1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

自動運転車と一般車が混在する過渡期における注意点/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2018年3月21日 7時7分


        自動運転車と一般車が混在する過渡期における注意点/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

自動運転が普及した社会の姿はバラ色に描かれることが多い。即ち、「渋滞が解消され、事故がなくなる」「行先に到着してから不要となれば、車を自宅に戻しておくこともできる」「運転に不安のある高齢者でも行きたいところに行ける」等々。

しかしそもそも皆がすぐに自動運転車に切り替えるわけではないので、自動運転車と一般車(非自動運転車)が混在する過渡期がこれから何十年も続くという冷静な状況認識が必要だ。その過渡期においては相当ややこしい事態や混乱が生じることを覚悟しておいたほうがいい。第一、自動運転車によって事故が誘発されるケースも考えられるのだ。

例えばこういうことだ。第三者の一般車(または歩行者や自転車)が少々危ない行動をしたために、事故を回避しようとした自動運転車が交通法規を守った上で最善の事故回避策を採っているのだが、他のドライバーやライダーから見てあまりに予想外の行動(例えば強烈な急ブレーキと急ハンドル)に出ることにより、そのリアクションとして周辺のドライバーやライダーがパニックになって誘発事故を引き起こす、ということが十分考えられる。特に二輪車はそうした事故の「二次被害者」になる有力候補だ。

いわば個別最適でプログラミングされている自動運転車が全体としては事故誘発要因の一つとして作動するという構図だが、自動運転車側に交通違反はないので、建前上問題にもできないだろう。そして本来とがめられるべき、元々の原因を作った第三者の一般車(または歩行者や自転車)は特定すらできないケースが大半だろうし、仮に特定できたとしても自動運転車が誘発した事故の責任まで負わせることができるケースは相当限定されるだろう。

関連する話として、自動運転の公道への適用に関し現在論点となっているのが、万一事故が起きた時の責任は車に乗っていたユーザーにあるのか、車のオーナーにあるのか、それとも自動運転車のメーカーにあるのかという点である(車のユーザーとオーナーを切り分ける必要があるのは、自動運転タクシーやライドシェアを念頭に置いているからである)。

この点に関する世界的な議論の趨勢はまだ見通せないが、自動運転の普及を促すためには製造者責任だという結論に大半の国が至る可能性が高いと小生は見る。それは自動車輸出大国である日本でも同様だろう。

そして長い実証実験とバスなどの先行自動運転化、国交省の厳格な検査を経て自動運転車の一般市場への投入が行われた暁には、きっと「自動運転車の安全機能はほぼ完全であり、過失は考えにくい。事故の原因は人間の側のミスにあり」という判例が続出し、やがて一旦確立するだろう。

これにより事故処理と保険処理のルールが大きく変わる(正確には、自動運転車が絡むケースがそれぞれ加わり複雑化する)と予想されるが、それが新たな論点を生むことになる。

事故/保険処理に関するルールは、信号の有無、優先の有無、速度超過の有無、直進・右左折など様々な要素の組み合わせにより決まる、かなり複雑なものだ。そしてそれは長い間の判例の積み重ねにより確立してきた。しかし自動運転車の登場でもう一度整理が必要になり、再確立まで相当な期間を要しよう。

信号がない交差点での車対車の出会い頭の衝突事故を例に挙げる。片方が優先道路でどちらも速度超過はなく、両者とも減速したが衝突した。今のルールでは、そんな状況でも優先車と劣後車の過失割合(%)は0対100ではなく10対90とされる。優先車のほうにも事故を避けられなかった「過失」があるという考え方だろう。

しかし優先車が自動運転車で劣後車が非自動運転車であれば、保険会社による事故補償の過失割合(%)は0対100に変更されるのではないか。つまり「過失の考えられない自動運転車でさえ避けられなかった事故なのだから、一方的に劣後車のドライバーが悪い」という話だ。

実際、事故の99%はその通り、一般車のドライバーの過失だろう。しかしそうした実例と判例が重なると、今だって思い込みに固執しがちの警察による事故現場の検証はおざなりになり、「仮に一般車(非自動運転車)vs自動運転車の事故が起きたら一方的に一般車のドライバーの責任としてよい」という不文律が一旦確立するのではないか。

しかし多様な交通現場に直面する自動運転プログラムに完璧なんてあり得ない。例えばたまたま直前に先行したトラックが油を現場路面に少々落としてしまったといった特殊な状況にあれば、自動運転車に(あらかじめ想定できない)おかしなスリップが生じ、それが事故の主要因の一つになることだって十分あり得る。

先に挙げた出会い頭の衝突事故の例は最もシンプルで、一番自動運転車の優位性を発揮しやすいケースだ。しかし優先側が非自動運転車で、劣後車が自動運転だったらどう考えるのか。優先が特になかったら…。一挙に悩ましくなるだろう。

そうした微妙なケースが実際に幾つか積み重なった上で、さらに「自動運転車vs自動運転車」の事故が起きれば、「本来あり得ない組み合わせ」として相当な物議を醸すだろう。鬼の首を獲ったように「あなたの身の周りに暴走『自動運転車』が潜んでいる」などと恐怖感を煽り立てるマスコミの姿が目に浮かぶ。ネット上にはありとあらゆるネガティブキャンペーンが書き込まれるだろう。

その結果、一旦確立したはずの事故処理と保険処理のルールが再び動揺し、混乱する可能性が高いのではないか。

以上のような混乱を避けるためには、自動運転車が市場に投入されて非自動運転車と混在する事態を想定した議論を今から十分に重ねておくしかない。

PS 誤解して欲しくないので付け加えるが、AI絡みの仕事が多い小生は自動運転の積極的賛成派だ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください