奨学金と徴兵制:返済オプションとしての入隊/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2018年2月19日 3時46分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
この世にタダは無い。きびダンゴをもらったら、鬼ヶ島へ連れて行かれる。弱みがあれば、つけこまれる。借りなんか、作るものじゃない。
どうやったって、これからこの国は少子化だ。あらゆる分野で、若手不足になる。それでよけい自分を高く見積もって、あれも嫌だ、これも嫌だ、思った通りの仕事が無い、と、ミスマッチが悪化。そんな中、国防だの、介護だの、いくらやりがいがあっても、きつい職場は、ぬるい連中には、いよいよ敬遠される。
もともと奨学金は、お勉強をしたいという良い子への御褒美なんかじゃない。国家の近代化という急務を担う人材の育成が目的だった。県人会や同窓会でも同じ。出した以上は、相応の見返り、貢献や宣伝という結果を出してもらわないと困る。無償の義務教育だって、国民皆兵とセット。
そんな昔、背嚢担いで鉄砲持って突撃していた時代は、人数さえいればよかった。だが、現代の国防や介護となると、成人式で騒いでいるような、そこらのちゃらい若い連中を適当に籤引きして、赤紙で引っ張ってきてどうにかなるようなものじゃない。機材は複雑、パソコンくらい使えないと話にならない。むしろ、べつに屈強な男ばかりでなくてもかまわない。女性でもなんでも、大学に入って奨学金が取れる程度の連中が、じつは最適。
第二次世界大戦後、多くの国が軍隊を縮小し、徴兵を止め、使命感のある少数精鋭の志願者だけでやればいい、と思っていた。また、国によっては、入隊を移民の国籍取得の条件にしていた。ところが、気がつくと、国家防衛の使命感に燃える若者より、国籍目的移民や一般不適格者の方が多くなっていて、かえってテロの温床、クーデタの元凶、事故混乱の発生源になりかねない。それで、もっとふつうの大学生みたいなのを集めないとヤバい、ということで、世界の潮流は、むしろ徴兵制復活に揺り戻している。
さて、日本はどうなるだろう。奨学金はもらったけれど、やっぱり自分に合った仕事が無い、で、収入が無い、だから、奨学金は返せない、仕方ないじゃん、では、もう済むまい。とはいえ、いまどき奨学金のカタに力づくで徴兵したりなんかもするまい。だが、本人も、親も、保証人も、みんな破産して、長い一生、親族一同、ダメにしてしまうんですか、それとも、これほど有利な条件で、あなたが数年間だけ入隊しますか、そうすれば奨学金返済、全チャラですよ、さあ、どちらをお選びになりますか、と、優しく誘いかけてくるだろう。そうなると、親や親族も、因果を含めて、本人に入隊を勧めざるをえまい。
名前が奨学金だろうと、進学ローンだろうと、カネを借りる、ということは、将来の自分自身を債務奴隷として売り渡す、ということ。その場で清算される売春よりタチが悪い。大学の四年間、人のカネを自分のために使ってしまった以上、同じ四年間、いや、利息が付いてそれ以上、世のため、人のため、自分が使われることになる。どこへ飛ばされ、どんな仕事を押しつけられようと、文句の言える筋合いではあるまい。
もちろん、国防や介護は意義のある仕事。また、どんな仕事でも、世のため、人のため、と思って誠心誠意尽くすのは当然のこと。だが、選挙権のある十八も過ぎて国民としての勤労の義務を免れ、他の人々の税金から多大な補助金が出ている大学、とくに国公立に入ろうというのなら、なおさら相応に世間への恩返しを考えるべきだ。まして、奨学金まで得ようというのであれば、カネの問題だけでなく、それだけ重大な社会的責任を負うことを、もっと自覚すべきだ。そういう時代が、目前に来ている。寝ぼけている場合ではない。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)
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