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コーチが選手を潰す/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2018年3月5日 14時51分


        コーチが選手を潰す/純丘曜彰 教授博士

純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

少子高齢化と就職氷河期のせいで、日本の組織のあらゆる場面で奇妙なことが起きている。部下一人に上司三人。それも、上は、カビの生えたような過去の栄光と肩書があるだけで、子飼いの部下の成果に便乗だけして、のさばり続ける。そのうえ、目前の組織縮小を控え、多すぎる上の連中は、派閥としての組織内での生き残りを賭けて、たがいに争い、相手側の部下を潰し合っている。

相撲やレスリングだけではあるまい。ほかのスポーツ、プロはもちろん、アマチュアまで、そんな話がゴロゴロ。ヤクザかカルトのごとく、止めたいなどと言おうものなら、どうなることやら。まして、所属を移りたい、など、絶対に許さない。ヒマを持て余している、干からびたジジイの組織的で陰険な嫉妬ほど、面倒なものはない。

たとえば、大学などもそうだ。研究室はもちろん学会まで、むだに長生きな団塊長老とその子分たちが私物化。カネとポストをオキニの一派だけで廻す。どれだけ多くの優秀な若手が、大学院で潰されたことか。とくに文系では、論文の匿名審査が諸悪の根源。自分の素性がわからないとなったら、ネットの掲示板並みに、むちゃくちゃなコメントをつけて、ろくに実績も無いじいさんたちが引っかき回す。たとえば、海外資料をベースにしたヤクザ映画を総覧する論文で、寅さんはヤクザではない、没! とか(外国人でも知っている主題歌さえも知らないで、審査なんか引き受けるなよ)。マイケル・ポラニーなんか止めて、アダム・スミスの研究で自分の閥の子分になるなら、学振つけてやるよ、とか。こんなことでは、日本の大学の国際的評価が上がらないのも当然。

会社でも、古い業界は、似たようなもの。テレビや新聞、雑誌、書籍がマンガまでダメになるのも、上のセンスが完全に時代遅れだから。しかし、上に嫌われたのでは、編集者や作家としてはやっていけない。それで、それに合わせるのだが、視聴者や読者がそっぽを向いてしまった。新しいものがないではないのだが、そんなものはジジイたちの硬直したコンセンサスを得られず、編集会議を通らない。それで、若手は、ネットその他に活躍の場をシフト。いまやテレビや新聞、雑誌、書籍の方が、ネットのネタの落ち穂拾いで、日々をしのいでいるありさま。

販売でも、仕入れが固着してしまっている百貨店やスーパーが典型。出入りの老朽ブランドとのおっさん同士の付き合いが長く、切るに切れない。現場では、もうムリと声が上がっているのに、それを聞く耳を持たない。それどころか、そんなことを言おうものなら、このリストラ時代、真っ先に自分の方が切り捨てられ、放り出されてしまう。その間にも、世間ではどんどん新しい若々しいブランドが登場し、通販その他、別チャネルでの販売を開拓。それで、百貨店やスーパーそのものが沈没寸前。

金融関係も、ひどいもの。貸してやらぬでもない、なんて殿様商売をやっているうちに、おまえなんかから借りてやらねぇよ、だって、持ってるし、みたいな連中が湧き出てきて、現金買い。さらには、わけのわからない仮想通貨の投資だの、タックスヘイヴンへの逃避だの。一方、借りたがるのは、返せる見込みも立ちそうもない連中ばかり。金融機関そのものが、この世に存在意義を失いつつある。

基幹の電気や自動車でも、大企業の上の連中がごちゃごちゃ方針会議ばかり開いている間に、新興の、フットワークの軽いファブレスメーカーみたいなのが出て来て、スタイリッシュなデザインや、絞り込んだ機能で出し抜いていく。社内にいくら良いアイディアがあっても、それが上の会議をぜんぶ通るまで時間が掛かりすぎる。

なぜ日本はこのようなことになるかというと、日本の組織は、意志決定機関が現場からの上がりポストだから。内部の人間は、自分や自分の派閥の部下のミスや欠陥を絶対に認めず、それを隠したまま、むりやりリカバリーしようとし、それどころか、自分よりも調子のいい部門を嫉妬して妨害し、組織として、よけい泥沼に落ちていく。ピーターの法則にあるがごとく、すべての組織のポストは、その人物の能力の限界を超えた、それ以上にもう出世させる理由の無くなった、つまり、もはやまったく無能な人材で埋め尽くされる。その無能な連中が無意味な会議を開いて、無責任に、まだ可能性のある現場を潰す。

欧米の組織の場合、現場上がりは執行機関のトップにはなれても、意志決定機関(理事会、取締役会、株主総会)は、完全に外部の第三者の客観的な判断に委ねられる。内部の情状ではなく、厳しい大学院でしっかりと認められた博士号持ち、MBA持ちだけが、意志決定に参画できる。

今回、告発を、協会ではなく、協会を監督する第三者の内閣府に出したのは、とても賢明だ。協会なら、自分たちの組織のアラを認めるわけがなく、ただ闇討ちで揉み消すのは、予想がつくところ。現場第一、なんて、夢のまた夢。選手など、上の自分の保身と出世のための捨て駒というのが実情か。

だが、成果が出ていないのなら、それは現場ではなく、まず第一に監督の責任ではないのか。現場のメンバーを変えるより、まず監督の方をクビにして、人事を一新すべきではないのか。そもそも、監督を含め、カネとポストは、同じ業界内部で利権化させてはならない。かならず外部監査が握り続けるべきだ。外部の連中になどわからない、などというのは、公金、公職を私物化する理由にはならない。アカウンタビリティとして、きちんと外部の人々に説明できないような、カネやポストの配分は、組織を腐らせ、人材を潰す。

もっとも、どんなに意地悪、嫌がらせをされても、ほんとうの本物は絶対に潰せない、潰されない。かならず生き残る。それどころか、いつか腐った組織をまるごと潰す側にまで成長する。だから、現場の若手よ、腐るな。見ている人は見てくれている。上にもかならず味方はいる。そして、いつかかならずスパートをかけて、干からびたジジイたちを追い抜く一瞬のチャンスがある。その一瞬のチャンスを確実につかめるよう、ひそかに準備を重ね、力を大きく貯めておけ。ただひたすら未来を、自分を信じろ。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)

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