賛否両論の『ドラゴンボールDAIMA』をレビュー! “異世界転生もの”として見ると分かりやすいかも? 「DAIMA」が今の時代に刺さる理由を考える
Fav-Log by ITmedia / 2024年11月26日 12時42分
累計発行部数約2億6000万部を超え、今もなお世界中で愛されている伝説的漫画『ドラゴンボール』の完全最新アニメシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』。原作はもちろんストーリー、キャラクターデザインのほか、大魔界やガジェットのデザインなどに原作者・鳥山明先生が深くかかわっているということで、放送前から大変話題を呼んでいた1作です。
かく言う私も初めてハマった漫画が『ドラゴンボール』で、アニメや劇場版、ゲームなどさまざまな媒体で繰り返し、楽しんできた人間ですので、新作シリーズにはかなり期待を寄せていました。本作『ドラゴンボールDAIMA』について賛否両論が飛び交っている状況ですが、結論から言うと現時点で私は“賛”の側の感想を持っています。
鳥山先生らしさを残しつつ、現代の感覚にフィットする作りになっているという印象がありまして、今回はそんな『ドラゴンボールDAIMA』の魅力を語ってみようかなと思います。
●『ドラゴンボールDAIMA』をレビュー:『無職転生』との意外な共通点とは? 「DAIMA」は転生ものかもしれない……
『ドラゴンボールDAIMA』は、大魔界の王・ゴマーの悪だくみで、悟空やベジータを含む魔人ブウとの戦いに関わった戦士が小さくなってしまうという展開から始まります。仲間を助け、体を元に戻すため、宇宙船(作中では「飛行機」と呼称)で大魔界を冒険する物語となっています。
この構想自体は、同じく悟空が小さな姿にされてしまう『ドラゴンボールGT』を彷彿とさせるところがあり、宇宙船に乗って仲間と旅をするという要素も含めて、GTの雰囲気を感じたという人も多いかもしれません。私も第一印象はそうだったのですが、現在の人気アニメと比較して考えてみると、話の構造がどことなく「転生もの」や「俺TUEEEもの」と通ずるようにも思えてくるのです。
例えば『無職転生』や『推しの子』、『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』、『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』など、流行のジャンルと言って良いであろう、これらの転生ものの特徴は単に転生するだけでなく「若返る」という要素が加わっている点です。
多くの場合、30歳過ぎの中年くらいのキャラクターが何らかのきっかけで転生して、子供や赤ちゃんの姿で生まれ変わり、文字通りのセカンドライフを送ることになります。
これはアニメ視聴者の中年層が拡大していることの表れとも言えそうですが“中年の若返り”という観点からすると、期せずして『ドラゴンボールDAIMA』も、これらのジャンルの仲間入りをしているような印象を受けます。
●『ドラゴンボールDAIMA』をレビュー:もはや「俺TUEEEもの」なんじゃないか? チート属性としての孫悟空
『ドラゴンボールDAIMA』は、人気が根強い「俺TUEEEもの」のコンセプトともつながるところがありそうです。『推しの子』は違いますが、上記の「異世界転生もの」は原則として「俺TUEEEもの」を兼ねていることが、ほとんどと言って良いでしょう。
現実世界での経験を引き継いでいたり、異世界の住人が知らない知識を持っていたり、突出した能力を獲得したりと……いわゆる“チート属性”を有しています。ある種のアドバンテージを持っている状態で物語が進行。最初は周りの人間や敵になめられるのですが、最終的にはその類まれな能力で相手を圧倒しぎゃふんと言わせる展開が多く見られます。
この視点で『ドラゴンボールDAIMA』を見てみると、小さくなったとはいえ魔人ブウ編の後の悟空は、すでに圧倒的な戦闘力を有している状態。その状態で大魔界という異世界に繰り出すのは、ほとんどチート属性を持って転生しているのと変わらないでしょう。
最初はその小さな見た目のせいもあって、なめられていますが、いざ戦うとあっという間に敵を倒してしまうという展開も、俺TUEEEものの王道の流れです。大魔界を異世界と考えれば、ほぼ異世界転生ですし、若返りやチート属性、分からせ展開なども含めると、偶然だとは思いますが、今流行りの転生ものや俺TUEEEもののジャンルをしっかり踏襲した内容になっているように見えます。
小さい姿でなめられているものの実は強いという描写はドラゴンボールの初期、敵をしのぐ圧倒的なチート属性を持っているなどは、魔人ブウ編でバビディやダーブラを驚かせる展開などにも見られ、もともと原作が持っている特性でもあります。そのため、これらの点は意識して現在の時流に寄せたというよりは、偶然時流に乗ってしまったという方が正しいかもしれません。
とはいえ小さくなって大魔界を冒険するというコンセプトは、明らかに異世界転生的ではあるので、ある程度現代人に刺さりやすく調整された「令和版ドラゴンボール」と言うこともできそうです。
●『ドラゴンボールDAIMA』をレビュー:大魔界の設定から見える「階級問題」と「貧困の影」
