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セイバンの「ひんやり背あてパッド」前年比4倍 開発のきっかけは小学生の“陳情”

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年8月18日 8時10分

 開発過程での最大の課題は、冷却効果と安全性のバランスだったという。香川さんは「どれだけ冷たく感じてもらえるかが大きなテーマだったと同時に、低温やけどのリスクも考慮する必要があった」と語る。

●1時間の冷却効果で通学中は確実に冷たい

 「ひんやり背あてパッド」の特徴は、専用に開発された保冷剤にある。一般的な保冷剤では形状が不安定で、使用中に不快感を与える可能性があるほか、低温やけどと結露を防ぐために専用設計を採用。保冷剤をビニールで包んだことで水滴が発生しづらく、衣類が濡れにくくなった。

 また、同社の調査によると、99%の小学生が「通学は1時間以内」であることが判明したことから、「通学中は確実に快適に冷たく」なるよう保冷剤の持続時間は1時間以上とし、溶けたあとも吸水速乾素材を使用しているため背中が蒸れにくい仕様とした。

 軽量化も重要なポイントだった。近年、教科書の増加やタブレット端末の導入で、児童の荷物は増加傾向にある。この状況を踏まえ、冷却効果を維持しつつ、できる限り軽量化を追求した。

●前年同期比で約4倍の売れ行き

 販売状況も好調だ。同社広報担当の松井満和子さんによると、2024年4月から6月の販売実績は前年同期比で約4倍を記録したほか、同社の冷感グッズ全体に占める割合も昨年の29%から35%に上昇した。

 購入のピークは6月に訪れた。松井さんは「ランドセルの第1次商戦である6月に、同時購入されるお客さまが特に多かった」と分析する。また、気温35度を超える猛暑日が連日続いていることから、より冷却効果の高い製品への需要が高まったようだ。

●たつの市に続き、静岡県焼津市も配布を実施

 小学生からの陳情があった兵庫県たつの市では、2023年度予算に847万円を計上し、市内の全児童に「ひんやり背あてパッド」の配布を実施した。続いて2024年には、静岡県焼津市でも配布が実現。「たつの市での配布に関する報道を担当者がご覧になり、昨年の段階から話があった」(香川さん)

 また、たつの市では、2024年度の新入学児童への対応も行っている。新1年生向けに配布する入学者用セットの中に「ひんやり背あてパッド」も含まれていたという。

 現状での課題は、冷却効果をいかに持続させるかだ。香川さんは「朝から夕方まで冷たさを保つのは非常に難しい。特に帰りのほうが暑い中を帰宅することを考えると、ここが大きな問題」と指摘する。

 この課題に対し、たつの市では学年ごとに冷凍庫を設置し、朝に預けて帰りに取り出すようにするなど学校単位で対策を行なっているという。同社は「学校側に一任してしまっている点は改善の必要がある」と考える。

 今後は、背中以外に肩ベルトなど肌に触れる部分を冷やす方法や、ランドセル本体の軽量化も熱中症対策の一環として考慮している。また、他の自治体への展開も積極的に進めている。「少しでも快適に通学していただけるよう、自治体への働きかけも並行して行っている」(香川さん)

 「ひんやり背あてパッド」は、自治体での採用拡大や製品改良の継続など、今後の展開にも注目される。セイバンの取り組みは、猛暑における児童の安全確保と企業の社会的責任の両立を示す好例となりそうだ。

(カワブチカズキ)

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