“SIガラパゴス”を打ち破れ!――A-STARの目指すITエンジニア戦略とは
ITライフハック / 2015年4月24日 9時0分
日本のIT業界で働く人材は約80万人。しかし業界的には多重下請構造となっており、実際に働いているIT人材に払われる金額は、エンドユーザーの発注額から大きく隔たっていると聞く。こうした構造を「SIガラパゴス」と呼び、個人事業主や特定派遣などで働いている現場の人を、直接エンドユーザーに紐付け、労働環境を改善して、エンジニアのモチベーションを上げていこうとビジネスを展開している。創業してから3年経ったいまの同社の現状について、同社の高瀬俊誠代表取締役社長兼CEOに話を聞いた。
――エンジニアの就業環境はどのようにお考えですか。
高瀬社長(以下、敬称略):日本のIT産業では、純粋なものづくりをしている企業というのは全体の3割しかいないんです。そのほかの7割というのは、すべて下請けという構造なんです。これはアメリカと逆の状況です。アメリカは7割が純粋にITによるものづくり、サービスをしているんです。ここがアメリカと日本のIT業界の差です。
創造性と生産性という言葉を使っているんですが、IT業界は本来は創造性のある仕事をしなければいけないと思うんです。ITを使っていろいろなサービスを生み出すとかというのが本当のことだと思うんですが、30%くらいの企業しかクリエイティブな仕事をしていない。本当の意味で創造性のある仕事をできていないというのが現実です。
ちなみに中国やインドは20%台です。中国やインドは、IT業界でも下請けのイメージがあるんですが、実際の所日本も変わらない。そして中国やインドは今後、アメリカのようなスタイルで、エンドユーザーが増えていく状況にあるので、日本のIT産業は、アジアという視点から見ても、創造性を生み出すような産業にシフトしないと、置いてけぼりを食らってしまいます。自動車や機械産業のように、せっかく技術力があるのに、創造性がないという世界です。
――創造性とは具体的に言いますと、どのようにイメージしたらよいのでしょうか。
高瀬:プロダクトですね。自分たちのサービスの中からプロダクトを生み出すというのが本来のあり方でしょうし。そういったことが日本のIT業界ではないので、どこかプロダクトを生み出す企業にぶら下がっているだけなんです。
いわゆる上流工程から下流工程まで担当しているという、システムインテグレーションの世界とはちょっと意味合いが違います。たぶん、システムインテグレーションがメインの時代というのはもう終わっていて、IoT技術を活用したappleWatchのようなウェアラブル端末やロボット、ビッグデータなど、創造性が必要な分野が増えているのに創造性を発揮できていない。
――では、いまの技術者はどのような方向に向かっていけばよいのでしょうか。
高瀬:そこで出てくるのが「SIガラパゴス」です。いまのIT業界は総中小状態となっています。。
日本のIT業界には3万2000社あるんですが、IT人材は80万人。そうなると1社あたりに所属しているIT人材の数30人以下となります。これは欧米の約1/2です。30名以下の企業が総中小状態にあって、そこにイノベーションが生まれるのか。そうは思わないんです。私はタクシー業界に非常に似てると思いまして。規制緩和をして台数が増えた結果、これまで仕事をしてきたベテランドライバーが食べられなくなって、業界自体が疲弊しました。いまそれに政府が気づいて、規制強化して新規参入を認めなくなりました。これがIT業界にも起こればよかったんです。
IT業界にメスを入れるということをずっとしていないので、ハードウェアも海外勢に負けてしまい、ソフトウェアも負けてしまっています。国を挙げての構造改革をして欲しいというのが一方あるのと、民間の立場から、それをどのように進めるのかということもあります。農業ではいま、農家と直接消費者をつなげるプラットフォームがどんどん生まれてきていますよね。でもIT業界はそういう両輪、政府の中長期の政策と、民間のアイディア、サービスというものが全くない業界なんです。
ただ1つ明るい兆しが出てきたのが派遣法の改正です。ようやく政府の規制強化策が出てきたと思っています。具体的に影響があるのは、IT業界では普通となっている特定派遣免許の廃止です。一般派遣のみになりますが、そうなると資本金2,000万円以上、純資産で1,500万円以上ないと派遣の免許が取れません。IT業界の3万2000社のうち、70%は資本金1,000万円以下の企業です。ようやく、いい意味での淘汰・再編がようやくITソフトウェア業界にも来たということですね。
