[古森義久]【摘発!中国“出産旅行”ビジネス】~米で出産、子に米国籍~
Japan In-depth / 2015年3月16日 7時0分
アメリカでの中国パワーの膨張は目ざましい。私の駐在する首都ワシントンでも政治や外交面での中国系勢力の活動がダイナミックに展開され、かつ拡大している。アメリカの他の地域では経済や金融での中国パワーの広がりが伝えられる。そんななかで西海岸のカリフォルニア州では中国女性にアメリカで子供を産ませ、アメリカ国籍を取得させるという特殊な「出産旅行」の巨大な組織が摘発された。いま広がる米中関係の特異な一面ともいえそうだ。
アメリカの複数メディアの報道によると、アメリカ政府の出入国管理局、国土安全保障省、国税庁などの合同捜査班が3月上旬、ロサンゼルス地区の中国系旅行企業の「ユーウィン・バケーション・リゾート」「スター・ベビー・ケア・センター」「USAハッピー・ベビー・インク」の3社のオフィスや関連施設数十箇所に強制捜査をかけて、証拠多数を押収し、関係者らに出頭を求めた。違法入国、脱税、詐欺などの容疑だという。
当局の発表によると、これら3社はいずれも中国の富裕階層の女性を対象に妊娠中にアメリカに入国し、出産をして、その子供にアメリカ国籍を取得させて、また中国にともに帰国させるという旅行プランを提供してきた。中国女性たちはみなアメリカ当局から正規の観光ビザを取得して、入国し、3ヶ月から6ヶ月、滞在する間に出産をすませる。中国国内ではこれら企業は非公式のルートでこの「アメリカへの出産旅行」を宣伝し、一人当たり5万ドル(約600万円相当)の費用ですべての世話をすることを約束して、客を集めていたという。
アメリカでは自国内で生まれた人間はすべて米国籍にするという属地主義を取っており、米国籍となれば、12歳までの無償教育や福祉を受ける権利が生まれるほか、外国にいても21歳以上になれば、外国籍の家族をアメリカに移住させる保証人としての権利も与えられる。中国側ではこの諸点を利用し、自分の子供の米国籍を使って、両親や兄弟姉妹がアメリカに移民として入国することなどを狙うのだという。
今回の摘発を受けた3企業はいずれも妊娠を隠しての観光ビザの取得方法やアメリカ入国の際の手続き、入国後の生活や出産手続きなどの一切を手配することで多額の利益を得てきた。そのうちの1社だけでも、近年に少なくとも400人の中国人の子供をアメリカ国内で出産させ、母親とともに無事に中国に帰していたともいう。
こうした現象も超大国としてのアメリカの魅力の例証だともいえるが、その一方、中国側で自分たちの子供にアメリカ国籍を取らせて、アメリカとのきずなを深め、それを利用してアメリカの内部にまで食い込んでいくという傾向の表れでもあろう。中国政府が果たして関与しているのか、黙認しているのかは不明だが、中国側の対米政策の一環としてみても、まちがいではなさそうだ。
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