[田村秀男]【チャイナ・マネーで軍拡続ける中国の脅威】~人民元が第3の国際通貨に?~
Japan In-depth / 2015年3月10日 23時0分
北京では毎年恒例の全国人民代表大会(全人代、共産党が仕切る国会)が5日から17日までの日程で開かれている。会議の冒頭で、中国の2014年の国防費が前年比12.2%増と発表された。経済は停滞しても、軍拡の支障にならないようだ。
軍事費膨張を可能にしているのは、中国の通貨制度である。中央銀行が供給する資金は「マネタリーベース」と呼ばれるが、党が支配する中国人民銀行は流入するドルなど外貨を商業銀行から買い上げ、マネタリーベースをその分増やす。
08年9月のリーマン・ショック後、米国連邦準備制度理事会(FRB)は3度にわたる量的緩和(QE)に踏み切り、14年10月のQE終了時点で、リーマン前に比べたドルの資金供給(マネタリーベース)残高を4倍増やした。
ドル資金の増加相当額にほぼ見合う外貨が新たに中国に入り、人民銀行はやすやすと米QEによるドル増加額並みの人民元資金を追加供給してきた。中国のマネタリーベースは14年末、リーマン前の07年末に比べてドル換算で3.4兆ドル増えた。この間のドルのマネタリーベース増加額は3.1兆ドルである。
国内総生産(GDP)規模が米国の半分程度の中国が米並みに資金を大量増発すれば高インフレになりそうなものだが、現実には低インフレ率にとどまってきた。「管理変動相場制」のもとに外為市場操作を行い、人民元の対ドル相場を日々、上下それぞれ前日比2%の変動幅に抑えている。通貨が安定すれば、輸入物価も安定する。
商業銀行につぎ込まれた人民元資金は不動産開発向けなどに融資され、さらに預金となって銀行に還流し、銀行は新たに融資するという「信用創造」が活発になる。人民銀行が資金を1供給すると、現預金はその5倍以上増えている。
その比率は「信用乗数」と呼ばれるが、最近のデータでは日本は0.4、米国は1程度である。中国のマネーの増殖力は図抜けている。中国の現預金総額は昨年末で2兆ドル強(約2400兆円)で、実に日本の3倍、米国の1.7倍に達した。
人民元は外為市場で超安定だから、外国の企業や金融機関も好んで人民元での取引を拡大する。人民元の外部への持ち出しは一般には制限されているが、特権を持つ中国の国有商業銀行や国有企業は香港を足場に人民元資金をフル活用できる。香港の中国系銀行と香港上海銀行など外銀大手は外貨と引き替えの人民元の多くを中国本土に還流させる。巨額の人民元資産が海外に蓄積されると、自由な人民元市場が本土外に成立する。それを防いでいる。
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