佐々木俊尚氏が読み解く「2020年エンジニアショックは起こるのか?」 <PR>
ITライフハック / 2016年5月2日 10時0分
PE-BANKは、2016年4月19日に都内の会場で作家/ジャーナリストとして活躍する佐々木俊尚氏をゲストオピニオンに招き、「これからのITエンジニア業界」「これから活躍するITエンジニア」をテーマにパネルディスカッションを開催した。その内容についてご紹介していこう。
登壇者は佐々木氏のほか、株式会社MCEAホールディングス代表取締役社長の齋藤光仁氏、株式会社エルテス代表取締役社長の菅原貴弘氏、プロエンジニア代表として参加した尾張孝吏氏の3名だ。
■現在のITエンジニア動向について
最近のエンジニア市場動向について齋藤氏は、人材が不足しているという状況が続いていると語りながら、「私どもはフリーのエンジニアの皆さんを共同という形でいろいろなプロジェクトに参画させているが、一度特定の企業のプロジェクトに組み込まれてしまうとなかなか出てこないのが現状」と語る。現在は1800人ほどが働いているが、契約が切れて戻ってくるのは30~40人程度だとか。今後もこのような状況は続いていくと思われるが、方向性については見えていないそうだ。
菅原氏はインターネットベンチャーという立場から見たときに、前は調達可能なお金が1億円程度だったのが、今では10億円程度まで可能になっているという。こうした会社がまず何をするかというと、技術者を雇うこと。そういう意味では利益率の高いゲーム業界では、すごい金額を払って雇用しているので、普通のBtoBのサービス業者では太刀打ちできないとか。「ミッションベースで話をしたり、ゲームをやりたくない人を見つけたりするしかやりようがない。プログラミング素養さえあればほしいというところが増えてきている」(菅原氏)。
佐々木氏は2000年くらいだとVCは何千万程度の額だったと聞いているが、ここ数年はメディア業界を含めて調達金額が10億を超えているのは事実だと指摘。「内製して技術者を抱え込もうとしていることもあり、人材の需給の逼迫が起きている」(佐々木氏)。
尾張氏のようにエンジニアの立場からこの問題を見ていくと、回りでも優秀な人間は離さない状況はあるとしながら、単価も上がっているうえ、知り合いを紹介してほしいという声もよく聞くという。
■現在のITエンジニアに求められる要素は?
PE-BANKが2016年3月にリサーチした時に得られた、エンジニア採用時に重視するポイントとしての回答を見ると、「開発力がある」「専門性が高い」というものが高かったが、コミュニケーション力やマネジメント力といった、交渉力を求められる傾向も少し出てきている。また、「自主的に行動できる」「計画実行力がある」「柔軟性が高い」「コミュニケーション能力が高い」といったポイントは、企業側では求める人物像となっているものの、実際は応募がないというのが現状のようだ。
これを踏まえて菅原氏は、マーケティング上、商品が新しく生み出されていくので、それに適応する人材でないと厳しいと語る。「一度仕様を決めたらそれだけ作っていればいいという“ウォーターフォール型”のものではなく、“アジャイル型”が今のトレンド。コミュニケーション力がないと戦略的に意味のないプロダクトを作ってしまうのでは」(菅原氏)。
「システム保守の世界から、ITそのものがコアコンピタンスなるという大きな流れの中で、いかに技術力をビジネスに生かすかという段階に来ている」と佐々木氏。菅原氏も「日本ではITをコストセンターのように考えており、景気が悪くなるとIT投資が減少する。アメリカでは景気が悪くなると効率化のためにIT投資が増える。そもそもの考えが変わってきている」と指摘する。
■人材市場そのものの対応はどうか?
こうなってくると、人材市場そのものが対応できているのかが気になるところ。「人材が足りない中でスキルのミスマッチが増えてきており、ウォーターフォールのようなプロジェクトは掛け持ちでやっている人もいるし、一番底辺の、プログラミングをする人が足りないのが現状」と齋藤氏。CIOは結構いるが、実際にやる人たちが足りていないという。「商品開発をするレイヤーと、実際に手を動かす人のレイヤーは別としてとらえたほうがいい」(齋藤氏)。
尾張氏は、新しい案件や現場の状況に臨機応変に対応できる人が求められていると語る。開発スキルが高い人は求められているが、それに加えてコミュニケーション力も必要になってくるとか。「現場で提案できる人がいつまでも居続けられる人」(尾張氏)。
■ITエンジニア側が求めている雇用のあり方は?
