企業の新規事業に強いイノベーション弁護士 角田進二氏に聞く!2030年問題に対応する未来型法務とは
ITライフハック / 2023年11月1日 11時45分
最近では、当たり前にさまざまなところで人工知能(AI)が何かと話題にのぼる。将棋の藤井聡太七冠は、将棋AIを活用して多様なご盤上での判断力を養い、今日の勝ち星に繋げていると言われている。野球の世界でも配球と打者の成績をAIを活用することで、トレーニングのメニューや選手の采配に活用して勝敗に大きく影響を与えている。
ビジネスシーンは大小様々な活用事例があるが、今年もっとも話題になったものは、対話型AI「ChatGPT」の登場だろう。誰でも手軽にAIを活用できる時代。ChatGPTでプログラミングをする年収5,000万円のプロンプトエンジニアが誕生し、世界の注目を集めた。さらに好きなキャラクターを生成できるAIイラストも登場した。
AI技術はすでに日常生活に欠かせない人も増えてきているが、その一方で著作権の所在が問題となる事例も出てきた。
たとえば、本を読まなくても、AIに読書感想文を書かせることができるし、宿題もAIが解いてくれる。好きな絵師さんのイラストをAIに学習させれば、その絵師さんが描くイラストと遜色ないクオリティで、いくらでも新しいイラストを生成することができる。
新しい技術が登場すると、それに伴う法的な問題がつきまとう。こうしたリスクを未然に回避するためには弁護士に相談すればよいが、そのような知見がある弁護士は少ないだろう。 今回、最新テクノロジーを含む新規事業の法務に詳しいイノベーション弁護士 角田進二氏にお話しをうかがった。
角田弁護士は、1999年に早稲田大学法学部卒業。2002年に最高裁判所司法研修所において研修。2003年弁護士登録 東京弁護士会所属 赤坂国際法律会計事務所入所。2005年に弁理士登録。2006年に南カリフォルニア大学(University of Southern California Law School)法学修士(LL.M. program)、カリフォルニア州Barg, Coffin, Lewis and Trapp LLP法律事務所において約3か月間法律実務研修。2011年にパリ弁護士会外国人弁護士実務修習課程履修。2012年に赤坂国際法律会計事務所所長に就任し、現在に至る。「アフリカ・ビジネスと法務」(角田進二、金城拓真 共著)を執筆し、弁護士業界では異端、変わり者と評される。アマゾンの「その他の国々の経済事情関連書籍」カテゴリーで、瞬間風速的にベストセラー1位となった。
イノベーション弁護士 角田進二氏
■企業と個人の情報漏洩に注意
まず、最近話題のChatGPTの企業での活用方法や注意点についてうかがった。
角田弁護士自身は既に自社でChat GPTを活用・運用しており、ホームページを1週間おきに書き換える作業をChatGPTにより自動化しており、今まで外部パートナーに外注していたサイト更新作業がChatGPTに置き換わっているとのこと。
「ChatGPTには、2つの側面があります。ひとつは、人間と機械がコミュニケーションするツールです。もうひとつは、人と人の間に立って通訳をするというものです。汎用性が高いうえに、抽象化が得意なので、嘘の情報が混ざっていても一見してわかりづらいです。ChatGPTを導入する際には、最終的な文章内の情報の判断ができる人が扱わないと情報漏洩のリスクに繋がります。」(角田弁護士)
具体論は嘘を見抜けやすいが、抽象論は嘘を見抜けづらい。ChatGPTはインターネットの情報をもとにしているため、その情報の中にはフェイクニュースも含まれる。ChatGPTが今よりも世の中に浸透すれば、嘘を見抜けない人が増える。普段から疑う癖がなければ、簡単に騙されてしまう危険性があるというのだ。
さらにChatGPTに入力する情報によっては企業の機密情報や個人情報が外部に漏洩する可能性もある。
ChatGPTを含め、新しいサービスを利用するときには、そのサービスがどういうものなのかを熟知しておく必要がある。
ChatGPTに質問した結果
