ユニコーンからデカコーンへ 成長戦略の3つの仮説
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年11月20日 7時30分
背景にあったのは、フリー自身が創業期に決済機能の開発に苦労した経験だ。決済機能を提供しサードパーティの開発負担を減らすことで 、さらに多くのアプリが開発され、その結果として、より多くのユーザーのニーズが満たされることを狙ったのだ。
ユーザーネットワーク
さらに、ユーザー間の受発注をスムーズにするために、請求書や帳簿上の受発注金額などが自動転記されるプロダクトを開発した。これにより、受発注時の入力の手間は大きく削減される。このメリットによりユーザーが増えると、取引先が使っているからという理由でさらにユーザーが増える、いわゆる「ネットワーク効果」による顧客獲得への期待があった。
2022年度決算では、フリーの中堅企業向けのセグメントは順調に成長し、ARR成長率を50%に保った。2021年に発表したプロダクトが部分導入可能なものであり、中堅企業の多様なニーズを捉えたものだったことで、ARR成長率が維持されたと評価された。この際、中堅の既存顧客向けはセールス一人当たり獲得ARRが1.7倍、成約率が2.1倍と新規営業よりも効率が高いことを確認できた。
しかし、全体の対前年のARR成長率は、鈍化が続いた。2021年度6月期50%から、22年度6月期38%に鈍化したのだ。対前年の顧客数成長率も、2021年度から22年度にかけて鈍化している。思った通りにネットワーク効果を得ることはできなかった。
フリーが準備したアプリストア上での決済機能導入では、サードパーティのアプリ開発者の大きな増加にはつながらなかったのだろう。
企業会計や給与周りの法令理解に加え、各業界のドメイン知識を必要とするアプリを開発できるベンダーは限定的だ。売上高に対するIT予算の比率は中央値で1%、平均値で2%(日本情報システム・ユーザー協会2023年度調査)であり、アプリを利用する企業の支払い余力はおのずと企業規模に左右される。個人事業主の平均的な給与額は255万円(国税庁2023年調査)で、フリーの平均年間顧客単価は4万円前後だ。
つまり、フリーの顧客の大部分を占める個人事業主や小規模企業の支払い余力は限定的で、サードパーティのアプリ開発者にとって、アプリストア内の課金機能が追加されたとしても、難易度が高いわりに顧客単価が上がらない市場に参入するインセンティブにはならなかったのだと考える。
また、フリーの有料課金ユーザーは約30万と多いが、全国630万の小規模事業者の5%未満であり、ユーザー間取引を拡大させるための受発注システムがネットワーク効果を得るための転換点を超えなかったと想定される。
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