分
-
電気ケトルは何年で買い替えるべき? “寿命のサイン”はある?【家電のプロが解説】
オールアバウト / 2024年8月26日 21時25分
ランキング
-
1「今買わないと後悔しますよ」 客を萎えさせる「店員の声かけ」はこれだ
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年9月22日 8時5分
-
2福井のブランド米「いちほまれ」の新米、昨年より価格6割高で店頭に…生産量は2000トン増の見通し
読売新聞 / 2024年9月22日 8時43分
-
3「チープカシオ」なぜ人気? 安価だけではない、若者に支持される理由
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年9月22日 7時10分
-
4「タワマン節税」「空き家問題」2つの不動産相続ルール変更で何が変わる?マンションや古い物件の活用方法は?
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月22日 8時0分
-
5「無料のモノはもらわない」お金のマイルール 日々を健やかに過ごす「失敗を許容するお金」
東洋経済オンライン / 2024年9月22日 9時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください