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紙の書籍は、このまま存在することができるのか/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2018年1月11日 17時15分


        紙の書籍は、このまま存在することができるのか/猪口 真

猪口 真 / 株式会社パトス

先日発表された、日販による『出版物販売額の実態』によれば、出版物の売上の低下が止まらないようだ。ここ20年間で約半減。業界としてはひん死の状態だ。

原因としてよく言われるのは、電子書籍と中古市場だが、インプレス総合研究所調査によれば直近2016年度(2016年4月1日から2017年3月31日まで)の日本国内における電子出版市場は2278億円。中古市場に至っては、781億とこちらも減少傾向。出版というカテゴリーをカバーするほどの市場規模ではないと言えるだろう。

アメリカの場合はどうかというと、2013年の段階で、書籍全体の市場規模は、約270億ドル(日本円で約3兆円)。ここ10年程度は減少傾向ではあるものの、横ばいといった状況だ。

アメリカといえば、オーディオブック市場が1600億円程度あると言われているが、日本はまだ50億程度、シェアと呼べるほどの数字ではない。

書籍をとりまくメディア、流通ルートをすべてあわせてもマイナスということは、書籍というプロダクトそのものが力を失っているということか。

ただし、アメリカとの比較でいえば、日本との人口比率を考えると日本人の本好きがよくわかる。ピーク時はほぼ同等の市場規模だったということだ。日本でこのまま市場が衰退してしまうと困る人がたくさんいるのだ。

経済産業省商務情報政策局 経済産業省商務情報政策局 文化情報関連産業課「出版産業の現状と課題」から引用すると、これまでの紙の書籍は、以下のような流れで、作家からの作品が、消費者まで届く流れになっている。

経済産業省商務情報政策局 経済産業省商務情報政策局 文化情報関連産業課「出版産業の現状と課題」から引用


Amazonのようなインターネット小売りは、書店(場合によっては取次ぎも)を飛ばしたルートであり、出版社からダイレクトに書店に届けるケースも増えている。

電子書籍は、通常出版社から、Amazonなどのプラットフォームを利用して消費者へ届くため、これも取次ぎ(電子出版の取次ぎは存在する)と書店を飛ばす。

さらに作家が直接プラットフォームに流すケースもある。

要はこのビジネスモデルが崩れ、取次ぎと書店が食えなくなっているという話なのだろう。その証拠に、東販、日販を中心とする取次ぎとそこから仕入れて売る書店と、コンテンツホルダーとしての出版社、電子コンテンツを開発、販売する会社との将来への見通しに関する温度差はかなり大きい。

活字への触れ方、読み方が変わっているのだから、提供するコンテンツ、プラットフォーム、商流は変わるのが当然だ。

その証拠に、ほかのコンテンツビジネスの市場は、変化を続けながら全体では規模を拡大させているところも多い。

まずこれも厳しいと言われる新聞は、ピーク時には、5000万部以上を誇っていたが現在は、4000万部を少し超える程度。低下は激しいが紙の出版物ほどではない。

ただし、新聞協会経営業務部によれば、1世帯あたりの部数減は激しい。ピーク時には1.2近かったのが、現在は0.8を切っている。朝日と日経、読売と報知などの複数契約が減少しているということか。

また、これは単身世帯の増加とスマホによるニュースサイト(なんと無料)も無関係ではないだろう。

株式会社 ICT総研の「モバイルニュースアプリ市場動向に関する調査結果」によれば、ニュースアプリの利用者は2016年度末に4,093万人に達したという。

2013年度末に1,294万人、2015年度末に3,378万人。今後はさらに増加していくだろうと、同総研は述べている。

もはや完全に、新聞・雑誌などの紙媒体から、モバイル端末上でのニュースコンテンツ利用が主流となってきたようだ。さらに、ブラウザ上での閲覧から、アプリによる利用が拡大する、ともしている。

さらに、ゲームコンテンツ市場を見てみると、国内のゲーム市場は伸長し続け、2016年は過去最高の1兆3801億円に達するとしており、なんと紙の出版の総売り上げに追いつこうという勢いだ。

つまり、ユーザーは、情報やコンテンツに対するニーズは変わっていないどころか増加しているわけで、出版業界は、端末やネットワーク技術の進化に、コンテンツの加工・編集技術がついていっていないと言われても仕方のないことかもしれない。

映像業界が、不況と言われながらも、新たな技術の導入やさまざまなヒット作によって、市場規模を維持していることを考えれば、出版業界においてはまだまだ改善の余地はあるのだろう。

完全にユーザーの生活の中心をスマホに奪われてしまった今、出版の復活は、マーケティングにおいてもプロダクツにおいても、デジタル端末との連動、メディア間の連携を図りながら活路を見出していくしかないだろう。

もちろん、商流のイノベーションは不可欠だ。本好きの日本人だからこそ、20年後には、かたちと商流がまったく今と異なる状態で、活気あふれる市場となっていることを願いたい。

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