――いまそのクラスの企業に存在している技術者はどうしたらよいのでしょうか。
高瀬:当然、1次受けや2次受けで、企画段階から入っている優秀なソフトウェア会社はあります。そういう会社が救ってあげるべきだと思います。技術力や企画力やノウハウ、資本力のある企業がたくさんありますが、業界全体で3万2000社もあるので、いまのIT人材にとっては、どこがいい会社なのかも分からない。1次受け、2次受けの優秀な層をもっと盛り上げたいというのは僕らのビジョンでもあります。
80万人IT人材がいる中で、特定派遣で働いている人が40万人います。その中で個人事業主として働いているのが12万人。純粋なものづくり企業で働いている人は25万人しかいないんです。40万人と12万人、あと派遣で働いている方が3万人いて、80万人のうち55万人が実質派遣で働いている業界なんです。ここが悪しき習慣だと思っています。
結局1次受け、2次受けから5次受け、6次受けという層に人材がたくさん所属している業界なので、彼らをエンドユーザーや一次受けと直接つなげる仕組み、プラットフォームを作りたい。出版業界でもあったし、小売りの業界もありました。印刷業界でも始まっています。アマゾンや楽天といった存在のおかげで、中間業者が淘汰されたと思うんですが、同じことをやろうとしています。
――どのようにIT人材を結びつけていくのですか
高瀬:日本では、IT人材を徴用する手段はインソーシングとアウトソーシングの2パターンあるんです。正社員を雇うとか、派遣を入れるのはインソーシングです。一方個人事業主を使うとか、特定派遣業者を使うのはアウトソーシングです。
インソーシングはリクルートやインテリジェンスがあるのでビジネスが発達しています。インソーシングとアウトソーシングの市場は合わせて10兆円あるんですが、インソーシングのマーケットは700億円しかありません。アウトソーシングはその残りの市場規模があるのに、リクルートやインテリジェンスのようなメジャープレイヤーが存在しません。我々はそこを目指しています。
アウトソーシングについては、「A-STARにお願いをすれば優秀な人材が確保できる、いい外注先が確保できるよね」と。大手通販サイトさんの子会社もBtoBの仕事をされていますが、あまり規模が大きくない。ガリバーがいないんです。正社員のマーケットは上位2社で70%を取っているという確立された世界です。
昨今言われているクラウドソーシングも、大きく見ればアウトソーシングの一環です。ただクラウドソーシングとの違いと言えば、SOHO業者に発注できるのがクラウドソーシングですね。我々は客先常駐を支援するというサービスなので、リクルートやインテリジェンスとも違いますし、クラウドソーシングとも違います。我々独自のプラットフォームで展開しています。
まず個人事業主の方に登録していただき、客先の常駐案件を受けられるという仕組みと、既存の客先常駐型ビジネスをやっている特定派遣ですね。一般派遣免許を取ったのはいいが営業力が弱かったりという会社もあります。そういう会社ほど社長さんの人柄がよく、社長に付いていきますという社員さんが多かったりします。でも肝心の営業力がなかったり、資本力がなかったり。そういう企業をまとめてよりエンドユーザーや一次受けとつなげていく。そうしていくとお互いハッピーですよね。
下請けの、売上高20億円以下の企業が受注する金額は、一人月あたり60万程度なんです。でもエンドユーザーが発注しているのは150万円くらいなので、残りの90万はどこかに行っているわけです。これが中抜きと言われるもので、3次受けや4次受けは情報を横に流しているに過ぎないんです。こういう状況になっているのは、アウトソーシングのビジネスで、効率よく仕事ができるプラットフォームがないからなんです。そういうサービスの確立を目指しているのが当社です。
――今後目指される方向についてお聞かせください
