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「天橋立」もあるのに日帰り客だらけ どうする? 老舗のお酢メーカーが追いかける“2つの街”

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月9日 6時0分

 ゲタリアでは、あるレストランが世界的な評価を得たことで、国際的な観光客を引き付けるようになった。人口わずか3000人程度の村だが、年間を通じて安定した観光需要を生み出しているという。

 「サン・セバスチャンのように数百店舗のバルを丹後で実現するのは現実的ではない。一方で、ゲタリアのように店舗数は少なくても、訪れる価値のある名店を作れば町は強くなると考えた。知名度を考慮し、あえてサン・セバスチャンの名を借りた」と飯尾氏は狙いを説明する。

 つまり、サン・セバスチャンのような大規模に飲食店を集積させるのではなく、少数でもクオリティーの高い「ディスティネーションレストラン」(店に行くこと自体が観光の目的となるレストラン)を作ることで地域全体の価値を高めることを目指した。

●飯尾醸造の具体的な取り組み

 取り組みの中心となるのが、レストランの誘致と支援だ。まず、飯尾氏自らがイタリアンレストラン「アチェート」を開業した。営業は夜のみとし、あえてランチ営業は行っていない。その狙いは「宿泊客を増やすため」だ。

 そして2022年には、アチェートと同じ敷地内に寿司割烹「西入る」の出店にこぎつけた。同店舗は、日本各地で修行を積んだポルトガル人の料理長と日本人の妻が、飯尾氏の働きかけにより宮津に移住し、店舗を開いた。飯尾氏が住居の紹介や経営のサポートなど、多岐にわたる支援を行うことで、新たな人材の誘致に成功した事例といえる。

 また、アチェートの客単価は約1万2000円、西入るは約2万円と、あえて高めの価格帯に設定している。「地元の既存店舗との競合を避けつつ、新たな客層を呼び込むことを狙った」(飯尾氏)

●現状の課題と成果

 ディスティネーションレストランを増やし、宿泊客を増やそうとする本プロジェクトは、着実に成果を上げつつある。

 「プロジェクトの構想から約9年で、5軒の高品質なレストランがオープンしたほか、世界的に権威あるレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』に地元の2店舗(『西入る』『縄屋』)が掲載されるなど、対外的な評価も高まっている」(飯尾氏)

 宿泊施設の増加も顕著だ。2020年には宮津市にマリオットホテルが進出したほか、直営のアチェートから徒歩5分圏内にゲストハウスが新たに数軒開業した。これらの施設は、観光客の受け皿として機能している。

 一方で、課題も浮き彫りになっている。そのひとつが人材育成だ。「若手料理人の独立支援を目指しているが、まだ十分に成果が出ていない」(飯尾氏)という。地域に根付き、長期的に活躍する人材の育成が今後の鍵となりそうだ。

 また、行政との連携もまだまだ不十分だ。「ミシュランガイドで星を取る店を出す目標を掲げているが、そもそも丹後エリアが調査エリアに入っていない。行政の協力が不可欠だが、まだ十分な理解が得られていない」(飯尾氏)。官民連携の強化が今後の重要なポイントになるだろう。

●地域創生における民間企業の役割とは

 今後について飯尾氏は、「若い世代が丹後エリアで独立開業する事例が増えてほしいし、開業を後押ししたい」と語る。実際、丹後での独立に興味を持つ料理人からの問い合わせが各地からあるという。

 この取り組みは、決して特別なものではない。どの地域にも、その土地ならではの魅力や資源がある。それを見出し、磨き上げ、発信していく――。人口減少や経済の停滞に悩む地域にとって、飯尾醸造の挑戦は貴重なケーススタディとなるかもしれない。

(カワブチカズキ)

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