フォーカスしながら新規事業開発を進める/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2018年1月10日 0時7分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
年末に古い知人と久しぶりに会った時、彼は小生の名刺の裏にある「新規事業に関する戦略コンサルティング」という当社の売り文句を見つけて、「これは日沖さん得意の『フォーカス』と矛盾しないの?」と聞いてきた。20年ほど前に小生が『フォーカス喪失の罠』という本を出版したことやフォーカス戦略を中心にコンサルティングしてきたことを、彼はよく覚えていた。
つまり彼の頭の中では『フォーカス』と『新規事業』は矛盾する概念だったのだ。世間一般でもこうした捉え方は少なくないだろう。新規事業を開発すればするほど事業は拡散しフォーカスは失われる、と。
しかしそれは、確固とした戦略なしに漫然と新規事業を企画・開発していく場合の話である。当社のクライアントが展開する新規事業は逆に、フォーカス戦略を強化する方向で開発されている。どういうことか。
自社が業界一となれる領域を見定め、そこに資源を集中投入し(手段としてはM&Aを含む)、競争優位性を構築し、確固とした地位を築くのがフォーカス戦略である。失われた20年を経てようやく日本企業にも浸透してきた戦略概念だが、まだまだ誤解が多い。本業への集中と単純に理解している人が随分多いのだ。その理解だと、本業以外の新規事業は全て『非フォーカス』ということになってしまう。
しかしフォーカス戦略の肝心な部分は、本業周辺への戦略的な投資と事業展開により「フォーカス領域」を形成し、そこでの競争優位性を固めるところにある。それによってフォーカス領域においては絶対的な第一人者になり、圧倒的優位を確保するのだ。
この戦略を忠実に守っている例が「世界No.1の総合モーターメーカー」日本電産だ。色々な買収を行っているため無軌道に戦線が拡大してきたように誤解している向きがあるが、精密小型モーターの開発・製造に役立つかどうかで事業展開も買収の可否もずっと判断されてきた経緯がある。フォーカス戦略に沿ってがむしゃらに働けば世界一にもなれるという見事な例だ。
つまり『フォーカス戦略』と『新規事業』は矛盾しない。それどころか『フォーカス戦略』を強化するためには、フォーカス領域における果敢な「新規事業」投資も必要になってくるのだ。いわばフォーカス領域におけるドミナント状態を作るのだ。
戦略性のない漫然とした新規事業開発だと横方向に戦線が広がっていくだけだが、『フォーカス戦略』に沿った新規事業開発だと縦方向に深掘りしていくイメージだ。
こうした『フォーカス戦略』と『新規事業』の関係は大企業に限った話ではない。いや、むしろ中小企業こそよく考える必要がある。なぜなら中小企業にとって、どの領域でどうやって業界一のポジションを築き、そこでどうやってドミナント状態を作るのかを考えることが結局は事業発展の鍵だからだ。
このときに最もクリティカルなのが、「フォーカス領域」の範囲だ。単純に従来の本業をそのままフォーカス領域としては発展もしないし、大手を含む競合に周りを取り囲まれかねない。かといって無闇に広く捉えてしまうとただでさえ乏しい資源が分散してしまうので、競争優位性を築けずに終わってしまいかねない。むしろ当面のフォーカス領域、その先10年のフォーカス領域、といった具合に段々広げていけばよい。外部リンク
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