正しいお参りの前に/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2017年12月31日 6時16分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
年の瀬なのに、あいかわらず世の中は騒がしい。あちこちの国と国が揉め、そのそれぞれの国の中でも、あれこれ、あっちだ、こっちだ、と揉めている。そこでなにか言っても、かってに誤解されるだけ。かってに誤解され、へたに担がれても、返す言葉も無い。
無力感と罪悪感。なにか間違っていると思っても、権力者でもなく、有名人でもなく、我々は、なんの力も無い。怒る気力さえも無く、それが良くないことになるのがわかっていながら、ただ見過ごすしかない。そして、わかっていながら、なにもしなかった、という、罪の感覚だけが、いつまでも残る。
その一方、世の中には、やたら万能感に満ちている人たちもいる。家柄、カネ、時流、名声、地位。あえてそれに逆らう理由も無いので、みんな、言うがまま、はいはい、と聞き入れる。とはいえ、じつはだれも、それに従う理由も無い。
家柄、カネ、時流、名声、地位。そんなものは、どこかほかでもらってきただけ。いっちょかみして、いっしょに波に乗り、一旗上げよう、などという、ごうつくばりの野心家でもなければ、まったく知ったことじゃない。
根本において、こういう余所から来た「上の人」には、肝心の人望が無い。それで、みんな面従腹背、結果が出ない、まとまらない、それどころか、人が離れ、瓦解していく。にもかかわらず、こんな崩壊を代わって引き受けようなどというバカもいないので、あいかわらず立場と責任だけは付いて回る。それでよけい、万能感と焦燥感が空回り。
心中、業火に焼かれている「上の人」の当たり散らしを前に、庶民にはせいぜい、やり過ごすくらいのことしかできない。休まず、怠けず、働かず、ひたすら従順な無能で、目を付けられたりしないように、かといって、なにかの矢面に立たされたりしないように、低く低く頭を下げ、顔を背けるばかり。
うちらからすれば、ゴジラも、ガメラも、仲裁を騙るウルトラマンも、結局、同じようなもの。あなたの味方です、応援します、とか言って、どこかからやってきて、我々の心を踏んづけて暴れ回る。小さい声なんか、まともに聞こうともしない。いずれも、自分の都合のいいように、下々は自分こそを支持しているのだ! と言い張って争う。だけど、それって、逆でしょ。ほんに疲れるわぁ。
テレビや新聞は、こういう「上の人」たちの拡声売名、その痴話ケンカの宣伝洗脳の垂れ流し。でも、そんなのに、いちいちつきあう義理も無いんじゃないか。はやりの映画や音楽、本だって、同じようなもの。だって、つまらないし、関係ないし、へたに巻き込まれても、どうせ末端の末端の末端だから、なんの良いこともない。ニセの感動なんて、中毒になる覚醒剤と同じ。カネと時間を、ムダにむしり取られるだけ。イヤなので、消します、閉じます、知りません。メディア時代の、無関心、不視聴、非協力。
止まない雨は無い。明けない夜は無い。いつかかならず風向きも変わる、年も改まる。調子をこいていたイチビリや、そのお友だちは、いずれみんなまとめて川に落とされる。ほっておけ。どのみち無力で無名な我々ごときには、なにもできない。それより、そんな「上」の連中に、心の中まで盗まれるな。
自分の人生を心配しよう。心の安らぎこそが、いちばん。聖書でも、仏経でも、古典でも、史書でも、心静かに向き合って、自分の時間を大切にしよう。笑えない芸人のわめき散らしを消し、お気に入りの曲に耳を傾けよう。夫婦や友だちで語り合い、酒を味わうのもいいじゃないか。いや、一人、夜空を眺め、星を見て歩き、思い巡らすのも悪くない。
そして、お参りだ。欲を願っちゃいけない。思い上がりを捨て、こうべを深く垂れ、ただ自分や家族、世の中の平穏無事だけを祈ろう。私は無力だ。でも、きっとなんとかしてくれる。そう信じよう。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)
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