高瀬:いまは当社の取引先として1500社。3万2000社のターゲットに対してまだ少ないんですが、創業3年経ったところで5%くらい。これを今後は30%から40%に、そして圧倒的と言われる60%のシェアを目指していきます。これを2020年に達成することを目標としているほか、東証マザーズへの上場も視野に入れています。そのときには投資家の方からの資金を元にプラットフォームを完成させます。流動性の高い55万人に上るIT人材が参加できるプラットフォームです。
ただ、3万2000社の中でも、エンドユーザーと呼ばれているのは2000社くらいしかありません。残りの3万社が売上高20億円以下の中小ソフト会社、個人事業主と呼ばれている方で、その3万社のパイをどれだけとれるかが重要となってきます。
IT業界が最大に発達している国はアメリカだと思うのですが、日本はアメリカより15年遅れていると言われます。ではいまから15年前のアメリカはどうだったかという、歴史的なものを見ていきますと、米国にも多重下受け構造があったんです。でもそれを破壊したのがインドや中国を使ったこと。彼らを下請けにしたんです。
もちろん英語が話せるという環境もあったと思いますが、その結果、中国やインドの優秀な人材がアメリカに渡ったんです。サービスを生み出せるような人材がシリコンバレーに渡ったんです。こういったことを日本も政策的にやればいい。
同じようなことが建設業界や小売業界にも言えて、優秀な外国人を日本に連れてくる環境を作るべきだし、そのためには多重下受け構造を破壊して、豊かになるような仕組みを作らないとダメだと思っています。
10年後や20年後に何が起きるのかはほぼ想像ができていて、消費税率が20%まで上がるというのが一つ、75歳まで年金が受給できないというのが二つ、あと僕らの世代でいえば、親の介護が発生します。そして育児が始まるという、4重苦、5重苦が発生する中で、所得を上げなければいけない状況が生まれてきます。こんなに悠長にやっている状況でないと思います。
あとは金利です。日銀のファイナンスがいつ破綻してもおかしくないと思っています。いま住宅ローンが1%で借りられますが、10年後は4%、5%になってもおかしくない。そのときにアメリカのサブプライムローンの破綻みたいな、車のローンも組めないし、住宅資金も借りられないとなったらどうなるのでしょう。加えて消費税は上がる、年金はもらえないし親の介護と育児で精一杯。これがいま僕が考えている悲観的な未来です。
それを防ぐためには一人あたりの収入が上がるような仕組みが必要です。自動車業界や電気機械だけベースアップの目が向いていますが、ソフトウェア業界や建設業界、小売業界も、国策と民間の立場で取り組みをしていかなければならないと思うし、それをやるのが僕らの世代だと思っています。60歳、70歳の方が作ったエコシステムは、僕らの世代には通用しないので、構造改革と世代交代がテーマとなってきます。
80万人に対して3万2000社なんで、会社が多すぎなんです。分かりやすいのはタクシー業界のように規制を強化して、新規参入をストップさせるということが必要です。
エンジニアの有効求人倍率は7倍です。これはたまったもんじゃない状況です。淘汰も必要ですし、構造改革も必要です。社数を減らすことと同時に、IT人材を増やすことです。
これは未経験の人を育てるのと、海外から人材を連れてくるという2通りしかありません。東南アジアなどの地域と2国間の協定を作って、人材を呼び入れればいいんです。こうした政策を母体に突破力のあるリクルートなどの企業がどんどん開拓して、それに僕らが続くといった風になればいい。
国を挙げて、どこかに日本語も学べて、ITも学べるような学校を作ってくれればいいと思います。そういった話を聞いたことがない。あとは英語がしゃべれるようなIT人材を育成できる学校を日本に作って欲しいです。そういった所で日本は遅れています。
僕はグローバル化はローカル化だと思っています。海外の人でも日本語がしゃべれないとグローバル人材ではないですよね。日本で通用するようなグローバル人材を育てていただきたい。先ほど述べたような学校を今のうちに作ってもらわないと、早く土台ができない。いまの政策にはそういう現場感がまったくないですね。
当社はいま、既存のプレイヤーである55万人をどうやって生かすかという事業を始めたばかりですので、この事業をしっかりと成長させつつ、いずれはこうした育成事業にも取りかかってみたいですね。
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