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「攻めた設計」の結果か JAXA「SLIM」総括会見で明かされたスラスター脱落に至った推定シナリオ

ITmedia NEWS / 2024年12月26日 21時7分

「攻めた設計」の結果か JAXA「SLIM」総括会見で明かされたスラスター脱落に至った推定シナリオ

SORA-Qが撮影したSLIMの写真

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は12月26日、小型月着陸実証機「SLIM」のプロジェクトを総括する会見を行い、着陸直前に起きたメインエンジンのトラブルについての調査結果を公表した。

 2023年9月にH-II Aロケット47号機で打ち上げられたSLIMは、月への行程と周回を経て、今年1月20日に月面着陸に挑んだ。着陸シーケンスは順調にこなしていた。

 しかし月面から高度50m付近でトラブルが発生。2つのメインエンジンのうち1つのノズルが脱落し、合計推力が突然55%まで落ちた。その結果、SLIMは目標地点から東に60mほど流され、逆立ちした状態で着陸した。

●攻めた設計が原因に?

 SLIMは、推薬(燃料)なしの状態では約200kg。プロジェクトリーダーを務めたJAXAの坂井真一郎マネージャによると「これまでに月着陸に成功した中では、おそらく最軽量の探査機」だという。軽量化のために「攻めた設計」が行われており、その中には「ブローダウン方式」と呼ばれる燃料供給方法が含まれていた。

 ブローダウン方式とは、燃料を消費するとともに徐々にエンジンへの燃料供給圧力が低下していく方式のこと。供給圧を一定に保つ「調圧方式」のほうが一般的だが、調圧装置やタンクなど必要な部材が増え、探査機が重くなってしまう。

 トラブル発生時も燃料の供給圧はかなり低下していた。そこにメインエンジンの噴射タイミングと12個の補助スラスターの噴射開始が重なり、メインエンジンへの供給圧はさらに低下。メインエンジンは着火できず、供給された燃料がエンジン内に滞留した状態になった。

 約1秒後、補助スラスターが噴射を終えると燃料供給圧が回復し、メインエンジンに着火した。しかし滞留していた未燃の燃料にも引火した結果、過大な“着火衝撃”が生じ、一方のノズルが脱落してしまった。

 以上のシナリオは、SLIMの推進系を再現した数値解析モデルや着陸効果時のテレメトリデータなどの評価により、その妥当性が確認されているという。

「今回得られた知見は、今後のプロジェクト等で適切に参照される必要がある。JAXA安全・信頼性推進部を通じてJAXA内および関係するメーカーへの情報展開を始めている」(坂井マネージャ)

●「SLIM」が成し遂げたこと、そして今後

 目標地点から60mほどずれたとはいえ、SLIMはそれまでの数km~十数kmの着陸地点精度を100mオーダーに引き上げることに成功。当初から目指していた「従来の『降りられるところに降りる探査』から、『降りたいところへ降りる探査』へのパラダイムシフト」を実現した。

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