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なぜ「自動車不正」問題は起きたのか “どうでもいい仕事”があふれる残念な現実

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年6月12日 9時14分

 とはいえ、今も参入障壁としての恩恵がないわけではないので、自動車業界としてもこれをスパッとやめることもできない。そんな問題先送りをしている間に、現場の負担がどんどん増えていく。そして、その「むちゃ」のつじつまを合わせるように、現場でこっそりと「不正」が始まっていくというわけだ。

 このような「ブルシット・ジョブ型不祥事」はこれから日本で増えていくだろう。分かりやすいのはマスコミである。

 この業界もベンチャーや外資系企業の参入はハードルが高い。限られた企業の記者だけしか政府や役所の記者会見に出られないなど「記者クラブ制度」という参入障壁があるからだ。この産業保護策のおかげで、日本のマスコミ企業は他の先進国ではあり得ないほどの巨大企業に成長できた。

 しかし、ご存じのようにネットやSNSの発達によって、自由な取材言論活動が盛んになったことで、記者クラブの中で取材することは典型的なブルシット・ジョブになった。記者会見はすぐにネットやSNSで中継されるし、特ダネは“文春”や“新潮”などにリークされる。なまじ記者クラブに加盟しているので、役所側の機嫌を損ねることができず「自主規制」が多くなる。当然、そんな偏向ニュースにイラつく人々からは“マスゴミ”などとなじられてしまう。

●日本企業にあふれるブルシット・ジョブ

 つまり、かつて新規参入の障壁だった記者クラブは今や、「完璧に無意味で、不必要で、有害でさえあるムダな仕事」に成り下がってしまっているのだ。

 当然、現場の記者はこんなブルシット・ジョブはやりたくない。しかし、認証制度と同じで、まだ既得権益を守ってくれている側面もあるのでなかなかスパっとやめられない。結局、疲弊して不正に走っていく。少し前、小林製薬の紅麹問題で、読売新聞のデスクが取材したコメントを勝手に捏造(ねつぞう)してクビになったが、これもブルシット・ジョブ型不正だろう。

 ムダな会議、ムダな手続き、意味のない打ち合わせ、日本のビジネスシーンに、ブルシット・ジョブがあふれていることに異論を挟む人はいないだろう。ただ、それは裏を返せば、「ブルシット・ジョブの恩恵を授かってきた人々」がビジネスの世界にはたくさん存在しているということだ。

 そういう既得権益者たちは文句やグチを言いながら結局、ブルシット・ジョブを止められない。ああでもない、こうでもないと「変革ができない理由」を並べて問題を先送りする。そこで1番のしわ寄せを受けるのが「現場」で働く弱い立場の人間だ。認証不正のように、現場の実態とかけ離れたブルシット・ジョブを会社から命じられて、納期や成果を求められるうちに心身を追い詰められてしまう。どう考えても達成できないスケジュール、何をやってもクリアできない目標を前に「こんなもんやってられるかよ」と心がポキンと折れる。

 しかし、組織人として「できません」は口が裂けても言えない。住宅ローンも残っているし、子どもの教育費もあるので辞表を出すわけにもいかない。そうなると、あとに残された道は、データの改ざんなどの不正しかないのではないか。

 日本を代表する自動車産業で起きたことは、他業界でも起きる。ビジネスパーソンの皆さんはぜひとも「ブルシット・ジョブ型不正」に巻き込まれないようお気を付けいただきたい。

(窪田順生)

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