【少年法厳罰化は何の解決にもならない】~川崎市中1殺害事件~
Japan In-depth / 2015年3月11日 14時30分
「川崎の事件を見聞きするたびに、息子とダブって苦しい」
ある女性から連絡が入った。福岡県飯塚市の古賀和子さん(64歳)だ。17年前、長男で高校2年生だった洵作(しゅんさく)さん(当時16歳)を、いじめによる自殺で亡くした。洵作さんは同級生グループから日常的に金をせびられ、暴行を受けていた。
川崎の事件と洵作さんの事件は、17年という時を隔ててなお、共通する点が複数ある。川崎の事件では被害者と加害者がLINEでつながっており、「子どもの人間関係が見えなくなった」と世間は騒いでいる。だが98年に発生した洵作さんの事件でも、普及間もない携帯電話を使って恐喝が行われ、親は気付けなかった。当時から既に、親が我が子を取り巻く世界を把握することは、困難になっていた。
また、川崎の事件の被害者は、加害者からひどい暴行を受けても、親には打ち明けなかったという。洵作さんも親には何も言わないまま、自らの命を絶った。「心配をかけたくない」との思いや「哀れまれたくない」とのプライドから、子どもは平静を装う。「洵作も自殺しなければ、あのまま誰にも言わずに我慢して、そのうち殺されていたと思う」と古賀さんは振り返る。
いじめ事件では、「親が気付け」「相談しろ」と被害者側に求めるだけでは無理があることは、17年前からわかっていたはずなのだ。それでも川崎の事件の発生を防げなかったのは、私たちの社会が、他に有効な対策を打ち出せずにきたということだろう。
では、有効な対策とは何か。与党が検討の姿勢を見せている少年法の厳罰化だろうか。古賀さんも息子が自殺した当初は、加害少年たちを死刑にしてほしいと思っていた。だが時を経て、子ども達の置かれている環境を考えるようになったという。「川崎の事件の報道によれば、リーダー格の少年は中学生の頃から荒れていた。人間形成が出来ていなかったのが原因ではないか」。
子どもはある日、突然変異で凶暴になるわけではない。川崎の事件の場合、日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれたリーダー格の少年は、ハーフであることを理由に小学校時代にいじめを受け、素直だった性格がグレ始めたという。
父親から暴力を振るわれていたことや、万引きなどへの罪の意識が薄かったことも報じられている。私たちの社会にある移民への差別意識やDV、無関心が、1人の子どもを加害者に育て上げてしまった可能性は否定出来ない。「被害者が皆から慕われていてムカついた」と供述している少年。自分は除け者にされてきたのに、との悲痛な叫びの裏返しにも聞こえる。
いつになったら、息子のように苦しむ子どもはいなくなるのか。大人に出来ることは何か。古賀さんは自問自答している。「少年法を厳罰にしても何の根本解決にもならない。大人がもっと子ども達のことを知って、罪と罰についても教え、人間形成をやり直してあげるのが先だと思います」。
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