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給与とメンタルをむしばむ「多重下請け構造」 なぜ法規制しきれないのか?

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年6月26日 8時0分

●多重下請けを禁止する法律は?

 では、こうした多重下請け構造を規制する法律はあるのでしょうか? 

 建設業法22条では、元請会社が下請会社に全ての建設工事を丸投げすることを禁止しています。工事の品質低下を防ぐための法律で、一括下請負と呼ばれています。

 労働者派遣法では、事務職などの例外を除き、雇用の安定が損なわれるという建設業界への派遣はできないことになっています。さらに派遣法では、二重派遣といって労働者を受け入れた派遣先が、新たに労働者の供給元となって別の企業に労働者を派遣する行為を禁止しています。

 労働者派遣法は罰則が厳しめなのですが、この二重派遣については特に重く、100万円以下の罰金に加えて派遣会社の事業許可の取消しや業務停止命令などを受ける恐れもあります。

 ただしこれらの法律は、工事における品質の担保や労働者の雇用の安定を目的としています。受注した仕事をさらに他の下請け先に発注するという多重下請構造について規制するものではありません。

 また、IT業界では偽装請負が長年の課題となっています。これは、契約形態が請負契約や準委任契約などであるにもかかわらず、発注先の企業から直接の指揮命令を受けている、つまり実態が派遣契約となっていることを指します。労働者派遣法で厳しい制約を設けても、それを免れる方法が存在するのです。派遣か請負かという判断は、現場を詳しくヒアリングしないと分からないので労働局などの行政機関もなかなか指摘しづらい面があります。

●なぜ、多重下請けは生まれてしまうのか?

 多重下請けの問題が話題になるたびに、筆者は次のような疑問を抱いていました。

 「発注者がピンハネ業者を飛ばして、会社規模が小さくても実作業をしてくれる会社に発注すれば費用も抑えられるのでは?」

 仕事を受ける側も報酬をそのまま受け取れた方が利益は大きく、働いている社員に還元できるようになるでしょう。口座の開設や与信管理にしても一定規模の法人であれば問題ないではずです。

 なぜ報酬を中抜きされるかもしれない中間業者を挟むのか。その理由の一つとして、長期間の大規模プロジェクトの場合、成果物が意にそぐわなかったり、受注した会社の経営状態が悪化したりするケースがあるからです。

 予期せぬことが起こった場合の保険として知名度の高い大企業に依頼することも多いと考えられます。大企業であれば、再委託したA外注先がだめになった場合でもB外注先に仕事を振ることができます。タイトなスケジュールや儲(もう)からず採算の取れない仕事でもB外注先は、今後のことを考えて引き受ける可能性は高いと思われます。

 失敗が許されない行政絡みの仕事などはその傾向が強いです。また日本では、解雇規制が厳しいため、自社で人材を抱えるよりは、案件に応じて外注したほうが合理的という事情もあります。

 とはいえ、いかなる事情があるにせよ、多重下請けの末端として実際に手を動かしている人が厳しい労働環境にもかかわらず、雀の涙の給与しか貰えないという実態は健全ではありません。政府は2024年2月13日、トラック運転手の人手不足で物流危機が懸念される2024年問題への対応をめぐり、物流関連法の改正案を閣議決定しました。

 多重下請けなどの業界の商慣行に法規制でメスを入れ、解決に向けて荷主や運送事業者の行動変容を促すのを目的としています。こうした動きが各業界にも普及することを期待します。

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