地方移住という働き方はありか?/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2018年2月12日 8時17分
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猪口 真 / 株式会社パトス
もはや国の一大事となった感もある「働き方改革」。
この働き方改革のひとつとしての手段が「都会から地方への移住」というライフスタイルだ。
移住する若者が増えている?
「平成28年度国土交通白書」によれば、2010年から2014年の5年間、都市への人口移動は継続しており、地方から都心への人口流入の流れは変わっていないものの、過疎地域で社会増(人口流入数と流出数のプラスの差による人口増)となった市町村が、わずかながら微増傾向にあるとしている。
確かに、昨今の若者の意識の変化として言われるのは、昇給や昇進願望の減少。出世などしなくて良いとする価値観の増加であり、NPOやソーシャルビジネスを志向する若者も増えていると聞く。経済的な成功ではなく、自然や環境重視、社会貢献への意識の高まりというべき現象なのだろうか。
内閣府の世論調査「都市住民の農山漁村地域への定住願望についての調査」を見ても、2005年調査に比べ2014年調査では、30代の農山漁村への定住願望が17.0%から32.7%、40代では15.9%から35.0%へと大きく伸びている。
地方移住を希望する人と地方公共団体とのマッチングを行っている「特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センター」の実施しているアンケート調査によれば、2014年の来場者は2013年の約1.4倍となっており、その年代別の内訳を見ても、40代までの若い世代の利用者数が増加しているという。
二地域の居住
移住とまではいかなくても、地方の良さを知る人たちが、都市と地方という2つの居住拠点を持つという選択もある。
これまでの2つの地域の居住のイメージは、月曜日から金曜日をオフィスのある都心に住み、週末は自然と触れ合うために地方で過ごすというライフスタイルだろう。どちらかといえば、経済的に余裕のある人たちが、地方(といっても都心からほど近い)に別荘的な住まいを持ち、リゾートライフを楽しむというものだ。
しかし、そのようなライフスタイルにあこがれ、別荘を購入しようとする人たちは、今の若い世代にはほとんどいない。会員制のリゾートクラブが順調に会員を伸ばしているところもあるようだが、バブル崩壊後、リゾート地の購入市場は冷え切ったままだ。
同じ2つの居住を持つスタイルでも、それとはまったく逆のライフスタイルを志向する人たちが今増えている。人で込み合う平日にあえて地方で過ごし、ゆったりとした空間や環境で仕事をこなし、人の少ない週末に、思う存分都心を味わうという生き方だ。
現実に、そういう働き方を選択している、あるいは志向している人は増加していると感じる。特にクリエイターや文筆家といった、個人の力を発揮することで仕事が成り立つ人は、問題なくできるし、Yahoo!が地方に拠点を持つのは、こうした志向を推奨しているものと思われる。独立系のビジネスパーソンは、むしろ率先して行ってもいいのではないか。
インターネットによるコミュニケーションツールは、ここ10年、各段に進歩しており、かつて大きな設備投資が必要だったテレビ会議システムは、今はほとんど無料で行うことができる。
そのため、クリエイターでなくとも、通勤時間で往復2時間使うのであれば、その2時間を仕事に使うことで、ずっと効率的な仕事ができる人は多いはずだ。
副業が市民権を得た?
それでも多くの人が移住や二つの地域の居住を検討した場合、不安を感じるのは、収入の面だろう。
そこでもう一つの選択肢としてあるのが、「副業」だ。
これまでの日本企業では、副業というと隠れて行うイメージだったが、マイナンバー制度の影響もあり、かたち的にはすべてオープンになることになった。その影響かどうかは定かではないが、日本の大手企業の中にも、制限付きではあるものの、ヤフーやサイボウズなど、副業を認める方針を発表している。すでに企業としてどうかというよりも、国をあげての推進というべき状況だ。
「ランサーズ」が実施した「フリーランス実態調査2017」によれば、副業に取り組む人は確実に増えており、2016年から比較しても、10%増加の458万人もの副業者が存在するという。フリーランスという働き方を選択している人たちの中でも、特に増加しているらしく、副業をしてみたいという個人は73%も存在しているという。
しかし、現実には、地方に移住したあと、生活にギャップを感じてしまう人も多いだろう。主観だが、どちらかというと、都会から地方へ移りたいと考える人たちの傾向としては、自分自身の才能や能力の発揮のためというよりも、会社の人間関係のストレスや仕事のプレッシャーに対して、違う選択がないかと考えた結果のほうが多いと思われる。
しかし、現実の地方の生活圏では、より密度の高い人間関係が求められたり、それこそ仕事とプライベートの区分けなどなくなったりすることも多い。つまり、都会よりもより高度なコミュニケーション能力が必要なことも多く、逆に、自分の人生すべてをささげることも少なくない。
都心と地方。どちらにも良さがある。国は生産性向上の一環としての政策かもしれないが、これは、ビジネス上の「勝ち負け」の問題ではなく、ライフスタイルの問題だ。地域間の時間的距離は、ひと昔前に比べれば、感覚的には半分以下の近さだろうし、柔軟な選択ができる環境が整ってきたともいえる。一人ひとりがより充足感を感じる生き方をするために納得する選択をすればよい。
しかし、どのような働き方、生き方を選択しようが、都会を選択しようが地方を選択しようが、個人として選択した責任があることを忘れてはならない。
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