経営戦略構文100選(仮)/構文21:理念・ビジョンと戦略の関係/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2018年2月14日 18時0分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
理念・ビジョンは戦略的自由度を制約するレベルの大きな優先度を示す。「我々は何を大事にし、何をし、社会をどうしたいのか。」を定めることが、理念・ビジョンの規定と言っていい。これは成長目標の幅の規定、ドメインの範囲規定につながり、エコ・システム/ビジネスモデルオプション規定にもつながり、蓄積するスキル・ケイパビリティのあり方を決定する。それと同時に理念・ビジョンは志として社内のメンバーを始めとしてステークホルダーを方向付け、協力関係を築き上げる源泉ともなり、顧客との関係にフォーカスして考えればブランドパワーの源泉でもあると捉えることができる
こんにちは。伊藤です。忙しいのですが、更なる忙しさに挑戦する日々です。ええ、今月からポーターの勉強会なんてやるので、すごくしんどいですね。
今日の写真の女の子は川村友歌さんです。以下、ぱくたそよりプロフィールです。
愛称:ゆかちぃ
誕生日:5月19日
血液型:O型
「河村友歌」の Amazon ほしい物リスト
wikipedia:河村友歌 - Wikipedia
アメブロ:河村友歌オフィシャルブログ「いつも出てくる私です。」
なぜ、Amazonほしい物リストを掲載するのかよくわかりません・・・。しかし、貢ぐ誰かがいるんでしょうね・・・。世の中、怖いです。でも、これだけ美人さんですからね。メガネをしても美人です。このメガネから見える景色はどんなビジョンなんでしょう・・・。苦しいですが、今日はビジョンとか理念とか、そういったお話です。当然、戦略との関係を中心として書いていきます。
理念・ビジョンと戦略の関係について言えば、古典的にはドラッカーが事業として何をするか?ということと社会的な正しさの関係を語ったのが始まりと言えるでしょう。ただ、ドラッカーは学問的に語るというよりは、彼の経験と直感に基づいて語っています。
また、SWOT分析の創始者であるケネス・アンドリュースも、戦略は「①環境という機会から見て、何をすればいいのか?②会社はその能力と資源から見て何をすることができるのか?③会社の経営者はその個人の価値観から何をしたいと思っているのか?④会社は一層広い倫理と社会を考慮に入れて何をすべきなのか?」に端を発すると言っています。
経営理念自体は日本では奥村先生が1970年代から「経営と社会」の領域で研究をされています。
経営の社会性を考えることは学問としてありえるのか?ただの経営者への道徳的な説教以上のことができるのか?ジャーナリズムのような俗説を脱却できるのか?といったことから真面目な議論がされており、好感が持てます。こういった研究の積み重ねが現在のCSR等の分野につながっているわけです。
ホファー&シェンデルは1970年代以前の米国企業の理念・ビジョンが戦略と結びついているケースを挙げています。
しかし、理念・ビジョンという言葉自体を世界的に最も普及させたのは1990年代に出版された『ビジョナリー・カンパニー』でしょう。ジム・コリンズは卓越した業績を上げた企業と、それなりに素晴らしい業績を上げた企業を比較して、その違いは経営理念にあると主張しました。
ただ、歯切れが悪いところとしては、理念・ビジョンを社会的に素晴らしいものにしたら業績が上がると言っているわけではないことでしょうね。現状としてそういう違いがみられるからと言って、全ての高尚な理念を掲げた企業の業績が卓越したものになるのか?と言われるとそうでもなさそうなことはすぐにわかります。
そして、『ビジョナリー・カンパニー』は戦略と理念・ビジョンの関係を語っているというよりは、その組織との関係を語っています。
どちらかと言えば、組織が経営戦略の先にある考え方をしているわけです。「どこに行くかよりも、バスに乗せる人を先に決めた企業が卓越した成功を収めた」とも言っていますからね。
『ビジョナリー・カンパニー』の内容を経営戦略の側面から発展させたものに、ベイン・アンド・カンパニーの『コア事業進化論』があります。
コア事業の再定義から新たな成長軌道の実現に向けた手順を整理していますが、組織内に眠る見えざる資産に着目して企業を再成長させていくという考え方自体は、組織内にいる人々がやってきた何か、こだわりのある何か、積み重ねてきた経験や価値観などを重視するビジョナリー・カンパニーの考え方との共通点は多いでしょう。
また、『ビジョナリー・カンパニー』と似たような主張をブランド論で行ったのが、片平秀貴先生の『パワーブランドの本質』と言えるかもしれません。ブランドには魂があるというようなことを言っていますが、ジム・コリンズが研究対象とした企業と、片平先生が対象とした企業は似通っています。
片平先生の語り方で行くと、理念・ビジョンのようなものは、組織に通底しつつ、マーケティング的な効果もあると取れます。ブランドは情報が対称ではない状況の中で、ある意味で「良い先入観」を創り出すものだからですね。
では、理念・ビジョンとは何でしょうか?