次に雇われる側になるITエンジニアが求めている雇用のあり方を見てみよう。プロエンジニア代表の尾張氏が自分の周りで、これからフリーランスとして働きたいという考えを持っている人たちに聞いたところ、数年前までは「高い報酬を求めている人」が多かったそうだ。しかし、ここ1、2年で同じ質問をすると「フルタイムで働くより、週3、4日程度で働いて、あとは新しい技術について勉強したり、家族と一緒に時間を過ごしたりしたい」という声が増えているというのである。「ワークライフバランスが以前とは変わってきているんですね」と佐々木氏。「このような働き方ができる現場も増えてきている。自宅で開発しても問題ないという職場もあるという。」(尾張氏)。
■オフィスに出勤しない働き方が増えつつある
佐々木氏の知り合いにも、渋谷のオフィスに勤めているが、実際に住んでいるのは兵庫県と言う人がいるそうだ。リモートで仕事をしていて、会社の机にはタブレットが置いてあり、その画面には自宅にいる知人が映っている。会議などの時にはタブレット経由で参加するのだとか。ノマドや在宅勤務といったそれぞれのニーズも増えてきているし、チャットツールなどの環境も整ってきていることも要因として考えられるだろう。
菅原氏は実際に自社でもクラウドソーシングのような物も使っているのだそうだが、成果が確認しやすいので遠隔地でも問題ないというパターンのほか、元々スキルのある人でビジネスが分かっており、ビジネスの仕組みを創造した上で開発してくれるような人も増えていると指摘。「常時接続環境も整ってきたので、同じ部屋にいるかのように開発できるケースは増えているのだろう」(菅原氏)。
■パートタイムな働き方を望むエンジニアも・・・
企業としても、パートタイムで働くような形が効率よいと考えれば、導入は進んでいくのだろう。「できる人は独立しているケースが多いので、そういう人を取り込んでいこうとすると、こうした働き方になるのだろう」と語る菅原氏。優秀であればリモートでもパートタイムでもかまわない。成果物を出すのが大事であり、24時間会社に張り付いている時代ではなくなってきているのだ。
しかし、市場がこういう変化に対応できているかというと「遅れていると思っている」と齋藤氏。こうした働き方ができるのは、千数百名のうち数人しかいないという。その原因は企業が許してくれないから。そばに置いて監視しておきたいというのが企業側の論理だからだ。
こうなると「二極化が進むのでは?」という佐々木氏の指摘に対して尾張氏は、「優秀な人は開発スピードが速い。時間で縛るのはITとしては合っていないのでは・・・。月いくら、時間いくらとなるが、優秀な人ほどコードを早く書いてしまうので、人よりも二倍できる人はもっと収入があっていいものだが、スピードが遅い人と同じ単価になってしまうのが問題」と語る。できる人は独立して複数の仕事を回してしまうし、できない人はひとつの仕事を張り付いてやらなければならないという状態。この二極化は避けられないところのようだ。
■2020年以降どう変わるのか。活躍するエンジニアとは?
2020年開催の東京オリンピックが終わり、マイナンバーの需要もひと段落したところで、IT業界全体が踊り場局面に入ることによって、需給が減ってしまうのではないかという話もある。先ほどのPE-BANKの調査結果によると、今現在のニーズと2020年以降のニーズを比較したとき、あまり変わりがないとも見え、エンジニアショックは起きないのではと考えられる。
齋藤氏はアンケート結果とまったく変わらないと見ているそうで、「基幹系はいったん収束するかもしれないが、ITは生活になくてはならないインフラになっており、IoTを含めてIT化はどんどん進んでいく」と語る。IoTによって生活全体がインターネット化していくためだ。そこには巨大な市場が立ち上がってくるだろう。
しかしどのような形になるのかは不透明。しかし「スマホが出てきたことでモバイルの需要が高まってIT業界が活況を呈したのが数年前だが、フィーチャーフォンしかなかった時代に、モバイルの市場が今のようになっているとは誰も見通せなかった」と佐々木氏。SNSも同じで、90年代の終わり頃にSNSでこれだけ大きな市場が成立するとは思っていなかったとも。「IoTと言っても漠然とした未来イメージはあるが、実際のビジネスに落とし込まれて何の市場になるのかは現時点では見えていない」(佐々木氏)。
菅原氏はIoTとビッグデータはセットであるとしながら、「IoTによって吐き出された膨大なログを解析をしたり、人工知能でその動き方を変えていったりするようなプログラムはどんどん必要になっていく」と語る。自動車メーカーも自動運転のためのログを持っているので、解析ニーズは増える一方で、それがなくなることはない、とも。
AIで行くと、ディープラーニング技術についても見ていかなければならない。AI自体が仮説まで設定してしまい、データサイエンスが入る余地がないほど自動化してしまうという見通しを示す佐々木氏。プログラミング自体も自動化されてしまい、容易にエンジニアでなくても触れるツールとして進化していく傾向は、市場自体にもインパクトを与えないのだろうか。
この点について菅原氏は、「セールスフォースもGUIで設定できるようになっており、プログラミングが必要ないというソフトが増えている。新しい課題に対してのソリューション、ビジネスマンのようなセンスを持った技術者は必要で、それ以外の、単にコードを書くだけの人は取って代わられてしまうだろう」と語る。「自動プログラミングやツールを使えば誰でも作れてしまう時代。ホームページと同じで、最初はスキルを持った人だけが作れたのだが、今では無料のツールでかっこよくデザインもされて、誰でも作れる時代。単純な仕事はだんだんなくなるのでは」と尾張氏。「こういう課題をこういう技術で解決できるよとか、幅広い知識で提案ができるエンジニアが今後は活躍できる」(尾張氏)。
こうした状況に対応できるエンジニアは果たしているのだろうか。齋藤氏は非常に難しいとしながら、「エンジニアには得意分野がある。それぞれの専門のエンジニアが出てくるのでは内だろうか」と語る。例えば、経理については熟知しており、そのためにはどのようにプログラミングをしていけばよいのかを分かっている人材だ。
■幅広い知識で提案ができるエンジニアになるには?
