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寝不足で失われた「記憶」、後で十分寝ても手遅れ? 繰り返し高速再生する機能は戻らず 米研究者らが検証

ITmedia NEWS / 2024年6月24日 8時5分

寝不足で失われた「記憶」、後で十分寝ても手遅れ? 繰り返し高速再生する機能は戻らず 米研究者らが検証

寝不足で失われた「記憶」、後で十分寝ても手遅れ?

 米ミシガン大学メディカルスクールどに所属する研究者らが発表した論文「Sleep loss diminishes hippocampal reactivation and replay」は、睡眠不足が脳における記憶の固定化にどのように影響を及ぼすかを調査した研究報告である。

 海馬では、ノンレム睡眠中に特徴的な脳波パターンである「Sharp-wave ripple」(SWR)が頻繁に観察できる。SWRは記憶の固定化に重要な役割を果たすと考えられている。SWRの最中には、覚醒中の経験に関連した神経活動パターンが再活性化され、高速でリプレイ(再生)されることが分かっている。しかし、睡眠不足がSWRやそれに伴う再活性化・リプレイにどのように影響するかは、これまでほとんど研究されていなかった。

 研究チームは、ラットの海馬に電極を埋め込み、神経活動を記録できるようにした。ラットには新しい迷路を探索させ、その後、十分な睡眠を取らせる自然睡眠グループと、睡眠不足状態に置くグループに分けた。そして、それぞれのグループでSWRの特徴と、SWR中の神経活動パターンを比較した。

 その結果、興味深いことが分かった。SWRの発生頻度自体は、睡眠不足グループでも自然睡眠グループと同じかそれ以上だった。しかし、SWRを構成する波の振幅は小さく、周波数は高くなっていた。また、睡眠不足グループでは、海馬の主要な神経細胞である錐体細胞とそれを制御するインターニューロンの発火率が全体的に上昇し、自然睡眠時とは異なるパターンを示していた。

 さらに重要なことに、自然睡眠グループではSWR中に迷路探索中の神経活動パターンが再活性化され、高速で繰り返し再生されていたのに対し、睡眠不足グループではこの再活性化と再生が大幅に減少あるいは消失していた。睡眠不足の後に回復睡眠を取らせると、再活性化は部分的に回復したが、自然睡眠ほどのレベルには達しなかった。また、再生の割合は回復睡眠中にも顕著に低く、自然睡眠のレベルには回復しなかった。

 これらの結果は、睡眠不足はSWRの発生自体には影響せず、むしろSWR中の記憶に関連した神経活動パターンの再活性化と再生を選択的に阻害することを示唆する。つまり、睡眠不足は、海馬における記憶の固定化プロセスを妨げることで、記憶力を低下させると考えられる。

 Source and Image Credits: Giri, B., Kinsky, N., Kaya, U. et al. Sleep loss diminishes hippocampal reactivation and replay. Nature(2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07538-2

 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

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