社会的地位の高い人がハラスメント対応に失敗する理由/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2018年4月25日 7時16分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
1.ハラスメントの現状
人事コンサルティングの課題として、ハラスメント対応は昔からありました。私はクライアント先での相談だけでなく、専門誌や一般紙でのコメント取材などさまざまな場で人事課題としてのハラスメント対応について解説しています。
セクハラだけでなく、パワハラも深刻な問題となり、裁判や損害賠償など起こっています。一方で何でもかんでもハラスメントとレッテルを貼り付け、息苦しい社会になったという声も出るなど反作用も起きるくらいに、認知は広がっているともいえます。
職場の問題としてのハラスメントは昔から存在していました。ハラスメントの存在が急に注目されるようになったのは、その発生件数が増えたというよりは、存在が明らかにされることが増えたと考えるべきでしょう。SNSやインターネットをはじめ、被害者が情報発信する手段が圧倒的に増え、さらには社会もそうした声を拾い上げる体制が進んでいることが挙げられます。
2.ハラスメントをロジカルにとらえるエリート思考
財務省トップの事務次官や大企業社長といった超エリートがハラスメントで糾弾されるのはなぜでしょう。大きな理由の一つはそうしたエリート層の「頭の良さ」が原因ではないかと思います。
社会的に成功した人々は学歴も高く、論理的思考に基づく判断力に優れている人が多いはずです。学歴が高いことが人間の価値ではないと言いつつ、いまだに学歴フィルターのような、学校名で就活学生を選抜する企業が存在するのも、受験の結果という成果が頭の良さを図る尺度として信頼されているからでしょう。
そういった受験の頂点に立つ大学を卒業し、社会においても成功を遂げた人たちですから、ハラスメントについてもロジカルに考えてしまいます。「証拠が無ければ犯罪が成立しない」という考え方はきわめて筋が通っており、言ったもん勝ちで騒ぎを起こすような理不尽な申し立てなどあり得ないということでしょう。セクハラでもパワハラでも加害者とされる側の言い訳はほとんど常に「そんなつもりはなかった」というものです。
3.ハラスメントの取り扱い方
ハラスメントにおいて、加害側の意図は関係ありません。では冤罪含めて言ったもの勝ちではないかという反発がありますが、ハラスメントは単純に行為の有無だけではなく、心情の問題です。ある意味受け止める側の一方的な心情であることは十分可能性としてあり得ます。事実を争うというロジカルな思考では、こうしたデリケートな心情部分のような、あいまいで非定型な存在に対処できないのです。
これがエリートが踏んでしまう地雷であり、人間の心というロジックだけではとらえ切れないものへの対応の仕方がわからないゆえ事態を悪化させます。ハラスメントが問題になった後の対応を間違え、騒動をこじらせ、ついには辞任など大きなダメージにつながってしまう原因だと、私は考えています。
麻生財務大臣や財務省が「被害者が出てこい」と主張するのは、極めて論理的であるがゆえに全く問題解決につながらず、反発を強めて批判を大きくするだけになっています。ハラスメント対応は白か黒かの見極めをすることではなく、被害を受けたとされる側の心情をいかに救うかにあるからです。
4.非論理的対応にも長けた人は?
証拠どころか形もあいまいな存在を扱うにはロジックだけでは無理なのです。実際にあった対処事例では、被害者側の話を何時間もしっかりと傾聴し、その過程を通じて気持ちが癒え、結果として騒動が収まったということもあります。「被害が本当にあったのなら証明しろ」という態度の逆です。
こうした論理を超えた人間の感情の機微を上手に対応できる人がいれば、深刻な辞退を少しでも改善できるかも知れません。そもそもの原因となった事象においても、相手の心情をもう少し思いやることが出来れば、問題そのものが起きていなかったことでしょう。感情のような非論理的存在をもしっかり向き合えたのは、エリートというより苦労人の創業者だった人に多いようです。
松下幸之助が松下電器の労組結成式に登場して祝辞を述べたり、田中角栄が落選した議員に土下座をして生活資金を届けたといったエピソードは、すべて効率や論理ではない感情をつかむことに長けたリーダーシップだったと思います。今の自民党や中央官庁にはいないのだろうかと思いつつニュースを見ました。
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