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有名コンサルでの業務経験が裏目に──上場AIスタートアップCEOに聞く、創業の辛酸

ITmedia NEWS / 2024年11月19日 18時15分

 開発にあたっては、スタートアップの王道ともいえるリーンスタートアップの手法を採用。顧客へのヒアリング目標件数を設定し、仮説検証を繰り返し、事業アイデアを可視化する「リーンキャンバス」も作成した。しかし、この周到な計画も現実の前には無力だった。設定した検証件数に到達することすらできず、基本的な市場検証の段階で行き詰まってしまう。

 状況が深刻化するにつれ、創業メンバーの間では重い空気が漂い始めた。全員が前職を持ちながらの兼業でスタートしていたことが、かえって冷静な判断を可能にした。事業継続の是非を問う議論も持ち上がった。

 「コンサル時代はある種、頑張ってひねり出せばなんとか成果を出せると思っていた」と椎橋CEOは当時を振り返る。「不確実性が実際の事業に比べると小さい。パワポを書くのに不確定要素はない。ところが事業は自分がコントロールできる部分はほんの少ししかない」

 さらに、組織に関する気付きも得た。大企業では組織が整然と動いていたが、スタートアップではその強制力が明示的ではなくなる。初期の探索フェーズでは、自分自身にも計画の内容に意味があるのか確信が持てない。計画の意味自体を疑問視してしまい、それが時として言い訳にもなっていった。

 結果として、具体的な行動目標すら未達に終わった。計画自体が正しいのかどうかも分からない不確実性と向き合いながら、それでも前に進まなければならない。この矛盾との格闘が、創業期の本質だった。

 この経験は、その後の同社の経営に大きな影響を与えることになる。不確実性を前提とした意思決定の仕組み、小さな成功体験の積み重ね、そして何より正解のない問いに向き合い続ける覚悟──これらは、苦しい時期に得た貴重な教訓になったという。

●「売れる」という幻想 創業初期の苦悩

 椎橋CEOはもう一つ、創業期に直面した“現実”について語った。イノベーションに積極的と知られるとある大手消費財・流通関連企業との商談は、椎橋CEOにとって忘れられない経験だったという。BCG時代、同社のビッグデータ解析プロジェクトでマネジャーを務め、チャレンジ精神旺盛な社長とも親密な関係を築いていた。プロジェクトでは一定の成果を出し、データからインサイトも得られていた。

 「プロジェクトマネジャーとして深く関わり、データの可能性を実感していた。ただ、コンサルタントの仕事は結果を出して終わり。その後の実装まではやらない。せっかくの分析結果も、実際のビジネスで使える状態にはなっていなかった」と当時を振り返る。

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