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エントロピー増大の3つの計算式、量子系では一致しない新発見 従来の常識を覆す 米研究者らが発表

ITmedia NEWS / 2024年10月23日 8時5分

エントロピー増大の3つの計算式、量子系では一致しない新発見 従来の常識を覆す 米研究者らが発表

2つの量子系A、B間でのエネルギーと粒子数の交換過程を表す図

 米メリーランド大学と米ロチェスター大学に所属する研究者らが発表した論文「Non-Abelian Transport Distinguishes Three Usually Equivalent Notions of Entropy Production」は、量子系において、従来同等と考えれてきた3つのエントロピー増大の計算式が異なる結果を示すことを証明した研究報告である。

 水に浮かぶ氷が溶ける過程では、氷と水の間で熱が交換され、無秩序さが増大する。この無秩序さの増加を「エントロピー生成」と呼ぶ。古典的な系では、この過程を繰り返し観測し熱の流れを測定することで、各試行で生成された無秩序さ、つまり確率的エントロピー生成(SEP)を計算できる。エントロピー生成を計算する方法は3つあり、通常の条件下では結果は同じになる。

 しかし、量子の世界ではこの計算が複雑になる。量子系には「非可換」というものがある。これは、測る順番によって結果が変わってしまう性質のことだ。例えば、粒子のスピンを測るとき、縦方向を先に測るか横方向を先に測るかで、結果が変わってしまう。

 研究チームは、この非可換性を持つ荷電量を使って系の変化を測ると、今まで同じだと思われていた3つの計算式が、違う答えを出すことを発見した。この違いは、量子の世界では同時に正確に測定できない量があるという原理(不確定性原理)に関係している。

 さらに、特定の条件下でエントロピー生成が負の値や虚数になることがある。これらの値は重要な意味を持つ。例えば、負のエントロピー生成は、量子系の初期状態に特殊な重ね合わせがあることを示し、時間の矢が逆転したかのような効果をもたらす可能性がある。虚数のエントロピー生成は、量子測定の文脈依存性という非古典的な性質を示唆している。

 研究チームは理論的な証明だけでなく、コンピュータでのシミュレーションも行った。さらに、実際の実験でこれらの現象を確認する方法も提案している。

 この研究は、量子システムのエントロピー生成の新たな側面を明らかにし、将来の技術の性能に影響を及ぼす可能性がある。例えば、これらの知見を利用して量子エンジンの効率を向上させられるかもしれない。

 Source and Image Credits: Twesh Upadhyaya, William F. Braasch, Jr., Gabriel T. Landi, and Nicole Yunger Halpern PRX Quantum 5, 030355 - Published 23 September 2024

 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

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