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仮想通貨9%の天井:あんなもの、トレカと同じ/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2018年2月6日 8時31分

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

 なんやら、はやりらしい。「エバンジェリスト(福音者?)」とか言って、アム×ェイや×ッパーみたいに、やたら宣伝してるうさんくさいやつらも、ぞろぞろ。買わないヤツは乗り遅れる、って、それ、バンドワゴンの典型じゃないか。もう食傷気味。

 そもそも仮想「通貨」というところからウソくさい。教科書的に言うなら、近代の「通貨」は、①価値尺度、②支払手段、③価値蓄蔵、④交換媒介、という4つの機能のいずれかを満たさなければならない。ところが、仮想通貨は、尺度として不安定、支払として未確立、蓄蔵として高リスク、媒介として使えない。つまり、最初から通貨の条件を一つも満たしていない。それは、仮想通貨が普及過程だから、ではない。というのも、将来的にも、すぐに天井にぶち当たるからだ。

 たとえば、スマホゲームの課金率。じつは、ゲーマーの9%のみ。残りの91%は、これから課金アイテムを購入するだろう未開拓の市場、ではなく、スマゲごときで課金アイテムなんかに手を出さない課金絶対拒絶層。そもそも、スマホを持っていたって、ゲームなんかしないスマゲ絶対拒絶層がその上に存在し、さらにその上に、スマホなんか持たないというスマホ絶対拒絶層がいる。だから、スマホゲーム市場というのは、スマホを持ってゲームをやってしまう緩いやつらの、さらにその9%から、いかに高額を長期にヌラヌラとむしり取り続けるか、で成り立っている。

 追跡調査をしたわけではないが、いまの仮想通貨購入者は、ちょっと前までスマゲ課金者だったのではないか。さらに前は、連中は、小学校や中学校のころから薄暗いバトルコーナーにたむろっていたトレーディングカードコレクターだったのではないか。よく知られているように、仮想通貨購入者の多くは、無政府主義者、というより、既存の主流社会キャリアからドロップアウトして、カネの力での人生の逆転と社会の改革を夢見ている連中だ。もっとはっきり言ってしまえば、既存通貨、既存社会に対する反体制的ルサンチマン(怨嗟)こそが、かれらの仮想通貨への熱狂の根本にある。

 連中の気持ちもわからないではない。学校も、会社も、コネ入学、コネ入社だらけ。そうでなくても、親が金持ちで頭のいい子が、キャリアコースで先を行く。それで、ドロップアウトして、トレカ、ゲーム課金、仮想通貨。それでうまくいけば、ドロップアウターの仲間内から勝ち抜け。つまり、ドロップアウターの中ですら、さらにドロップアウトして、ツケを背負い込むやつらが大勢いてこそ、そいつらから、広く、うすく、うまく掠め取って、そこから這い出ることができるやつもいる。まさにピンキリを賭けた敗者復活戦。

 だが、もともと矛盾しているのだ。いくらレアなトレカを持っていても、社会的な尊敬は得られない。同様に、どれだけ大量の仮想通貨を持っていても、一般社会では話にならない。結局、既存通貨に換金し、既存社会で、既存キャリア連中にマウンティングすることでしか、彼らの夢はかなわない。そして、いくらマウンティングしたところで、彼らのカネを受け入れても、まともにキャリアを経てきていない彼らを、人として受け入れることはない。デイトレーダーがいくら株やカネを集めても、経営者として組織を統率していく人望はつかないのと同じ。

 とりあえず現在は、連中が、同じドロップアウターの、とろい連中を掘り起こしているところで、事実上のネズミ講。ドロップアウターは、次の世代からも供給され、その上澄みで大儲けをするやつらが出てくる。だが、ネズミ講は、限界利益率が急激に逓減していくので、つまり、仮想通貨の値上がり率が急激に下がっていくので、すぐに乱高下し、魅力も失われる。それどころか、手持ちの連中まで一気に売り逃げて、価値崩壊。全学連が前後世代で全滅したのと同じことが起きる。

 派手に活動していたように見える70年安保のころでも、冷静に見渡すなら、全学連運動なんかに関わったのは、全大学生の9%程度だろう。それがそれ以上に広がらなかったのは、残りの91%が沈黙の絶対拒絶層だったから。仮想通貨についても、ある程度まで広がるかもしれないが、あんないかがわしいもんに関わりたくない、という91%が絶対の壁、絶対の天井になる。もう、すぐそこで、それにぶつかる。

 なにがあっても、わざわざあんなものに手を出さない。そういう沈黙の絶対拒絶層が91%も存在する。このことは、社会のコンセンサスによって支払手段や交換媒介となる通貨として、致命的だ。そればかりか、もともとドロップアウターのくせに、ろくに働かず、あんなイカサマに関わって金持ち面して図に乗っている反社会的な連中は地獄に落ちろ、という健全な保守層の声の方が、かならず強くなる。それが、社会の9割以上の本音だからだ。銀行や証券ですら嫌われているのに、新規産業への資本移動にもなにもならない(負け組ドロップアウターたちの中でのカネの融通集中でしかない)仮想通貨の関与者が、ちょっと落ち目になったとき、社会的にどういう目に遭うか、想像するだに恐ろしい。(CFやICOも、まともな株式発行をしない邪道として、遠からず同じ道を辿るだろう。仮想通貨は、根が反体制的だから、銀行や証券のような政治救済もありえない。)

 結論を言えば、仮想通貨というものを、経済事象としてではなく、社会問題として見るべきだ。通貨以前に、世襲や相続、キャリア階層の再生産で、社会そのものがが流動性を失いつつあり、それが世界中の若いドロップアウターたちを仮想通貨という幻想に駆り立てている。それは、かつての全学連の世界革命、近年のイスラム原理主義などと同じ潮流だ。だが、それは、91%の保守的な沈黙の絶対拒絶層の反撃によって、いずれかならず叩き潰される。一部は逃げ切って、ふたたび社会に潜り込むだろうが、関わって人生を破滅させる若いやつらが続出する。人生一発逆転を狙うしかないドロップアウターでもなければ、親族を含め、高見の見物を決め込む方が賢明だろう。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)

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