「伸びる企業には文化がある」創業30年企業を率いる経営者・広瀬元義に聞く経営の本質/LEADERS online
INSIGHT NOW! / 2018年3月19日 12時30分
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LEADERS online / 南青山リーダーズ株式会社
中小企業にこそマーケティングが必要
(仙石)会計事務所マーケティングの第一人者として業界をリードされていますが、株式会社アックスコンサルティング設立のきっかけは何だったのでしょうか。
(広瀬)事務所を設立した1988年はバブルの絶頂期でした。路線価が軒並み高騰して、不動産を所有している方々の相続税がとんでもない額になっていたんです。手元のキャッシュではとても相続税を支払えないとお悩みの方が少なくありませんでした。そういう方々のお力になりたいと考えたのが、最初のきっかけでしたね。
相続税には金銭で納める方法のほかに、船舶や株式、不動産など金銭以外の“モノ”で納める「物納」という方法があります。私はこの仕組みを使えば、苦境に陥った資産家の方々を救えるのではないかと考えるようになりました。
(仙石)そうだったんですね。不動産所有の方々とは、どうやって接触をもったのですか?
(広瀬)私は会計事務所専用の会計機を販売している、JDL(日本デジタル研究所)という会社でマーケティング部門の責任者をしていました。その関係で会計事務所の仕事も知っていました。
それで不動産の中でも、会計事務所の顧問先の資産家のサポートを中心にやろうと決めて、会社をスタートさせました。それがアックスコンサルティングです。当時として、一不動産会社が会計事務所の顧問先の資産家にコンサルをするという発想自体が特殊なものでした。
日本ではじめて物納のマニュアルを作り、設立して5年目くらいからは、物納の制度を利用したコンサルティングサービスに注力しました。ありがたいことに、売上は初年度が4,000万円、2期目で1億円、4期目で4億円と順調に伸びていきました。
(仙石)それはすばらしいですね。Q-TAXの核となるのは会社員時代から培ってこられたマーケティングサービスかと思いますが、マーケティングとは具体的にはどのようなことなのでしょうか。
(広瀬)マーケティングとセールスは同じようなものだと考えられがちですが、実はまったく違うものです。セールスはアプローチしてきたお客様に対してクロージングすることですが、マーケティングはお客様を呼び込むこと。中小企業にこそ、マーケティングが必要だとも言えるでしょう。
お客様を呼び込むためには、しっかりとした経営戦略がなければなりません。自社は誰に何を売って、どうやって収益を出すか。そして、いつまでにどのくらいの収益を目指すか。これらを徹底的に考えないと、企業活動はうまくいきませんよね。こうした一連の流れを実践していくのが、マーケティングなんです。
アメリカにはAAM(The Association for Accounting Marketing)という米国会計事務所マーケティング協会があるのですが、私は日本人で唯一、AAMの会員です。そこで最先端のマーケティングを学びながら、日本の皆様にもお伝えしているのです。
士業という“点”を線や面にしていきたい
(仙石)御社は2011年に「Q-TAX」をリリースされましたが、このサービスを始めるきっかけについても、ぜひお教えください。
(広瀬)ご存じのとおり、Q-TAXは良質な会計事務所のみが加盟できる、全国ネットワークです。加盟事務所については当方がコンサルティングを行い、お客様本位のサービスを提供できるようなしくみを整えています。
たとえば士業業界には、昔ながらの高級寿司屋のような感じで、顧問先の顔色を見ながらサービスの価格を決めるというような商習慣が長年ありました。
でもお客様目線に立てば、しっかりとした価格表があったほうがいいのは当然です。安心して士業サービスをご利用いただくために、まずは料金体系とサービス内容を明示しよう。こう思ったのが、Q-TAXのはじまりでした。
一方で事務所側に立てば、宣伝やマーケティングまで手が回り切らないという課題が出てきます。規模の小さい事務所ではなおさら、その傾向が強いでしょう。PRに腐心してばかりいては、一番大事な経営がおろそかにもなりかねません。
そんな中、Q-TAXが税理士業界の共通のブランドに育てば、加盟しているだけで一定の信頼を勝ち取ることができます。われわれが宣伝やマーケティングを代行することで本業に集中できるようになり、中小企業の経営者様をサポートできると考えたことも、Q-TAX推進を後押ししました。
(仙石)士業業界を盛り上げていくために、今後展開していこうと考えておられる事業はどのようなものでしょうか。