研究者や論者によって言うことが違いますし、ここで新たに定義しても無価値ですので、言われていることを大まかにまとめますと、理念とはその組織の存在理由、組織の「やりたいこと」、すなわち意思です。
たいていは事業領域に対して抽象的な記述がなされます。ビジョンはその組織がやりたいことをやると、どのような未来が実現するかといったことが書かれます。
『ビジョナリー・カンパニー』においても、理念とビジョンの定義について明確な違いは記述されていませんので、その会社がやりたいことが書いてあって、それが事業領域と目指す未来像を抽象的にせよ明らかにすると考えれば特に問題はないでしょう。
事業領域についての記述が理念・ビジョンにあるとすれば、それは全社の戦略を規定、制約します。事業領域、いわゆる「ドメイン」は全社の戦略を規定するスタートとなるケースが多いので、これはけっこう大きな意思決定です。
このことを初めに主張したのは1970年代に戦略計画や事業ドメインの研究をしたエーベルです。エーベルはドラッカーやアンドリュースに見られる感覚的な要素を批判し、事業の定義に影響を及ぼすような個別の意思決定をその都度経営戦略に基づいてするのならば、事業の定義は個別の意思決定の結果としてなされてしまうことになると言っています。
つまり、事業定義の考え方自体が理念・ビジョンの影響から明確に規定され、その規定にされたものをベースに、個別の意思決定をすべきだと言っているわけです。
今風に言えば、経営戦略の要素としてドメイン定義をしっかりして、そのドメイン定義に基づいて個別の事業領域に影響を与えるケースの意思決定をすべきだと言えるでしょう。
また、理念・ビジョンはドメインを制約するだけではありません。戦略的自由度も制約します。目指す未来像を明らかにすると、現状の価値観が自動的に規定されてしまいます。価値観とは、一般的に大事にすることとその優先度を言います。
未来に何を実現したいかが定まると、その実現したいことに関係があることが大事で、実現したいことに関係がないことは大事ではないことになりますからね。実現したいことと関係があることの中でも、実現したいことに対してより強い関係があると考えられることはより大事になります。つまり、優先度が明らかになるのです。
バーニーも指摘しているように、組織に価値観が存在する場合、それは打ち手の自由度を制約します。競争優位を築くための施策のうち、価値観に合わないものは選択できなくなるわけです。
ポーター的に「やることとやらないことを決めることが経営戦略」ならば、価値観は、やることとやらないことを、やりたいこと、実現したい未来の視点で決めてしまうのです。
また、D・J・コリス/S・モンゴメリーは完璧な組織体制による企業統治など不可能なのだから、コンテクストによる統治の要素がどうしても必要となることを指摘しています。そして、そのコンテクストは理念・ビジョンに端を発するとも考えられるわけです。
ただ、いわゆる経営戦略の大御所な方々、ポーターやミンツバーグなどからは理念・ビジョンは非常に評判が悪いです。彼らは理念・ビジョンはペダンティックだとも言いますし、積極的に理念・ビジョンを評価するバーニーにしても、それが本当に経営戦略を正しく方向づけるのか?と疑問を呈しています。
そして、ジム・コリンズも言うように理念・ビジョンがなく、プロフィットだけを目的とする会社でも業績がそれなりにいい会社は多数存在しています。だから、流行っているから当社も理念・ビジョンを作ろうと思うのならば、あまりお勧めはできません。
しかし、成長軌道にある程度乗った会社で、社会的な責任をしっかり果たして行きたいと言いたいと思うのならば、それが経営戦略に及ぼす影響も踏まえた上で作ってみることも選択肢としてあると思うのです。
何より、組織のメンバーがビジョンに対して納得感を持った時のモチベーションというものは確かにすごいものがありますからね。
なんとも歯切れの悪い話が続きましたが、とても歯切れのいい話が最近出てきました。主張しているのはサリム・イスマイルです。
イスマイルは「飛躍型企業」というものがあるとし、その飛躍型企業では理念・ビジョン的な概念としてのMTPが非常に重要な役割を果たすとしています。