セキュリティを重視する会社としてはあり得ない話だが、以前には社内のメールアドレスを無料のフリーメールを使用している会社があった。現在ではこうした会社は大分減っているとは思うが、会社に無断でChatGPTの無料版を社内の情報を入れて使う会社員が増えている。これは、個人情報や企業秘密が漏洩するため危険であり、先ほどの企業がフリーメールを活用するのと同様に危ない状況なのだ。
「セキュリティを考えると、リスクが大きいです。また個人名義で使用するとデータが集積できないため、その従業員が退職してしまうとそのノウハウも引き継げない。」(角田弁護士)
企業は沢山のお客様の秘密情報や個人情報を扱っている。そうした会社が、このような情報に何らの注意を払わず、安易に便利な機器として扱ってしまうと想像以上のしっぺ返しが来ることもある。人工知能はこれから産業革命をリードする技術だが、何の備えもなく無防備に利用すると企業として社会的な信用を失うリスクを伴う。
人工知能はこれからさらに普及していくことで、それほど遠くない未来にはありきたりの技術になるだろう。それは自動車の発明と普及したことと同じくらいのインパクトを与え、社会を大きく変革することが予想される。企業は人工知能に対する自らの態度を表明し、従業員との向き合い方を大きく変えていく必要があります。そのためにもまずは経営者自身が人工知能の本質を理解しなければならない、と思っています
■2030年問題を前に、企業に必要な対策とは?
2030年問題とは、日本国内の人口の約3割が高齢者になることで引き起こされる様々な問題の総称だ。少子化の影響により、多くの企業が人材不足に陥る。人材獲得競争の激化や人件費の高騰により、業績が悪化する企業も出てくるものと推察される。
企業に必要な対策とは、何か?
加えて、角田弁護士と組むと、何が有利なのだろうか?
「2030年を前に企業が一番やるべきことは、既存事業のDX化であるということは何となくイメージできると思います。しかし、その程度の課題意識では危ういものになります。
つまり、現状の事業の効率を高めたり便利にすることに対して現状の従業員は考えて個別最適に陥りやすく、大きな投資をしたはいいが中長期的には結果に結びつかないケースがこれから格段に増えるでしょう。
ここでの問題点は、個別最適するということが過去の事業形態におけるカイゼンです。これからの企業経営においては全体最適を考えなければならず、従来型のカイゼンをしてしまうと社会全体のイノベーションによって個別最適型は簡単に潰される形になります。
例えば、馬車の時代にカイゼンをしてより迅速に目的地に到達するは正解ですが、自動車が発明された後の場合その目的設定自体がそもそも悪になります。移動手段が自動車時代に変化した後に、それでも馬車を維持したいとするなら速さを価値にするのではなく優雅に馬と自然とを楽しみ非現実にいざなうサービスを提供する流れということになるのでしょう。これに対して、速さを追求するならば早々に馬車の改善をやめて自動車時代に適応していく必要があります。
この例えを現在の企業内の法務部門で考えてみると、既存の事業におけるカイゼンには長けていても、社会全体の変化やイノベーションの動向を加味した全体最適での目線には長けているわけではありません。
全体最適の目線とは
①2030年など10年先を見越しての未来目線を養っているか、
②どこを変えたらどのように社会が進化するかを読み切っているか、
③社会はどのように動くか、一般市民の視点はどのように変化するか、
④ルールメイキングをどのようにするか、
⑤技術について通じ転用する力を持つか、
⑥組織についての理解があるか、
という6つの要点があります。その6つのどれが欠けてもいけません。
例えばある会社では、ここ2,3年では人手不足に直面しない。ただ、10年後は必ず人手不足に悩まされることになります。優秀な人材はどんな仕事をしたいかで仕事を選択する以上、そういう人材を活かせる職場つくりをするしかないです。つまり、現状のままの「組織力」では対応できません。人材の流動化を踏まえつつ、個人の力を活かし、その状況を支えるためにシステムを構築する形になることが容易に想像できます。その会社システムの基盤を作っていく上で活用するツールが、人工知能、ノーコード、IoTやロボットなのです。