(広瀬)2015年に司法書士のネットワークである「アックス司法書士パートナーズ」、2016年には社労士のネットワークである「アックス社会保険労務士パートナーズ」をリリースしましたが、今年は弁護士のネットワークをつくりたいと思っています。
企業担当者は、それぞれの士業の担当領域を認識していないことがほとんどです。税理士、社労士、弁護士と個別にPRしても、悩みが発生したときに誰に相談すればいいのかがわからないんですよね。
アックスコンサルティングは“点”であるそれぞれの士業を“線”や“面”にしていきたいと思っているんです。どんなお悩みも、うちに相談してもらえれば最適な専門家を紹介できる。そんな存在になれれば、厳しい経営環境に置かれた中小企業を、より強力にサポートできると信じています。
(仙石)最近は士業のAI化が話題になっていますが、これについてはどうお考えですか。
(広瀬)数字を読んだり表にまとめたりといった作業は、たしかにAIに取って代わられる可能性が高いでしょう。しかし「判断する」という仕事は、AIにはできないはずです。過去のデータを分析して最適な判断を予測することはできても、それに対して責任をとれるのは人間でしかありえないからです。
意識的に「判断する」業務を伸ばすようにしていけば、士業もAI化の波を恐れる必要はないと思います。
正しいチャレンジには「世の中の流れ」を読む力が必要
(仙石)御社は約30年もの歴史をお持ちですが、事業を継続するために必要なのはどんなことなのでしょうか。
(広瀬)一番重要なのは、全員が責任を分かち合うような企業文化をつくることだと思っています。もちろん、経営陣だけが責任をもって社員はもたないという会社もあるかとは思いますが、アックスコンサルティングはそうではない会社を目指したかった。それでこそみんなでひとつの目標を追いかけていけるし、苦しいときにも目標を忘れずにいられると思うんです。
今は働き方改革が推進されていますが、大事なのは残業や休日出勤を減らすということではない。根本にあるのは、組織としていかに効率的に成果を上げるかということなんです。
そう考えると最終的に勝つのは、給与の額に関わらず、隣の人が困っていたら助ける文化が育っている会社なのではないでしょうか。
確固とした文化や理念の存在自体が、価値あることだとも思います。うまく行っているときは誰だってがんばるんですよ。大事なのは、うまく行かないときにふんばれるかどうか。そういうときに、ブレない企業文化や企業理念をもっている会社は強いと思います。
(仙石)長期的に事業を続ける中では、どんな企業も停滞期を経験するかと思います。停滞期を乗り越えるには、どうすればいいのでしょうか。
(広瀬)リスクを取ってチャレンジし続けることですね。停滞期で不安になると、できるだけリスクを取らずにいようと守りに入りがちです。でもそれは間違いで、そんなときこそ進んでリスクを取っていかなければならないんです。チャレンジを怠れば、そこから衰退がはじまる。これは個人も組織も同じだと思います。
ただし、やみくもにチャレンジすればいいというものでもありません。最初にはしごをかける位置が重要です。
正しい位置にはしごをかけるには、これから世の中がどうなっていくのかを見極めることです。法律はどう変わって、それによってどんな影響が出て、お客様がどこに向かっていくのかを読める力が大事なんです。
それに比べれば、教科書に載っている法律の条文なんて瑣末な知識。資格試験の勉強をしている時点からこういう意識があるかどうかが、独立後の明暗を分けると思います。
事業を通して社会貢献できているかということも、定期的に見直すべきポイントです。お金儲けではなく社会貢献が仕事の前提になっている事務所は社員の定着率も高いし、お客様からも支持されます。売上が伸び悩んでいるときこそ、自社の社会貢献度を振り返るようにしましょう。
(仙石)貴重なお話の数々、ありがとうございます。最後に現在進行形で経営に取り組む読者の皆様に、メッセージをいただけますでしょうか。
(広瀬)30年事業をやってきて感じるのは、会社の判断に対して責任をとれるのは経営者本人しかいないということです。どんなに優れた社員が周りにいたとしても、それは変わりません。だからこそ読者の皆さんにも自分の選んだ道を信じて、あきらめずにがんばってほしいと思います。
<PROFILE>
株式会社アックスコンサルティング 代表取締役
広瀬 元義(ひろせ・もとよし)
一般企業でコンサルタント業務に携わった後、1988年株式会社アックスコンサルティングを設立。現在代表取締役。不動産コンサルティング、会計事務所向けコンサルティングを中心に事業を展開する。
【転載元】
リーダーズオンライン(専門家による経営者のための情報サイト)
https://leaders-online.jp
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