飛躍型企業とはイスマイルの言葉を純粋に引けば「加速度的に進化する技術に基づく新しい組織運営の方法を駆使し、競合他社と比べて非常に大きい(少なくとも10倍以上の)価値や影響を生み出せる企業」だそうです。
そして、MTPとは何か?ですが、いわゆる理念・ビジョン的なものに私には見えます。
MTPとはマッシブトランスフォーマティブパーパス。野心的変革目標です。いわゆる一般的に言うミッションとは野心的であることが違うと当人たちは主張しています。しかし、社会をどう変えたいのか?という話という意味では、理念・ビジョン・ミッションとさして変わらないように見えます・・・。
念を押しますが、この文章では「理念・ビジョン・ミッションの区分けこそが大事なんだ!」といった主張にはくみしません。これらは似たようなものであり、これらが一体的に指し示すことこそ大事だという立場をとります。要は我々は誰で何がしたいか?どんな状況/世界を作りたいか?です。
アバウトには上記のように「飛躍型企業にはMTPが必要だ」というような話であり、これは「成長企業に理念・ビジョンが必要だ」という人々がこれまで主張したくてもなかなかできなかった話で本当であればハッピーなことなのですが、もう少し詳しく見ていこうと思います。
イスマイルのいう飛躍型企業の定義の「加速度的に進化する技術に基づく」というところですが、これはムーアの法則やレイ・カーツワイルの言うLOARを引き合いに出して技術の加速度的成長を言っておりますので、いわゆるデジタル化の話として捉えればいいと思います。
ちなみに「ムーアの法則」は大丈夫ですよね。18カ月ごとに集積回路上のトランジスタ数は2倍になる、でしたね。そこからコンピュータ性能が加速度的に上がっていく現象をイメージ的に形容しています。
LOARは一般にはあまり知られていませんが、カーツワイルがこのムーアの法則のような進化はあらゆる情報を基盤としたパラダイムにあてはまると主張した考え方です。「収穫加速の法則」というやつです。
そして、どんな分野でも情報化されれば、一定コスト当たりのパフォーマンスは上昇し、この倍増パターンは決して止まらず、その領域にはAI,ロボット、バイオテクノロジー、バイオインフォマティクス等が含まれるとイスマイルは主張しています。
次の「新しい組織運営の方法を駆使し」ですが、資源の希少性を前提とせず、豊富に資源がある前提で組織運営をすべきとのことです。
資源が希少であるのは戦略上は前提です。当然ですよね。だから、これまでの組織構造は資源の希少性を前提とした設計で所有を前提としています。所有権というもので希少な資源を保有することが競争優位の源泉になるわけです。独占レントもそういう概念です。
しかし、現在は豊富に資源がある。特に先進国にはある。だから、アクセスやシェアという概念が有効になるというロジックです。uberもairbnbも先進国に過剰にある設備を前提としたビジネスです。
つまり、資産活用効率を一定値まで上げれば既存の社会の資源から更なるキャッシュを生み出せる。そういうビジネスです。
すると、一旦、資源および使用したい人を情報的にマッチングさせる仕組みができてしまえばものすごい成長が初期には期待できる。
ただ、これまで、組織はそういうふうに成長することはなかったのでこういった飛躍的成長を遂げる組織にあったマネジメントノウハウはない。これまでのやり方では通用せず、組織が空中分解してしまったり、成長を阻害してしまう可能性がある。
だから、「指数関数的成長を前提として組織をスケールさせる新たな方法」が必要になる。そういうことです。この時、MTPが大きな意味を持つのですが、それは最後に解説します。
そして、「競合他社と比べて非常に大きい価値や影響を生み出せる企業」というのは、具体例として信じられない実績、成長を短期間で実現した企業が例示されています。
具体的な企業とその実績としては、クアーキーは新製品開発のリードタイムを通常の250日~300日から29日に縮め、ローカルモーターズは従来30億ドルかかった新しい自動車のローンチを300万ドルで達成、Airbnbの従業員数は1324人で4万5000人の従業員を抱えるハイアットより高い100億ドルの評価額を得ている、といったことです。
では、こんなにすごい飛躍型企業にいわゆる理念・ビジョンの一種であるように見えるMTPがどのようにかかわっているのでしょうか?
