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「なぜ時間は過去→未来にしか進まない?」を“量子もつれ”で説明か 未解決問題「時間の矢」に切り込む

ITmedia NEWS / 2024年6月5日 8時5分

「なぜ時間は過去→未来にしか進まない?」を“量子もつれ”で説明か 未解決問題「時間の矢」に切り込む

“量子もつれ”で未解決問題「時間の矢」に切り込む

 英サリー大学と米カリフォルニア大学サンディエゴ校に所属する研究者らが発表した論文「The Decoherent Arrow of Time and the Entanglement Past Hypothesis」は、時間が過去から未来へ一方向にしか流れない理由を探究した研究報告である。

 普段感じている時間は、過去から未来へと一方向にしか流れていかない。このような時間が一方向に進む概念を「時間の矢」と呼び、物理学の未解決問題の一つとしている。この時間の矢を説明する新しい考え方を提案したのがこの研究である。

 この論文では、宇宙が始まったときには「量子もつれ」は少なかったと主張(宇宙の初期状態が非常に低いもつれエントロピーを持つ状態であったという仮定)しており、これを「量子もつれの過去仮説」(Entanglement Past Hypothesis、EPH)と呼んでいる。

 「量子もつれ」とは、2つ以上の量子がどんなに遠く離れていても互いに強く関連し合う量子特有の現象をいう。この状態にある量子は、一方の状態が決定されるともう一方の状態も即座に決定される特性を持つ。量子もつれは外部からの干渉があると壊れてしまい、この現象を「量子デコヒーレンス」と呼ぶ。量子コンピュータを実用化する上でも、このデコヒーレンスは大きな障害となる。

 論文では、宇宙が進化するにつれて、量子もつれが増えていき、それと同時にデコヒーレンスも増えていったと説明。量子デコヒーレンスは後戻りできない変化(不可逆的なプロセス)なので、時間が前にしか進まない理由の鍵になると指摘している(デコヒーレンス的時間の矢)。

 これは「熱力学的時間の矢」と類似している。宇宙の初期状態が非常に低い熱力学的エントロピーを持っており、時間が進むにつれてエントロピーが増加する現象によって時間の一方向性を説明するというものである。

 まとめると、この研究では、時間の矢について新たな視点を提供している。具体的には、宇宙の初期量子状態が非常に低い量子もつれを持っていたという「量子もつれの過去仮説」を提唱。この仮説に基づき、量子デコヒーレンスというプロセスが時間の一方向性を説明する鍵となる。デコヒーレンスは、環境と絡み合うことで生じる不可逆的なプロセスであり、量子もつれの増加がその証拠となる。

 Source and Image Credits: Al-Khalili, Jim, and Eddy Keming Chen. “The Decoherent Arrow of Time and the Entanglement Past Hypothesis.” arXiv preprint arXiv:2405.03418(2024).

 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

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