エリートの不祥事と戦後教育の失敗/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2018年4月22日 21時16分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
昨今、官庁はもちろん企業でも、「エリート」と呼ばれる人々の不祥事が目立つ。彼らは、東大出のキャリア組。医師だの、弁護士だの、国家的な資格を持っていたり、ハーバードをはじめとする国際的な一流大学の留学経験があったりする。しかし、ウソつきで女たらし(男たらし)、自己擁護のためには組織も社会も巻き込んで、部下をも見殺しにする人間のクズ。
彼らはエリートだからクズなのではない。「勉強」ができた、というだけで、おそらく生まれながらに人間としてはクズだったのだろう。にもかかわらず、戦後という時代が、こういう生まれながらの人間のクズを「エリート(選良)」として組織や社会の上層に引き上げてしまった。クズをクズと責めても、直るわけがない。それよりも、誰を組織や社会の指導者、後継者とするか、そのシステムを見直す必要がある。
失敗の元凶は、戦後教育にあると思う。国語、数学、理科、社会、そして、英語。これらさえできれば、出世できてしまった。ただ知識や技術として有能だというだけ。人間性など問われる機会がなかったのだから、人間性に欠陥のある連中が上層に紛れ込むのは当然の結果。そして、組織や社会に、こういう悪人が入り込めば、その有能さを悪用し、策謀を巡らし、善人を押しのけ、トップにまで上っていく。
しかし、人間性の優劣、善悪など、だれにも決められないではないか、戦前の思想教育の失敗を忘れたのか、と言う。たしかに、戦前、国家主義という思想教育をやって、日本はおかしくなった。しかし、それは、国家主義が間違っていたのであって、思想教育すべてを排除する理由になるのだろうか。自由教育、まことに芳しい。だが、その実体は、アナーキズム(無原理主義)という、まさに反動の社会破壊的な思想教育そのものだったのではないか。
ヘルメットに鉄パイプで火炎瓶を投げ、大学や街を破壊していたアナーキストのテロリストたち。ああいう暴力的で反社会的な犯罪者は、ナチス並みに、時効を排し、死ぬまで、その犯罪や前科を糾弾され続けるべきだったのではないか。にもかかわらず、高度経済成長のドサクサで組織や社会に平然と潜り込み、カネ儲けに狂乱するバブルを引き起こし、重役まで登り詰め、いくつもの官庁、いつくもの企業を腐敗崩壊させ、その後もなお年金で国力を吸い取り続けている。そんなやつらが子飼いにして、その後のトップに引き上げた連中がまともであると期待する方がまちがっている。いまのクズ連中は、団塊テロリスト世代の最悪の置き土産だ。
私のいたころから、東大は、まさに人間性が疑われるハラスメントの殿堂。アカハラ、セクハラ、パワハラの権化のような連中が吹き溜まっていた。それを頂点として、全国津々浦々の大学、そこで養成された教員、その教員が送り込まれた小中学校。そこでまともな人間性の「教養」の教育などありえようか。そこを出て来た親、上司の下で、まともな子供や部下が伸びると思えようか。人格陶冶も無く、ただテクニカルに知識や技術に長けただけの者がまた上に登り、この悪循環は、地道で真面目で誠実な善人たちを、押し潰し、踏み潰し続けている。
約束を守る、ウソをつかない、周囲の人々の人権を尊重する、公的な地位を私的に用いない、男女関係や交友関係、金銭関係など、いつも身ぎれいにしておく。こんなことは、人として思想以前の問題だ。にもかかわらず、こういう人間の基本の道徳の原理原則さえ、アナーキズムの相対主義で、いろいろな考え方があります、答えはひとつではありません、などと、むちゃくちゃな屁理屈で否定される。だが、人としての基本は基本だ。カントが論じたように、約束は、それを守らないなら、そもそも約束ではない。アナーキズムの相対主義の屁理屈で、なんでもかんでも、答えが無い、考え方次第、などとやっていたのでは、社会が成り立たない。
テレビや新聞、雑誌を見てみろ。愚民向けに、毒にも薬にもならない買い物と食い物の話ばかりだ。論説とやらも、斜に構えた屁理屈、なにもしないやつの空理空論の空回りだらけ。もちろん、なにも国民全員が完全無欠の善人になる必要などない。だが、民主主義が民主主義であればこそ、どのような人物を指導者として押し上げるべきか、どのような人物を後継者として引き上げるべきか、それくらいの正論は、国民全員が学んで知っておくべきことだったのではないか。東大を出ている、医師や弁護士の資格を持っている、企業の重役として活躍した、家柄がいい。そんな規準で、指導者や後継者としての資質、人間性が測れるだろうか。そんな規準で測っただけの連中を、選挙で押し上げ、人事で引き上げ、世のため、人のためになる政治や経営をやってくれる、などと期待できるだろうか。
『論語』『対比列伝』『自省録』『エセー』『自助論』あたりは、勉学以前の国際的「教養」であり、人間的「模範」のはず。にもかかわらず、「偉人」の裏話や醜聞を掘り起こして、そんなのは作り話だ、歴史の真実とは違う、と、まぜっかえすやつらがいて、いまの学校からは抜け落ちてしまった。作り話だろうが、歴史と違おうが、我々がそれに感銘を受け、語り継いできた。その物語には、人間性の真実がある。多様という名の均質化の強制、事を荒立てないように見て見ぬフリで先送りにする同調圧力になど屈せず、きちんと物事の筋を通す、高邁な理想を打ち立てる、そういうまともな人間を育てていかなければ、この国は内側から腐り滅ぶのではないか。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)
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