それを逆算して、何をすべきかを踏まえ、どういう事象が法務的な問題が出てくるか、社会的に受け入れられるかどうかというのは、一緒に考えることができます。結果として、トラブルを未然に防ぐことができます。法務に①から⑥までの能力が必要なのは上の社会の変化からお判りになるかと思います」(角田弁護士)
たとえば、Uber Eatsは既に我々の日常生活に欠かせないものだが、ビジネスとしては個人事業主をネットワーク化して新規事業としたものだ。これは顧客とお店のラストワンマイルを縮め、顧客の選択肢を増やすことで顧客の購入機会が増えたことその他様々な要因がある。この反面、よく利用されるサービスであるだけに、運び主が多様化し、最近はトラブルが目立つようになった。
富裕層は所有をすることに集中し、これに対して一般市民はより有限資源・時間の活用を志向し、様々なサービスが増えることは間違いない。事業をやる担当者はリスクに目を向けず、管理をする経営者側はリスクばかりに目が行き、社内においてその中間に立って物を申すことができない状況が増えていることだろう。誰かが責任をもって判断しなければならないときに背中を押す存在がいない、または無責任に責任を担当者に擦り付けてしまうケースもある。
こうした新しいサービスに対して、社内の組織事情を加味して対応できる弁護士は意外と少ない。新規事業の中には、法律で明確に定まっていない、または、その法律がそもそも存在しないことも多い。
「新規事業には、物語が必要です。その物語によって世論を変えつつ、
①政治家がどう動くか、
②どういうタイミングで自分たちはどう動くべきか
というのを一緒に考えることができます。」(角田弁護士)
2030年以降の急激な人口減少による社会の機能不全を補うための施策としては、ChatGPTやロボットによる自動化を推進する必要がある。また今後は、リモートワークも増えてくるだろう。企業は2030年から逆算して、こうした対策も推し進めていかなければならない。未来を見据えた、未来型法務が必要な時代に来ている。
自分の仕事を語る、角田弁護士
■攻めの新規事業に強い弁護士
角田弁護士は日本だけでなく、アメリカ、アフリカ、イスラエル、ヨーロッパその他の国のイノベーションの在り方を研究している。企業内でのイノベーションのおこし方、政府関係者との連携、グレーゾーンにおける対応の仕方についても、相談が可能だ。
「何のデータが必要で、国家がどういう風に動くのか、というのは、今までの実績から何となくわかってきています。」(角田弁護士)
世の中には、いろいろなタイプの弁護士がいる。
たとえば、離婚や保険などのテンプレート的な業務をしている人もいれば、民事の中でも遺産相続に強い人、企業法務に強い人など様々だ。
角田弁護士の得意分野は、どこか?
「法務部とやり取りするよりも、企画部や営業部とやり取りすることの方が得意です。」(角田弁護士)。その裏付けは、角田弁護士が、コストセンター的な法務よりも、利益を会社と社会にもたらす法務を目指すことにある。
法律には詳しいが、IT分野の知見はあまりないという弁護士が実は多い。新たに取り組む事業、とくにITが関わる新規事業の場面において、既存の法律では定められていないようなグレーゾーンに、事業の一部が該当することもあるだろう。角田弁護士は、そうした新規事業でも、今までの知見を活かして対応することができる。
企業に関わる弁護士の多くが、社内の法務部とのやり取りを行なって、法律から会社を守る盾の役割を果たすことが圧倒的に多い。角田弁護士の仕事は、新規事業は攻めのビジネスをサポートする、いわば鉾の役割を担う弁護士と言えるだろう。
自分の仕事について語る、角田弁護士
最近では、大企業が社内カンパニーにより、新規事業を立ち上げる事例も増えてきた。ベンチャー企業に限らず、大企業でも、新たな分野でビジネスを展開するには、弁護士の力が必要不可欠だろう。2030年を前に新規事業で勝負を掛けたい企業は一度、角田弁護士に相談してみるのが得策と言えそうだ。
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