今作の見どころの1つは、悟空たちが冒険する「大魔界」の独特な世界観です。ひと口に大魔界と言っても、第1魔界、第2魔界、第3魔界とエリアが分かれています。しかも大魔界からの使者グロリオや途中で仲間になるパンジの話を聞く限りでは、エリアごとにどうやら格差があるような印象も受けます。
第3魔界出身のパンジが第2魔界や第1魔界に嫉妬や憧れを持っていることに加え、王宮のある第1魔界と、圧政に苦しむ貧しい庶民や盗賊で構成される治安の悪い第3魔界の暮らしぶりはかなり異なる様子で、一種の階級制があるように見えました。
しかもパンジの話を参考にすると、種族によって生まれつきどこの魔界で生活するかは、決まっているようですし、おそらく第3魔界の魔人が第1魔界に移り住むということは不可能に近いのだと思われます。努力に関係なく、生まれで運命が決まっているという、階級移動の困難さを感じる部分ですが、この点も現代に流れている感覚とつながるところがありそうです。
というのも昨今こうした階級問題を背景にした、持たざる者の怒りや苦しみを扱った作品は人気が高く、2019年公開の映画『ジョーカー』はその代表例です。主人公アーサーがエリートサラリーマンからいじめられるシーンは、社会の上と下が可視化されたツラい場面で、印象的だったと思います。
また2020年公開の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』や2018年公開の『万引き家族』をはじめ、韓国発の縦読みカラー漫画「WEBTOON」で大ヒットした『俺だけレベルアップな件』、親の借金を肩代わりさせられた主人公・デンジの鬱屈や怒りを描いたTVアニメ『チェンソーマン』など……2020年前後から社会からこぼれ落ちた人々の鬱屈や、エリート及び社会への反逆を表現する作品が多数登場しています。
韓国映画は特にはっきり表現されますが、貧困の苦しみと努力ではどうにもならない階級移動の困難さについては、世界的にある程度共有されている感覚なのかもしれません。日本でも若者の貧困や、高学歴の親の子供が高学歴になるなどの格差の固定化が意識され始めており、コロナ禍で明らかになったエッセンシャルワーカーとホワイトカラーの格差も含め、簡単には超えられない壁(階級)を感じている人も少なくないでしょう。
こうした2020年前後の時代状況と人気のコンテンツの対応関係を考えると、大魔界に存在する階級制度のような社会システムや貧困層の生きづらさ、治安の悪化などは、フィクションでありながらも視聴者の現実感とつながる要素と言えるかもしれません。
●『ドラゴンボールDAIMA』をレビュー:階級社会の大魔界では理解されない「修業」という概念
面白いのは、悟空の言う「修業」という言葉の意味が、パンジを含めた第3魔界の魔人にイマイチ伝わっていないという点です。元々のポテンシャルはあったものの、悟空は落ちこぼれの下級戦士だったところから、必死に修業してエリートを超えた人物です。
つまり悟空は修業によって、ある意味階級移動を果たした人物と言えるわけですが、逆に生まれつき階級が決まってしまう大魔界のパンジたちには、努力して成長する「修業」の概念自体が良く分かっていないように見えます。
頑張ったところで第3魔界から第1魔界に行けるわけがないという前提に立っている、ある種の階級社会でパンジたちは生きているので「修業ってなに?」と、ポカンとしてしまうのかもしれません。
この点は完全な私の邪推ですが、修業で困難を乗り越えてきた悟空が現れたことで、何も変わらないと諦めていた大魔界の階級制が、各々の頑張りによって変わるかもしれないと、大魔界の住人たちが希望を見出して奮起し、社会変革を起こしていく物語になったら面白いなと期待してしまいます。
●『ドラゴンボールDAIMA』をレビュー:時間にケチな現代人に刺さる、寿命を徴収する大魔界の税金システム
最後に触れておきたいのが、大魔界の憲兵隊が行っていた税を徴収するシーン。重税に苦しむ魔人の姿と共に、憲兵隊が放った「金貨が払えない怠け者には、1枚につき寿命3年をもらう」というセリフが印象的でした。
お金が払えないなら寿命を払えという、とんでもない要求ですが、フィクションの出来事とはいえ「寿命=時間」を奪われることの恐怖感はかなりリアルなんじゃないかと思ってしまいました。SF映画の『TIME/タイム』を思い出したという人もいるかもしれません。
昨今はタイパ(タイムパフォーマンス)なんて言葉も登場し、仕事だけでなくプライベートでもタイパ思考で過ごしている人は少なくないでしょう。時間を節約するため、友達から勧められた映画を倍速で視聴する、まとめ動画で見たことにするというのは日常茶飯事に行われているのではないでしょうか。
少しでも時間があればスマホゲームをやり、少しでも時間があればスキマバイトや副業をやり、興味の無いものは素早く消費するなど、とにかく時間に追われているのが現代人の特徴です。
サブスクリプションの普及でコンテンツの供給量が膨大に増えたというのもあるかもしれませんが、いずれにしてもタイパ思考で時間にケチになっている人や、時間をゆったり使ってのんびり過ごすのは苦手という人は一定数居るはずです。
そんな時間にケチな現代人にとって、寿命や時間を奪われるというのは圧政そのものですし、かなりの苦痛を伴うでしょう。単なる暴力やお金の徴収ではなく、時間に着目した点は時代性をとらえるという意味でドンピシャだなという印象を受けました。
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