DVと職場のパワハラの同じ根っこ/内藤 由貴子
INSIGHT NOW! / 2018年2月2日 21時40分
内藤 由貴子 /
DV加害者の声
1月29日のNHKの「あさイチ」と言う朝の番組で「DV 加害者の声から考える」という特集をしていました。
出かける前だったので、じっくり見られませんでしたが、被害者の声ではなく「加害者の声」というのは、とても興味深いものでした。
加害者にもアプローチしなければ、問題の根本解決にならないという問題意識が少しずつ広がっていて、この番組では民間団体によるDV加害者更生プログラムについて取材がされました。
その更生プログラムに通うある男性が語ったことが印象的でした。
それは「自分は、DVをしているとか、まったく思っていなかった。」ということ。
暴力も暴言も自覚がないということです。
過去にモラハラで離婚した芸能人カップルの夫側も、そんなことを言っていたのを思い出しました。
便宜上、加害者を夫、被害者を妻 にしておきます(逆のケースも実際にはあります)が
この感覚の背後には
1、所有意識~ 妻は、自分の持ち物、自分の一部 自分の自由になるべき
2、特権意識 ~自分が食わしてやっている、この家では俺が一番偉い など
だから、時に「指導」も必要となり、手が出ることに。
3、被害者意識 ~たとえば「お前 がちゃんとやってないから、自分の仕事に支障が出る」とか。
当然、他罰的になります。「あんたのせいで、自分は迷惑している」と言うのがそのパターン。
これらの3つの意識が存在すると紹介されていました。
DV加害者の3つの意識構造
この3つは、分類されてとても分かりやすくなりました。
私なりの解説を加えてみます。
1は、あとでまた書きますので、まずは2と3について、
2の特権意識は、
裏返せば、この家でないと偉いと思ってもらえないという自己否定感が隠れています。
食わしてやっている、などは、自分が相手より優位に立ちたいという欲求から来ていますから。
他所では、自分を認めてもらっている感覚が薄いので、家では弱い立場にいる妻にこんな風に振るまえるわけです。
相手をコントロールできる感覚は、自己肯定感を補填してくれるという、大きなニーズが隠れています。
3は、他罰的で、もちろん本人が悪くても(暴力をふるっても)責任転嫁をすることで、自分はいつも正しいと言いたいわけです。 言われた方は、自分に非があったかも、と罪悪感を刺激されて自分を責め、自己否定感を募らせることに。*黄色い花の写真は、「罪悪感が癒される」のに見るだけでも役に立ちます。
暴力の恐怖もあり、無力感に満たされます。 結果として、支配-被支配関係が出来上がります。
3の支配-被支配関係は、実は、1の意識が大きいです。
「所有意識」というのはつまり、夫は妻を別の人格だと気づいていないということです。
だから、「愛しているなら自分と同じ」、自分が望むことを相手がわかっていて当然だと思っているし、それがわからないと腹が立つ、手が出るということ。
こうしたベタっとした関係は、夫が妻の意識を自分の一部に取り込んでいるような関係です。
すると、当然、対等ではいられなくなり、自分が上に立って支配する関係を作りやすくなります。
そこに2の 特権意識が作用すれば、より支配関係は強まります。
3の被害者意識の支配-被支配関係も、結局ここにつながります。
「愛」の誤認
さて、加害者の所有意識には、「愛しているなら、自分と同じ」と言う意識があると書きました。
とても古い概念ですが、夫婦関係に「夫唱婦随」という言葉があります。
そこには、妻は夫に従え、妻は夫の考えと同じであるべき、という意味ですが、それは愛とは言えません。
本当に愛ある関係では、相手を独立した人格としてその個性、自分との違いを認め、尊重するはずです。
もちろんそこには対等な関係があります。支配-被支配にはなり得ません。
さらに、その関係からは、互いをより理解することで自分も成長させる機会が作られていきます。
相手をより深く理解することによって自分と相手の違いが際立ち、自分の個性が。自分でもより理解できるからです。
結果として、愛するパートナーから、自分の成長を促されることになるでしょう。
パワハラとの共通点
タイトルに「パワハラとの共通点」と書いたのに、長々とDVに着いて書いたようですが、
パワハラをする人にも、同じような意識があります。
上司が部下に対してするパワハラなら、部下を別の人格で違う個性を持った人としての認識が足りないと、自分の要求通りにしごとしないと、許せない。なぜ、自分の手足となって働かないのか、となります。
もちろん、上司だという特権意識が、それを支え、部下をコントロールできれば、常に自己肯定感は補填されるので、いつでも「自分はスゴイ!」と思える状況が作られます。
失敗は、部下の責任、自分は仕事の足を引っ張られた被害者です。
大きな失敗と言うより、日常の些細なことに上げ足を取るように、ねちねち注意し、上司本人はいつでも自分は正しい、部下はダメの構造を作って支配-被支配の関係を保とうとします。
部下は、たまったものではありません。
私のところに相談に来る方は、DVもですが、パワハラの被害者しか来ません。
先に書いたように、パワハラをする人には、そもそも「自分が悪いかも?」という反省をする発想がないからです。
10年以上も前のことですが、知人で大手の企業でカウンセラーをしている人が、ある部署で、退職者が相次いでいるので、人事からその部長と会って、カウンセリングするように言われたそうです。
人事からすれば、大切な人材が次々に失われるのは由々しき事なので、それを止めたいという意図だったのでしょう。
それを聞いて「その人、絶対に自分が悪くないと言ったでしょう?」と私が聞くと
「そうなのよ。いくら言っても『なんで自分が悪いんです?悪いのはあっちでしょう』というばかりで」と言います。
結局、その部長さんは、ほとんど部下がいないような部署に異動になったとか。
「子育て」でも気を付けてください
DVやパワハラとは異なりますが、「愛」の誤認は、時に子育てでも起こります。
親は子供を自分の所有物のような錯覚をしやすいからです。
この関係は、支配-被支配関係になりやすい。
親の期待に応えようとする子供と共依存関係が作られることも少なくありません。
詳しくは、昨年の3月30日のこのINSIGHT NOWの記事で、母子密着を描いたドラマでも書きました。
大切なのは、子供が独立した人格であること、子供を理解する上で、子供の世界が親の自分とは違うことを十分に気づく必要があります。
そんな愛の理解から生まれる関係は、子供に親に見守られているという安心と信頼を生みます。
それは、理想かもしれませんが、見えない支配を受けた子供が、大人になって心の不調和に気づき、セラピーを受けに来ることは多いです。
実際には、親御さんの愛であるには違いないので、なぜ親はそうせざるを得なかったまで、子供から親への理解を促すことまでも対応しています。
もしも心のどこかにこのことを留めていただければ、少しはこうしたことで悩む人も減るのかと思います。
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