イスマイルの主張を要約すると「飛躍型企業は、大きな目標を持ち、目標達成のためにはビジネスモデルを常に変革させていく必要があるので、当初から野心的で大きな変革目標を保持し、エコ・システムの形成に際しても、共同作業のコストを低減させることができる」といったところです。
つまりね、大きな野心的目標、MTPの効果として、常なるビジネスモデル変革の肯定と共同作業のコスト低減があると言っているのです。これは画期的です。ビジネスモデル変革は、ドメインに理念・ビジョンが影響を与えるといった伝統的な話に近いように見えますが、共同作業のコスト低減にMTPが効くと言っているのは新しい。
では、MTPはどのようにビジネスモデル変革と共同作業のコスト削減に効くのか?
まず、ビジネスモデル変革について見ていきましょう。
MTPは野心的な変革目標です。つまり途方もなく大きな実現目標です。TEDでは「価値あるアイデアを広める」であり、Googleでは「世界中の情報を整理する」です。月面無人探査コンテスト「Google lunar X prize」で有名なXプライズ財団では「人類にとって有益な飛躍的技術革新を実現する」であり、シンギュラリティ大学では「10億人の人々によい影響を与える」です。
目標としては大きいです。野心的です。イスマイルの言葉で言うと「小さく考えていては、急速に成長する戦略など作れない」からです。そして、「成長によって従来のビジネスモデルが使い物にならなくなるため、何もしなければあっという間に路頭に迷う」そうです。
確かに、顧客やステークホルダーの規模によってできることは違い、最適なビジネスモデルは異なります。そうすると、成長フェーズにあったビジネスモデル選択が必要ですね。そのためにMTPは野心的であり、変革をいとわないものとなるそうです。
次は共同作業のコスト削減です。多少長くなってしまうのですが、人材を惹きつける視点からイスマイルは共同作業のコスト削減までができるということを説明しています。だから、もうちょっとだけお付き合いください。
MTPが優れていれば、「優れた人材を引き寄せる」際にも役に立つそうです。そして、「成長が不安定な時期には、MTPは社内を一致団結させる」とのことです。なんと素晴らしいのでしょう。ただ、理念・ビジョンに感動して入ってきてくれる人々ならばそうなのかもしれません。
そして、エコ・システム形成に際しても有利で、優秀なパートナー企業を引き寄せたりできる、と。
イスマイルの言葉で言えば、「ステークホルダーを集めたり、維持したりでき、彼らとの共同作業のコストを下げられる」です。
つまりは、目指すもの、志が同じような人、企業が集えば、コミュニケーションコストなども下がるだろうということなのですね。ここまで積極的に理念・ビジョン的なものを評価した考え方は非常に珍しいです。
イスマイルはMTPはミッションステートメントとは違うと言って、どう違うかを延々と解説してくれていますし、MTPを総合的に機能させるための仕組みについても解説しているのでご興味がある方は「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法」をお読みください。
いろんな例を見てきましたが、理念・ビジョンは集うメンバー、組織の価値観に影響を与えるものです。それはつまり、認知、行動の優先度を規定します。価値観とは大事なものごととその順序ですからね。
「戦略とは何をし、何をしないかだ」と言いますが、これは資源が希少だからであり、あらゆることはできない。だから大事なことだけをし、大事でないことをしないことというふうに読み替えられるでしょう。
すると、理念・ビジョンは戦略的自由度を制約するレベルの大きな優先度を示してくれるということになります。我々は何を大事にし、何をし、社会をどうしたいのか。そういったことを明らかにすることは、ドメインを規定することになり、エコ・システム/ビジネスモデルを規定することとなり、成長目標を規定することとなります。また、ブランドという視点ではブランドパワーの源泉にもなり、内外のステークホルダーを方向づけるわけですね。
今後は、さらにこういった考えが推し進められていくと思っています。戦略には理念・ビジョンの制約が必要だ、と。この理念・ビジョンレベルでの合意がないがために、戦略選択でもめるケースをたくさん見てきました。こういった知見が広がることで、多少でも価値観レベルでのメンバーの齟齬が減少し、戦略選択でもめたりしないようになることを願います。
長かったですね。ごめんなさい。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次回をお楽しみに。
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