地政学的リスクが再浮上 原油価格の高騰はあるか?【ビジネス塾】
ITライフハック / 2014年7月4日 9時0分
イラク情勢が混とんとしてきた。6月に入ってから、隣国であるシリア内戦の余波で武器を手にしたスンニ派(イスラム教多数派)過激派である「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)が支配地域を拡大、原理主義に基づく「イスラム国」(IS)の樹立を宣言した。
米国など各国も複雑な動きを見せているが、この問題の影響を考えてみた。
■イラクの5分の1を支配
ISはすでに、イラク国土の5分の1を支配していると言われる。イラク北部はクルド人自治区で、混乱の間にこちらも支配地域を広げている。南部はシーア派(イスラム教少数派)が多く、マリキ首相が率いるイラク中央政府は「シーア派主導」だ。イラクは事実上、3つに分裂した格好で、すでに内戦状態にあると見てよい。
イラクは、世界第2位の石油輸出国である。油田は主に北部と南部にある。うち、北部最大の油田であるキルクークは、すでにISの支配下にある。原油価格が上昇傾向なのは、イラクの混乱が原油輸出に影響するのではないかという懸念が拡大していることによるものだ。世界経済にとっては、まさに地政学的リスクである。
■利害錯綜する米国、ロシア、イラン
2003年のイラク戦争と占領、2011年に完全撤退にこぎ着けた米国としては、ISの台頭は意外だったろう。しかも米国はシリア内戦時、「反アサド政権」の観点から、ISの系列につながる勢力を支持してきた経過がある。これがところを変えて、米国が樹立したマリキ政権を追いつめているのは皮肉なことだ。
米国としてはISの力を削ぎたいところで、一時はISへの空爆も考えたが、これまた悩ましい。オバマ政権は「アジア重視」を掲げ、主なターゲットを中国に据えている。ここでまた中東地域に手を取られれば、そのスキを突いて、中国が南シナ海や東シナ海で動きを強めるのではないかと警戒せざるを得ない。また介入すれば、ISに資金援助している親米国サウジアラビアとの関係が悪化してしまう。米国には、軍事支出の余裕も乏しい。
逆に介入せずに放置すれば、米国の中東での影響力をさらに小さくなり、代わりに、シーア派国家でマリキ政権を後押ししているイランが、地域での影響力を強めかねない。米国は核開発をめぐってイランへの制裁を続けているところなので、このシナリオも望ましくない。イランの台頭は、イスラエル、サウジも警戒するところだ。
■国際政治への影響も
つまり、介入してもしなくても、米国にとっては「良いことはない」のである。米国が動けないのを横目に、ロシアがマリキ政権に軍事援助を行っているのも、ウクライナ問題で対立する米国からすれば「にがにがしい」ものだろう。
原油価格への影響だけでなく、これまで米国中心に動いてきた世界がどこへ向かうのか、イラク情勢は将来を占うものにもなるだろう。
(編集部)
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