ではどのようにしたらこのような人材になれるのだろうか。「エンジニアが経理を学んでいくよりも、経理を知っている人がプログラミングを学んだ方が早い」と齋藤氏は指摘する。「厳しい時代が間違いなくやってくる」(齋藤氏)。
では、こういう状況に対応するためにはどうしたらよいのだろうか。「エンジニア不足にはいつか天井が来る」と尾張氏。そうなると今オフショアで働いている人とか、外国人を採用するケースもあるだろう。英語のスキルは以前から求められていたが、プロジェクトに外国人エンジニアが入ってくる場合は、英語でコミュニケーションを取る必要もあるだろう。新しい技術はアメリカの方が早い。日本語のページを探して勉強するより、英語のソースを見て勉強する方がいいわけだ。尾張氏は新しい情報については、週末の時間があるときに触って勉強し、サービスを立ち上げたりしているという。先ほどもあった、自分の時間を確保してそこに勉強時間を当てるということだ。「Androidの案件も、出だした頃は誰も技術がなかった。チャレンジしている人はどんどん吸収してスキルを身につけている」(尾張氏)。
これまでの結論としては、エンジニアは二極化していくということ。それを踏まえた上で人材採用についてどのように変わっていくのか。菅原氏は「ビジネスセンスがあって専門性があり、率先していろいろなことを吸収するエンジニアを採用できるとは思えないというのが大前提」としながら、「そこでどういう工夫が必要かというと、専門性のひとつの分野に、メガプラットフォーマーの技術に詳しい人に特化して採用し、それを組み合わせてコーディネートするとよい組織体制になって、それほど一人ひとりの給料も高くない」(菅原氏)。一人ひとりはスーパーマンでないので、コストもかからないということだ。
齋藤氏は「企業が優秀なエンジニアを抱えるのは無理な時代が来る。フリーの方をいかに使っていくか。SAPの技術者がどうしても今ほしいとなっても、3年から5年のスパンでいらなくなってしまう。そういう労働力の確保の仕方が今後のやり方のひとつになってくるのではないかと指摘する。「正社員ではなく、必要なものを必要なときだけ、というのが人材の確保のあり方にも影響する」(齋藤氏)。
これまでの議論をまとめる形で佐々木氏は語る。
「我々の生活空間をコンピューティングが覆うという中で、おそらくテクノロジーの役割は高まっていくだろう。そこには技術をどう扱うかというテーマはやってくるが、ひとつの方向性としては最先端のテクノロジーをどうやって追いかけていくのかという技術者の必要性。
もうひとつはいろいろな分野に特化して詳しくなる人がIT全体を担っていくという有機的な歯車のような方向性がありなのではないか。技術者から見るとひとつの分野にいかに特化できるか、あるいは最先端の技術を習得していくか。いろいろな企業側のニーズと課題に対して、どれだけ的確なツールやプログラムをソリューションとして提案できるかを技術者としても考えなければならない。
一方企業の側でも、かつてのように一人の技術者を正社員として抱え込んで働かせるのではなく、どんどん変化する技術、ITの方向性に合わせて、いろいろな技術者とうまくつきあいながら、組み合わせるように技術を使っていくような、発想の転換が必要となる。こうなるとフリー化の流れとか、技術者個人個人がどう仕事をしていくかという流れ自体は変わらないだろうが、こういう方向ならオフショアで流れていくことも技術者としては対抗できて、よりよい技術者像を造っていけるのではないか」と語った。
今後の多様化の時代、エンジニアたちに画一的ではなく、様々な選択肢の中から仕事が選べる時代になり、急速な変化に合わせ、柔軟に勤務体系を変えていける企業が、今後生き残っていくのではないだろうか。
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