いつ「シニアマーケット」は、「介護」的な話になったのか?/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2018年1月21日 22時4分
猪口 真 / 株式会社パトス
団塊の世代が70歳代に突入するという。
もはやすでに懐かしいが、かつては「アクティブシニア」に代表されるような元気なシニアがこれからの日本経済を支えるといったように、「シニアマーケット」の重要性が叫ばれたものだ。
団塊の世代がそろそろ60歳の定年を迎えようかというころには、旅行業界やゴルフ業界などの娯楽から金融資産にいたるまで、久しぶりに市場が活性化する(のではないか?)と言われ、大きな期待が寄せられていた。
結果は、皆さんの想像通りだが、この大きな世代が2025年にはほぼ75歳以上となり、「消費」を期待されていた層が、今度はお金がかかる(お金をもらう)立場になってしまう。
介護や医療を市場と呼ぶのかどうかは別にして、こういう社会が間違いなく到来する。
すでに終わったと思っていたのだが、「シニアマーケット」という言葉が、また最近よく聞かれるようになってきた。
みずほ銀行 産業調査部の資料によると、2012年のシニア層向けの市場規模(「医療」「介護」「生活産業」)が68.5兆円であるのに対し、2025年には107.6兆円と約57%上昇する見込みだという。
ただし、日本の医療・介護給付費は、2025年までに74兆円に達する見込みだということは、107兆円の中身は、医療・介護関係ということか。
実際、他の年齢層に比べて高齢者は多額の資産を保有している。個人の貯蓄は、60歳代、70歳代で大半を占める。お金はあるし、自由な時間もある、ということは、マーケティングとしてこの層を狙うのはあたりまえに思える。
しかし将来不安があるのか、このシニア層の消費が活発化している印象は少ない。
シニアと言えば医療を含めた健康志向だ。医療情報や健康情報サービスやそうした健康関連施設関連にビジネスチャンスがあると思えるが、かつてセコムが行った調査(参考:「一橋ビジネスレビュー 」Vol. 65)を見ると、シニア層の生活上の課題は、医療よりもむしろ住まいや実生活上でのちょっとした不便や不満が圧倒的に多かった。
実際に、シニア層に対する生活サポートを行う事業がここ数年、大手、中小問わず増加の一途だ。ただ、これは新しいマーケットといえばマーケットなのだろうが、生活を支援するという事業が今後の経済を支えるものではないだろう。
もちろん、どの世代よりも元気で保有資産を豪快に使い、まさに日本の消費を動かしているシニア世代はたくさんいる。
郊外のテニスクラブに行けば、太刀打ちできない70歳代がたくさんいるし、ヨットやダイビングも人気がある。グレードの高いゴルフ場では、完全に70歳代が中心となってコミュニティを形成している。
しかし、こうしたシニア層は少数派なのだろう。地道に定年まで勤めあげてきたような中心層に、急に「お金をつかえ」といっても使い道が分からないのも無理はない。
企業の定年は65歳になっている今、無職の団塊の世代は生まれたばかりだ。終身雇用で(特に大企業に)勤め上げた人たちは多額の退職金と企業年金に守られ安泰な老後が待っているのだろう。
国はシニア層の資産が直接消費に向かうことがないと判断したのか、高齢者から若年世代への資産移転を促し、消費を促そうと必死だ。2009年にスタートした住宅取得資金の非課税贈与にはじまり、2013年から教育資金も非課税で贈与できるようになったし、親や祖父母から孫や子に対して結婚や妊娠・出産、育児向け資金を非課税で贈与できる「結婚・子育て資金贈与」もある。
こうしてさまざまな贈与を非課税にすることによって、積極的に若者層へ資産を移動しようということだ。
おそらくこうした政策は、ますます増加するだろう。しかも、今後は血縁者のみではなく、自治体やファンドと連携したようなサービスも増加してくるはずだ。
投資にしても贈与にしても、やはり、彼らの使命は、自分自身というよりも、子どもや孫、意欲のある若者への貢献心にあるのではないか。
この非課税対策の対象者は、人口がもっとも多い世代として、小学校時代から過酷な競争の中で生き抜き、成功してきた人達だ。少子化が進み、保護政策のなかで生きてきた世代とは性根の座り方が違う。
成功者の多くは、大きな達成感とともに、次世代の育成という志を持っているはず。
社会保障制度は子ども世代が親世代を支える制度だといわれるが、本来は、余裕ある親世代から子世代への循環が望ましいのは間違いない。
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