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相見積至上主義の弊害/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2018年4月18日 10時0分

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野町 直弘 / 株式会社クニエ

先日東京都の入札監視委員会が都が試行している「1者入札の中止」について再考を促しました。「1者入札の中止」は昨年の3月末に東京都の「内部統制プロジェクトチーム」が提出した「入札契約制度改革の実施方針」の一方策で、一般競争入札で入札参加者が1者・グループ以下になった場合に、入札をやり直すというものです。

入札の競争性を確保することを目的として考えた場合、結果として入札参加者が1者しかないのであれば、その時点で競争性が確保されなくなってしまう。そのため1者入札となった場合で再度仕様や工期、予定価格などを見直し、複数の会社が入札に参加できるように手続きをやり直すべき、という考え方によります。

こう考えると「入札やり直し」も理論的には正しいように思われるでしょう。しかし入札のやり直しには追加で平均1.5カ月(試行案件に基づく)程度の手間が発生するようですし、やり直しをした案件でも1者以下の入札となった案件が半数程度を占めているので、入札やり直しは手間がかかるものの効果が低いという評価もできます。今回の報告はこれらの試行結果を踏まえたものです。

確かに1者入札が主催側の意図に叶っていないことは確かです。しかし、そもそも1者入札が何故起きるのか、その原因を把握しない限り有効な対応手段は出てきません。

私の考察ですが、1者入札の原因は以下のような4つ位の要因が考えられます。

1つ目は対応可能なサプライヤが入札案件の情報を知らないことです。これはインターネットなどの情報提供が最近は進んできており大分改善されてきました。

2つ目は仕様や何らかの技術的な条件により、1者しか対応できない、というものです。これについては本当にそういう技術や仕様が必要であるというケースと、仕様書を作成する上で何らかの企業の製品・サービスを参考にして仕様を作るため、代替性や互換性がない仕様になってしまっている、という2つのケースが考えられます。

厳密に仕様を精査していないので定量的ではありませんが、多くの仕様における問題は仕様書上の後者のケースであると考えられるでしょう。

3つ目は工期や稼働の問題です。特に建設関連、IT関連は現状かなりの人手不足です。本来であれば受注したい仕事も入札参加を断念しているサプライヤも少なくないでしょう。工期は人員と工数の掛け算ですから工期を伸ばしてもらえば入札参加できるというケースも中にはあるで
しょう。

最後は価格(予定価格)の問題です。東京都の場合は従来予定価格を事前に公開していましたから、予定価格が低すぎるとサプライヤが入札しない(できない)というケースが発生します。こういう場合、サプライヤは予定価格を参照して安値での受注をさけるために入札しないのです。
これが1者入札につながります。

このような4つの要因の中でどの理由が真因なのか、などの分析がなされていないので、はっきりしたことは言えませんが、1点目や2点目の前者の理由はレアケースでしょう。

2点目の仕様に関しては後者の代替性や互換性のない仕様になってしまっている、ということが多くの原因として考えられます。また今今の状況であれば、工期や稼働の問題、価格の問題が主因と考えられます。

3点目、4点目の工期や稼働の問題、価格の問題はマーケットマターです。稼働についてはサプライヤは収益性の高い案件に優先的に稼働を振り分けたがりますから、つきつめると価格にリンクします。

本来入札という手法はマーケットメカニズムを活用するものですから入札の結果は現時点での市場価格であると言えます。もし仕様や技術的な問題がなく1者入札もしくは入札がない場合は、そもそもその案件に魅力がないからです。つまり予定価格そのものに問題があると考えられます。

一方で仕様の後者の問題に関しては入札方法の改善が対策になるでしょう。民間で行われているRFP(提案依頼)のように、仕様の緩和や代替仕様の提案を求めていくやり方です。公共調達ではこういう手法を採用することは中々難しいでしょうが、国民が求めているのは入札を実施することではなく「適正な競争によって、適正な事業者に適正な金額で契約が行われていること」であり、これは公共も民間も全く変わらないのです。

民間では入札という形式ではなく「相見積」という方法で複数のサプライヤから見積を取り比較をするというのが殆どの企業でルール化されています。

一方で「入札」でも「相見積」でも、最も怖いのは「むりやり相見積」や「やらせ入札」です。比較することを目的にして実力もない会社に「入札」や「見積」を出させて、対外的には「入札」「相見積」させているからいいでしょ(問題ないでしょ)、と思考停止になることが最もあってはならないことなのです。一般的にはこういう手法を「当て馬」と言います。
「当て馬」は入札価格(見積価格)の適正性を損ない、しいてはサプライヤとの信頼関係を損なうことにもつながります。

従来の公共入札は入札案件を公開すれば複数の参加者が入札する(仕事を受注したがる)、という買い手の論理に基づく手法です。それが最近は成り立たなくなっているのでしょう。肝心
なのは、目的を明確にした上で、どういう制度見直しが必要かという本質的な視点を持ち改革を進めていくことでしょう。これは公共も民間も変わらないことです。

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