価値の高い仕事をするための7条件(【連載4】キャリア・エントラスト理論の視点から)/川口 雅裕
INSIGHT NOW! / 2018年3月23日 17時50分
川口 雅裕 / 組織人事研究者
キャリアは、積み重ねてきた仕事の「価値」と「量」を乗じたもので評価される。乗じたものであるから、価値の低い仕事を沢山やっても高い評価はなされない。従って、キャリアを考えるときは、その仕事の価値に着目することが重要になる。
価値の高い仕事をするには、社会や顧客の変化に合わせ、顧客や関係者のニーズに焦点を当て、「自分がやっている仕事は、顧客や関係者にとってどのような価値があるのか」を常に考えながら、高く明確な目的を持って取り組む必要がある。過去に価値の高かった仕事であっても、いつまでもそれが同じ価値を持ち続けることはないからだ。
また、価値ある仕事に時間を割くためには、価値の低い仕事を止め、仕事の価値を下げてしまっている要因を排除することも重要である。“バリューワーク”に時間を割くには、“ノン・バリューワーク”を発見・停止するとともに、旧く機能しなくなった組織・ルール・仕組み・慣習・悪癖などを発見・変更・排除しなねばならない。
今回は、価値ある仕事をしている人(バリューワーカー)は、どのような要素を持っているのか(どのような要素を持つ人材が、バリューワークを実践しているノか)について考えてみたい。
まず、もっとも重要なのは“観(パラダイム)”だろう。物事への見方、考え方、向き合い方が優れていなければならない。例えば、「仕事とは、自らの能力や可能性を開花させるためにあるものだ」という仕事観の人と、「仕事とは、自らの時間や労力を切り売りしてお金をもらう手段である」という仕事観を持つ人では、その仕事の価値は異なるはずだ。「人が集まってシナジーを創出するのが、会社の目的だ」という会社観の人と、「安定してつつがない人生を送るために、会社の決まりや組織の論理に従おう」という会社観の人も、仕事の価値は違ってくる。ほかにも時代観、人間観など様々な物事に対する見方が、それぞれの人の仕事の仕方、経過、結果に影響を与える。バリューワーカーには、優れたパラダイムがあるはずだ。
次に、“誠実性”“倫理観”である。当たり前だが、何をやってもいいから儲ければよいという訳ではない。社会や顧客の立場に立ち、長い目で見た事業の継続性を鑑みながら、あらゆるステークホルダーと調和的に進めるのが事業の本来のありようだ。法令を遵守していればいい、ルールに違反していなければいいというレベルではなく、多様な立場の人から誠実で、節度ある事業・業務であると認められる必要がある。違法でない状態がコンプライアンスであるという認識は古い。現代では社会の様々な視点に配慮が行き届く広い視野と、それを前提とした誠実性が重要である。バリューワーカーは、コンプライアンスを社会適合性であると理解している。
三つ目に、心身の健康も欠かせない。単調で何も考えなくてもできるような仕事でない限り、元気で活き活きとした状態のほうが、価値あるものが生まれてきやすい。また同時に、周囲をも元気にしなければならない。自分一人でやれることなど、ほとんどないのだから、自分だけ元気であっても良い仕事はできないからだ。ジャック・ウェルチはリーダーの条件として、「Energy」と「Energize」を挙げた。GEのリーダーに対して、自らが元気で活力を持つと同時に、他者に活力を与える存在であることを求めた。同じように、この二つはバリューワークを進める点で重要である。
四点目は、創発的な交流機会を持つことだ。同じ職場の中に閉じこもり、固定的な上司・部下関係や職場の人間関係を続けていては、新たな切り口やアイデアが出てきにくいから、仕事の価値向上につながる改善や工夫は生まれにくい。一日の活動時間の多くを会社の中で会社の仕事に費やし、自分とは異なる仕事、違う世界の人たちとの交流を持たない会社人間が集まっていくら会議をしたって、大した発想は生まれてこない。シュンペーターは「イノベーションとは、新結合を遂行することである」と言ったが、同じような人は同じようなピースしか持っていないから、新しいピースを結合させるのは難しい。バリューワーカーは、会社に閉じこもらず、会社に閉じ込められもせず、自分とは異なる人達と交流し、刺激を受け、そこから得た気付きを自らの仕事に反映させようとしている。
五点目に、バリューワーカーは自律的に上手な目標を設定する。与えられた目標にやみくもに取り組むのではなく、その目標の先にあるものを見据えて意味付けを行ったり、その目標を達成するための行動や手段を具体化していったりし、主体的に取り組むべきものとして目標を咀嚼する。組織人として与えられた目標だけでなく、自分の人生の主役として自身の成長目標、人生を楽しみ充実させるための目標をイメージする。仕事とは関係はないが、自分に期待してくれている人たちの気持ちに応えるための目標も設定する。これらの目標はすべて自分が自律的に設定したものであるため、心から達成したいと感じられる目標になっている。
六つ目は、バリューワーカーは専門バカではない。専門分野や得意分野は持っているが、同時に自分が苦手とすること、よく知らない分野についても自覚しており、それらに興味・関心を持っている。自分の専門とする分野の知識・技術は重要だが、よく知らない分野のそれらは大したことがないと考える人には、価値ある仕事はできない。専門外の人との知恵を拝借したり、協力を得るなど、上手なコラボレーションがなしえないからだ。自分の不得意な分野を自覚し、それを得意にしている人と良好な関係を作っておけば、不得意な分野がなくなるということをバリューワーカーは知っている。さらに、仕事に関係のない教養にも関心を持つ。専門的な知識を活かし、専門家として差別化された存在感を大きくするのは、長い目で見れば仕事に無関係な教養であることを知っているからである。
最後に、汎用的な知識・スキルも持っている。組織で働くのであるから、会社の運営に関わる基礎的な知識、会社全体の目指すところや目標、組織の分掌・ルール、役割行動やコミュニケーションといったものは、当然のようにわきまえている。自分の役割を狭く限定的に捉え、その役割を十分に果たしているのだから、全体のこと、他の部門のことは知らなくても問題ないだろうといった姿勢ではない。一般的、常識的でどこの会社、どんな組織においても通用する形での思考・言動ができる。自分の会社だけしか通用しない思考や言動のスタイルに満足することなく、汎用的な原理・原則として理解している。バリューワーカーが、社内にとどまらず広く多様なコラボレーションで成果を出せるのは、様々な経験から得た知識・技術を、社外でも通用する汎用的な原則・体系として理解しているからである。
【つづく】
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